放課後児童クラブにおける子どもを狙った犯罪行為。理解されていない2つの点。業界もメディアも残念。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。沖縄県の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)で起きたクラブ職員による子どもへの性加害について沖縄県警が余罪で再逮捕したという報道がありました。改めて運営支援の立場で、必要なことを訴えます。(児童クラブの運営形態に関する利点、不便な点の第3弾は後日取り上げます)
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道内容から考える重要な点>
 「元学童支援員の男を再逮捕 女児2人へのわいせつ疑い 沖縄県警」と見出しが付いた琉球新報10月22日10時50分配信の記事を一部引用します。
「再逮捕容疑は2023年1月ごろから12月ごろまでの間に、13歳未満であることを知りながら女子児童2人にわいせつな行為をした疑い。県警は、放課後児童クラブの活動時間内に男が児童にわいせつな行為をしたとみている。9月に逮捕した事案の捜査を進める中で、別の児童2人にもわいせつな行為をした疑いが強まったとして再逮捕した。」(引用ここまで)
 (※無罪推定の原則はどのようなひどい犯罪行為でも当てはまります。許せない、被害者がかわいそうだ、などと思う感情とは別に、裁判で有罪判決が下されるまで被疑者、被告人は「犯罪者」ではないということです。) 

 さて私が気になる点を挙げます。
・再逮捕の容疑にかかる犯行推定の期間が2023年1月から12月、つまり1年間となっていること。
・活動時間内の行為である可能性が高いこと。

 これらは何を意味するのかです。
前者はいくつかの理由が考えられます。記事は警察発表を基にしているので、警察発表の通りに表現した結果であることは間違いないのですが、「捜査上の秘密を守るためあえて被疑容疑が行われた日時をぼかして表記した」、「捜査の結果、本当に1月と12月に被疑事実がある」、そして「被疑者や被害者の供述からでは被疑事実を何月何日とまで特定できず、最大限の範囲で特定すると1月から12月もの間になる」ということです。また、これは考えたくないですが、「1月から断続的あるいは継続的に12月までの間、ずっと被疑事実が繰り返されていた」であれば、誠に残念で由々しき事態です。なお、再逮捕にしろその後に起訴、追起訴されるにしても、仮に1年間にわたって数えきれないほどの犯行があったとしても、同種の事案であればすべてにおいて証拠を固めて立件することはしません。
 しかし、記事を読むとさらっと流してしまいがちですが、現実に性犯罪の被害を受けた子どもがいること、それも1年間という長い間にわたっていたという可能性を考えると、これは防がなければならなかった事案であると激しく残念です。

 さて後者ですが、これはもう運営支援においては残念すぎます。活動時間内ということは被疑者以外の職員も同じ場所で仕事に従事していたでしょう。子どもも被害に遭った子以外にも多くの子どもがいたでしょう。その時間帯に(しかも最大1年間にわたる長期間の可能性あり)犯行が繰り返されていたとするなら、「どうして誰も気づかなかったのか、異変を感じなかったのか」が、本当に悔やまれますし、いや、「気づかない、異変を察知できない職場環境がそもそも失格であり、そのような職場環境を構築していることを容認している事業者の運営姿勢が大問題で、失格」というのが、運営支援の見解です。

 この報道を受けてわたしは改めて「再発防止のための状況の公表の必要性」と「日本版DBSは主に再犯を防止する制度であり、初犯を防ぐ効果が中心ではない」ことの2点がどうも理解されていないと感じています。

<どういう状況だったのか公表せよ>
 長期間にわたって、児童クラブの開設時間内に、子どもに対する犯罪行為が行われていたとするならば、「どうしてそのようなことに事業者は気付かなかったのか」を問わねばなりません。どんな条件、環境であれ、違法な行為、犯罪行為についてはそれを犯した者が罪を償う、責任を負うことは当然ですが、事業者(それは同じ場所で働いている同僚も含む)は使用者責任を問われますし、それはつまり、違法な行為や犯罪行為を起こさない、防ぐために事業者はどのような対策、配慮をしていたかが問われるということです。職員への教育、研修は徹底していたのか、子どもへの卑劣な犯行を誘引させかねない職場の環境を改善するなどの対策を講じていたかどうかもまた、問われるのです。

 こういう残念な状況になると、報道があって、逮捕された者が非難される、その繰り返しです。確かに個人で行う犯罪行為はその個人が責められる状況はありますが、私がいつも残念なのは、「どういう職場の環境だったのか。職員の配置体制は、勤務体制は、現場の建物の配置状況は、職員と子どもが2人きりで行動することを許容するような職員行動規範だったのか、職員の研修や教育についてどのような内容をどの程度行っていたのか、子どもたちには意見表明についてどれほど説明して理解を求めていたのか」という、つまり業務上において違法な行為を起こさないこと、防ぐこと、早期に発見できる工夫を採用していること、あるいは起きてしまったとしたらいかにして速やかに損害を回復させること、という点において、事業者がどのような施策を講じていたのか、まったく分からないことです。

 つまり運営支援がかねて主張している「早期発見行動」についてどのような実践がされていたのかが、まったく分からない。報道機関は事件そのものは報じますが、得てして、どのような土壌があったのか、背景事情があったのかまでは滅多に報じません。業界団体はおよそ沈黙を決め込みます。

 何も、現場となったクラブ名や法人名の固有名詞を求めているのではありません。(ただし、広い地域で多数の児童クラブを運営している広域展開事業者であれば、クラブ名の公表は不要ですが企業名だけは公表されるべきです。個人が特定されかねない1クラブ1とは状況が違います)「どうして、残念な行為が起きてしまったのか、その要因を考察するために、当時の状況を公表することで、他の地域において、同種の残念な犯罪を防ぐために資する」ということです。

 本当にこの国の児童クラブにおける、あってはならない人権侵害事案を防止するには、その土壌となる要素を指摘し、その土壌を改善することです。その観点が業界にもメディアにも見られないのがはなはだ残念でなりません。被害に遭われた子どもたちに本当に申し訳ないと思うなら、同じようなひどい目に二度と子どもたちが遭わないようにすることが、業界や行政、メディアの責務ですよ。

 ちょっと話がずれますが、児童クラブの世界は極めて閉鎖的です。ある特定の事由、それは「保護者運営こそ理想脳学童保育」という事由でのみ連携、交流する団体はありますが、では「育成支援の実態、手法、問題点」や「運営面での実態、手法、問題点」について他地域、他事業者と交流したり意見交換したりということは、業界団体が設定する場以外において、恒常的に行われているとはとてもいいがたいものがあります。
 私は、この点について次のように考えています。「児童クラブは地域ごとに独自の運営形態を確立している、つまり強固なガラパゴス進化を遂げているので、他事業者との交流や意見交換について物見遊山程度であり現実的に事業の改善に役立つものではない」。また「交流を求める声は保護者運営系のクラブや公営クラブで働く職員や保護者にあるが、声を上げるのは時間的かつ心理的に余裕のあるごく一部の人だけで、運営や現場の人もほとんどが忙しくて交流する時間も余裕も感じない」ということがあるでしょう。なお「株式会社運営のクラブは他事業者、他社との交流を原則的に認めない。(これは自社のひどい内容がばれるのを防ぐためかと勘繰っています)」
 放課後児童クラブ運営指針は、すべての児童クラブにおいて将来的に目指す到達点との位置付けです。現状はどのクラブもすべてバラバラな場所に、理念のもとにある、ということを考えると、バラバラに運動してきた全国の児童クラブが将来的に運営指針が掲げる事業内容を実施するというゴールを目指す動きを取らせる狙いがある、というのは合理的です。惜しいのは、それもまた任意であるということ。よって、参考にすらしないという事業者が実に多いという現実が生じてしまっています。

<いまだ残る、日本版DBSへの誤解>
 この再逮捕の報道でも、その前の最初の逮捕の報道でもありましたが、ニュースを伝えるSNSのコメントに、日本版DBSの導入が必要だ、とする内容が多くありました。つまり、日本版DBSのことがいまひとつ理解されていないということですね。

 もっといえば、「日本版DBSが(児童クラブなど)子どもへの性犯罪を防ぐための万能カードとして誤解されて理解されている」ということです。日本版DBSが導入されればこのような事案は完全に防げるという理解がかなり広がっているといっていいでしょう。

 日本版DBS、つまりこども性暴力防止法が目指すところは、過去に一定限度以上の性犯罪を行った者が再び子どもと関わる職場で勤務することを防ぐことが最大の目的です。「初犯防止」ではなく「他事業者での再犯防止」を目的としていることです。もちろんそれだけでなく同法対象の事業者に性犯罪が起きないような教育研修の徹底をも事業者に求めているので、そのような環境設定によって初犯の防止もある程度は期待することができるでしょうが、初犯を防ぐことが日本版DBSではない。それについては国、行政の広報周知が足りていないようです。児童クラブ事業者においてもそれほど興味が向けられているとは感じられない点も私には残念です。

 児童クラブでの残念な違法行為は徹底して防止しなければなりません。まずはクラブの設置者、管理者である市区町村や、市区町村を指導する都道府県が、児童クラブにおいてどのようにしたら職員による違法行為、犯罪行為(それは子ども対象だけでなく同僚や組織に対する行為を含む。性犯罪だけでなく窃盗や横領なども含む)を起こさない、あるいは起きてしまったなら早期に見つけ出すことを旨とする「早期発見駆動」の重要性を理解し、児童クラブの運営事業者にその徹底した理解と実践をさせることです。そして必要な施策の実践のために、予算を惜しまず付けることです。都道府県や市区町村は、職員や運営に当たるクラブ事業者、経営者を対象にした早期発見行動の理解を求める講習、研修を徹底して行ってください。

 <おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、アマゾンや楽天ブックスが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください!事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中です。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説になりそうです。放課後児童クラブを舞台にした小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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