放課後児童クラブと「児童福祉施設」との、あいまいな関係が労働時間の設定に影響を及ぼしている。要注意です。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は児童福祉法において、児童福祉施設と位置付けられてはいません。そのために、1週間の所定労働時間の設定に関してやっかいな事態を招いているのです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブの位置付け>
 放課後児童クラブの位置付けについてまずは説明します。この説明については、弁護士の鈴木愛子氏のブログに、理路整然と説明されていますので、ぜひご覧ください。
https://ameblo.jp/aikosuzuki-law/entry-12684132048.html
 いちおう私も説明しますと、放課後児童クラブは、「放課後児童健全育成事業」という名称が正式であって、語尾に「事業」とあるように、「地域子ども・子育て支援事業」の1つとして位置付けられています。この事業には、他にはファミリー・サポート事業や病児保育事業などがあります。一方、保育所は、「児童福祉施設」として位置づけられています。語尾に「施設」とあります。児童福祉施設は、児童福祉法第7条によって、保育所以外には児童厚生施設(児童館のこと)、乳児院や幼保連携型認定こども園など13の施設が指定されています。この13の中に、放課後児童クラブは存在していません。そもそも「放課後児童クラブ」という名称は児童福祉法に規定されている正式名称ですらありません。放課後児童健全育成事業を行っている場所を示すだけの言葉です。そうであっても便利な名称ですので行政の用語として定着しており、「放課後児童クラブ運営指針」はもとより、市区町村の条例や要綱においても一般的に使われていますが、「保育所」「乳児院」と同格ではないことは覚えておいてください。
 簡単にいうと、「事業」とは「行えば存在するが、行わなければ存在しないもの」であって、施設とは「設置するものであって、設置されている以上、その場を使って行われることが存在する」ということです。つまり、「事業は、あってもなくても構わない」であり、施設は「設置した建物を使って行わねばならないもの」です。

 よって、学童保育所、放課後児童クラブは児童福祉施設ですか?という質問には、「児童福祉法上は、違う」ということになります。

<1週間の法定労働時間について>
 ついで、働く時間、つまり労働時間について説明します。労働基準法第32条によって、使用者(つまり会社)は、休憩時間をのぞいて1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないと決まっています。この時間数を超える労働、つまり残業、時間外労働は本来、禁止されているのです。それを違反としないことがいわゆる「三六協定」というものです。そしてその時間=法定労働時間を超えて働いた人には割増賃金の支払が義務となります。

 ところでこの法定労働時間(週40時間)ですが、例外があります。「特例対象事業」といって、特定の分野のお仕事だけは、「常時10人未満の労働者を使用する事業場」であれば、週44時間の労働をさせてもよい、となっています。事業場というのは、支店や工場、営業所などのことです。例外ですから厳密に指定されています。
・「商業の事業」(小売、卸売、理美容業など)
・「映画・演劇の事業(映画の製作の事業を除く)」(映画館など)
・「保健衛生の事業」(病院、診療所など)
・「接客娯楽の事業」(旅館、飲食店、ゴルフ場など)

 この中の「保健衛生の事業」においては、保育所、児童養護施設、児童福祉施設、老人福祉施設などが含まれるとなっています。児童福祉施設も入っているので、幼保連携型認定こども園も含まれます。つまり、小規模の保育所で所長さん以下保育士さんたちを全部含めて10人に達しない(9人以下)の職場であれば、「週44時間まで働いても、残業代は発生しません」ということになるのです。

 ここで問題になるのが、放課後児童クラブです。放課後児童クラブは、先に記載したように、法令上は児童福祉施設ではありません。一方で、実情として、実際は児童福祉設に準じた扱いをされることが多いのです。例えば、特定建築物の扱いです。これは児童福祉施設に準じて厳しめの規制をしている地域が珍しくありません。しかし、厳密には放課後児童クラブは「放課後児童健全育成事業」であって「児童福祉施設」ではありません。この特例対象事業に含まれるか、含まれないかは、現実にグレーゾーンになってしまっています。同じ子どもを受け入れる仕組みの世界に入るものだから保育所と同様だと拡大解釈するか、保育所やこども園と実態は同じだからと類推解釈するか、いずれにせよ、文字通りで解釈する「文理解釈」では、放課後児童クラブにおいては児童福祉施設であると解釈できません。

 5月20日に私は「さいたま労働基準監督署」に電話で問い合わせてみました。折り返しの電話で告げられた回答には「調べてみたところ、こちら側で放課後児童クラブが特例対象事業に含まれるとした見解などは無い。どの業態が特例対象事業に含まれるかどうかは日本標準産業分類で判断しているが、放課後児童クラブはそこでも取り扱われいない。実態としては確かに保育所に似ているけれども、日本標準産業分類で明記されていない以上、こちらとしては、放課後児童クラブが特例対象事業に含まれるとは言えない」というものでした。担当者の口調からは相当、困っている様子がうかがえました。「時代に法律が追い付いていないのかもしれませんね」ともおっしゃっていました。

 インターネットを検索すると、小規模の放課後児童クラブが週の所定労働時間を44時間に設定している事業者を見かけることがあります。おそらく、就業規則を作成する際に、社会保険労務士や地元の労働基準監督署に相談した上で作成したのでしょうが、もしかすると、「放課後児童クラブは保育所みたいなものだな」と拡大解釈または類推解釈をして、OKを出したのかもしれません。

 しかし、厳密に、国から、放課後児童クラブは特例対象事業に含まれる旨の法令等の改正が行われず、「放課後児童クラブは特例対象事業に含んでよい」という通達や解釈がなされていない以上、解釈によっては「特例対象事業として扱ってはダメです」と国から判断される可能性を排除できません。仮に、今まで44時間で働かせてきたものが40時間に修正することを労基署や裁判所から命じられた場合、40時間の法定労働時間を超えて働かせた分の賃金および割増賃金の支払い義務が生じます。ことは、就業規則を変えればいいねだけでは済まされない可能性があるのです。

 まして最近は、小学校の統廃合で1つの小学校の児童数が増えており、同じく統合された放課後児童クラブの1つの施設に複数単位が設けられることが当たり前になってきました。この場合、1つの施設で10人以上の支援員、補助員が勤務することがあるでしょう。こうした場合、そもそも、常時10人未満という労基法の規定を超えますので、特例対象事業は適用できません。

<結局、あいまいな位置付けが混乱を招く>
 放課後児童クラブの位置付けが「事業」となっていることが問題です。もはや1年生の半数が利用する仕組みです。いまどき、それなりの人口のある地域で、放課後児童クラブがない地域は考えられません。それほど重要な社会インフラになっていながら、児童福祉法上の設置根拠が弱すぎる(市町村への設置義務すら無い)ことが根本的な問題です。それが意外にも、労働基準法の部分においてもグレーゾーンを招いていることにもなりました。

 国は直ちに、放課後児童クラブの設置の根拠を明確にするべきです。設置根拠を児童福祉施設として児童館と同格にし、設備基準も保育所同様に強化することです。「予算がかかる」から及び腰なのは納得できません。子どもの生命身体を守るべき場所に、カネをケチっては国の未来が損なわれます。むしろ、今後新たに設置される児童クラブの建物は厳しくなった規制のために余計にカネがかかるとなっても、いいじゃないですか。その分、潤う建築会社や内装会社があるので内需向上にもなりますよ。既存の施設の改修が必要となったら、それもリフォーム会社や建築会社を潤すことになります。もちろん対応する補助金の増額が必要ですが、児童クラブの運営をするだけで毎年200万円もの利益をそっくり手に入れる会社が生じるよりも、子どもの生命身体を守るために行われた工事で潤う会社が出るほうが、よほど「生きたカネ」の使い方になりますよ。

 週44時間の所定労働時間を設定している放課後児童クラブの事業者は、全国的に数は少ないとは思いますが、もし万が一、そうしていたらすぐに地元の労基署に相談してみることをお勧めします。仮に「問題ないですよ」と好意的に解釈されれば、しっかりとそのことを記録しておきましょう。ただ私は、そっと就業規則を変更することを強く勧めます。やはり、リスクは減らした方が良いですし、そもそも、労働者の労働時間は少ない方がよいのです。

<おわりに>
 放課後児童クラブの児童福祉施設化を求めるには、法改正が必要です。それには国会議員が正しく放課後児童クラブの実情や問題点を理解することが必要ですが、国会議員(もちろん、地方議員も)が問題意識を持つためには、有権者が問題意識を持つことが大前提です。有権者、まあつまり国民が問題意識を持つためには、メディアで繰り返し報道されることや、世間に発信力を持つ人の呼びかけなどが必要です。私はまったく単なる在野のたった1人の運営支援アドバイザーですが呼びかけを続けています。国民が「放課後児童クラブの位置付けは、おかしいよ」と疑問を持つようになるまで、1人でも多くの人が社会に発信しましょう。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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