放課後児童クラブと保護者との関係とは。保護者は「お客さん」なの?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)と保護者との関係は、一筋縄ではいきません。どのような関係がいいのか考えます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブと保護者との関り>
 放課後児童クラブには必ず保護者が関わります。児童クラブと保護者との関わり方を大きく分けると次のようになるでしょう。
・児童クラブに通う子どもを監護、養育する者としての立場として、保護者会を通じたり職員に意見を述べたりすることで、児童クラブにおける子どもの育ちに関わることができる立場。
・児童クラブに子どもを通わせることで、児童クラブが提供する児童福祉サービスを享受する立場。
・児童クラブの運営主体が保護者会の場合は、児童クラブの経営者かつ運営責任者として業務を執行する立場。

 この中で、私は何度も主張しているように、運営者として児童クラブに保護者が関わることは、もはや時代にそぐわない、早く取りやめるべきだと考えています。児童クラブが提供する育成支援という事業は、本来は専門的な内容であることや、現在の労務や法務に対応するためにも、児童クラブには「プロの経営者」が必要であるということです。何より、児童クラブで万が一の不祥事が起きた場合、利用者である保護者が運営者として損害賠償責任の矢面に立たされるということは、そのリスクを理解して運営を引き受けた者以外、あってはならないことだからです。よって、「私は保護者の立場で運営に関わりたい。そのためにはどんなリスクも受け入れる」という方以外は、児童クラブの運営に関わるべきではないということです。

 さて、それから考えると、児童クラブと保護者との関りは、クラブにおける子どもの過ごし方に関わることができる立場と、クラブが提供する児童福祉サービス(育成支援が主なもの)を受ける立場の2つとなってきます。前者は、利用者であり、かつ、クラブで営まれる運営について関わろうという意識をもって、クラブにおける子どもの生活、子どもの育ちに、保護者としてその考えを及ぼすことができます。
 後者は、利用者としての存在となり、クラブが提供する児童福祉サービスについて利用者の立場として満足するか、満足できないかでクラブの価値を判断することになります。クラブに関する意見は、利用者たる自らが満足できるか、望んでいるか、または満足できないか、望んでいないかによってその内容が大きく変化します。とりわけ、「満足できない、望んでいない」内容の意見となった場合、それはクレームという形でクラブに向けられることになるでしょう。

<児童クラブにとって、保護者との関わり方で望ましい形とは>
 児童クラブ側からすれば、自分たちの行っている事業の質を上げる、つまり利用する側(その一番手は、もちろん子ども)にとって質の高い児童福祉サービスを享受できるようになるためにも、保護者には、改善点を含めて意見を言っていただけるほうが本来は望ましいのです。そこに、事業の質を高めるヒント、これまで行ってきた事業の改善点を把握することができるきっかけが、含まれているからです。保護者、すなわち直接的に運営に関わっていない第三者の視点から寄せられた意見は、事業の質の向上に極めて重要です。
 事業の質の内容が高まることは、事業の安定性に直結し、事業体の安泰につながりますから。児童クラブの経営者、事業の運営責任者のみならず現場のクラブ職員にとっても、「クラブにおける子どもの育ち、過ごし方」について「保護者が意見を出してくれる」ことは、何よりありがたいことのはずです。
 仮に、保護者の意見が邪魔だと思う支援員がいたり、クラブ運営事業者があったりするなら、それは「自分たちがやりたいように、やりやすいようにクラブ運営をしたいだけ」であり、そこには事業の質を改善しようという意識が皆無であるということであり、事業の対象者である側の最善の利益を考慮する姿勢は感じられないということになります。
 (事業者が、業務効率一辺倒の、徹底的にコストを削減した事業遂行マニュアルを定めて事業を行っている場合は、必ずしも保護者の意見は有益にはなりません。マニュアル外の対応はコスト増を招くからです。そのようなマニュアルでしか子どもの育ちを捉えてクラブ運営をしている事業者は、育成支援で社会に貢献したいから放課後児童クラブ事業を営んでいるのではなく、放課後児童クラブ事業が補助金から利益を吸い上げる、公金チューチュー、補助金チューチューが容易だから営んでいるという事業者といえるでしょうね)

 当然、一方的に、利用者としてしか存在していない保護者から寄せられる、「保護者が自分だけの利益を考えて発する意見」については、児童クラブはその扱いに困ります。その意見を受け入れなければ、さらに保護者は不満を募らせるのですが、その意見が児童クラブが行っている、あるいは目指している事業の方針や目標と必ずしも一致しないからです。むしろ一致しないことが多い。もっとも、その図式の場合、すべてが保護者のわがまま、クレームということと判断はできません。その点は留意が必要です。クラブ運営事業者側が、その意識や事業運営方針において時代にそぐわない、法令の解釈を誤っているという可能性は、ごく普通にあります。
 例えば、保護者から「夏休みの朝8時のクラブ開所では仕事に間に合わない!7時半に開所してほしい」という意見が多数寄せられても、「子どもは少しでも親と長く一緒に過ごせることが幸せなのだから、30分開所を早めるのは、子どもの最善の利益に反している」という意見でとりあわないとしたら、それは、子どもの最善の利益の解釈を取り誤っています。児童クラブの設置目的である、保護者の就労(等)を支える目的も、果たせていませんよね。ですから、完全に利用者でしかない保護者が児童クラブに向ける意見、クレームのすべてが、児童クラブにとって取り合う必要がないもの、とはいえないことは押さえておきましょう。もちろん、度を越したクレームや一方的な要求は、いわゆるカスタマーハラスメントであり、場合によっては刑法に触れます。

<お客様にさせるか、させないか>
 児童クラブにとって、保護者が「お客様」=完全に利用者でしかない立場、となってしまうか、ならないでいられるか。児童クラブ「だけ」に、要因があると私は思いません。そもそも、今のこの世の中すべてが、カスハラ問題に象徴されるように、「常に利益を享受できる立場にいる自分」が幅を利かす世の中になってしまっています。
 また、児童クラブが「あって当たり前の存在」であり、「子育て家庭を支える、当然存在するべき社会インフラ」であるという理解が一般化すればするほど、いわゆる「ありがたみ」が減ります。滅多に手に入らない、滅多に受けられないサービスを受けている場合と、誰しもが当たり前に受けられるサービスを受けている場合、滅多に受けられないサービスには「希少性」ゆえに感謝の気持ちが多くなりますが、後者の場合は「こんな程度ですか?」と容易に不満が募るものです。まあ、児童クラブがあって当たり前の存在になることは、とても良いことなのですが。

 このような時代背景の中で、児童クラブの経営側、運営側、クラブ職員は、どうやって保護者を、クラブに関わらせることができるのでしょう。とても難しいです。それでも、児童クラブ側は、保護者をお客様にさせない努力を続けなければなりません。(児童クラブの世界は、真面目な人が多いので、100人の保護者がいれば100人とも同じようにそうあってほしいと願います。しかし、それは現実的ではありません。主義主張、価値観は、1人1人、違って当然だからです。100人のうち50人でも、共感を示してくれれば大成功だ、という理解でいましょう。どんなに頑張っても、数人程度は、絶対に理解を得られない人はいるものです)

 私はやはり次の事を、常に児童クラブ側が保護者に訴え続けること、保護者へ行動を起こすことが重要だと考えます。
・子どもの育ちについて最終的に責任を負うのは、保護者であること。
 (クラブに登所している時間帯における子どもの過ごし方、育ちには、児童クラブ側が責任を持つことは当然)
・その「子育ての責任」というものは、保護者「だけ」が苦労を負うものではないこと。その「苦労」を軽減するように努める立場が「児童クラブ」であること。
・子ども自身は常に自分のことを保護者に認めてほしいと思っている。その証左として、こういうことがあったという事実を保護者に伝えること。
・児童クラブが、子どもの生活の場、遊びの場、育ちの場としてふさわしい場であることを追求し続けるために、保護者の意見や感想(それは保護者を通じて得られる、子どもの意見や本音であることも、極めて重要)が、どうしても必要なこと。事業者本位では完全に追求できないことを率直に認めること。

 上記の事を保護者に訴え続けたとして、保護者にその重要性を理解してもらうには、ではどうしたらいいのか。それには、「いまの状態を隠さずに伝えること。状態とは、目に見える状況であり、子どもと職員の内面、すなわち思い、感情である。現実の共有」が最も重要だと、私は考えています。

 現実の共有として何が可能か。次回は、現実の共有として有効であり、私が大事に思う「おたより」について考えます。記者の視点で「読まれる、おたよりのテクニック」を紹介します。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、まもなく寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 親と事業者の悩みに向き合う」です。6月の下旬にはお買い求めできるようになるようです。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。およそ2,000円になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、あと1か月です。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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