放課後児童クラブで進むICT化。生産性向上には重要。でも、「相手の顔を見て話す」旧時代の方法も大切にしよう。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。電話、連絡帳など従来型の連絡手段が主流だった放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)ですが、企業や複数クラブを運営する事業者はアプリを活用した連絡手段を採用することが当たり前になってきました。いわゆるICT化ですね。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<ICT化とは>
 ICT化は時代の流れ、当然だよ、という声をよく聞きますが、まずそのICTって何よ、ということです。ICTとかウェルビーイングとかノンコンタクトタイムとかやたら略字、横文字をしたり顔で使う人が多いですが個人的には苦手です。それはともかくICTとは、「インフォメーション(Information )」、「コミュニケーション(Communication)」、「テクノロジー(Technology)」の3つの頭文字を組み合わせたものですね。以前は「IT(化)」といってITが多用されていましたがいつのまにかコミュニケーション、つまり交流の意味が付け加えられていました。

 放課後児童クラブにおけるICT化推進は、新型コロナウイルス流行期に始まりました。欠席の連絡や閉所の通知など膨大な情報のやり取りが必要となる中で、電話やメールでの連絡手段で限界を感じた事業者はきっと多かったでしょう。わたしもその1人でした。国(こども家庭庁)は児童クラブにおけるICT化推進で補助金を創設しましたし、今も続いています。ちなみに令和7年度概算要求にも「放課後児童クラブ等におけるICT化推進事業」として紹介されています。そこにある説明を抜粋します。 

(1)業務のICT化等を行うためのシステム導入
• 放課後児童クラブ等に従事する職員の業務負担の軽減等を図るため、保護者との連絡等の業務のICT化や、オンラインを活用した相談支援に必要なICT機器の導入等に要する費用を補助する。
• 都道府県等が実施する研修をオンラインで受講できるよう、必要なシステム基盤の導入にかかる費用を補助する。
(2)翻訳機等の購入
• 外国人の子育て家庭が気兼ねなく相談することができるよう、多言語音声翻訳システム等を導入するための費用を補助する。

 (1)は生産性向上そのものですし、(2)は外国人利用者とのコミュニケーションを支援するものですね。特に(2)は現場が切に必要としているものです。翻訳機が無い場合はクラブ職員が個人のスマートフォンで自動翻訳を利用することになり、職員個人への負担となっています。それが解消されるのですから、大歓迎です。
 ちなみに補助単価は、1か所(1クラブ)あたり、(1)が50万円、(2)が15万円です。この補助金を前提に、放課後児童クラブにICTを売り込む事業者は導入費用の設定などをしているようです。

<大事なこと>
 放課後児童クラブにおけるICT化推進では、上記の(2)を別として、次の業務が省力化、効率化できるでしょう。
・児童の出席、欠席の確認(出席表作成)。
・児童登所時の保護者への通知
・当日の登所児童数に関する情報集計。全体人数、学年別登所人数、個人別登所日集計、登所時刻、降所時刻
・職員の勤怠管理(出退勤時刻記録)
・職員勤務シフト作成
・オンライン研修、オンライン会議の実施

 児童クラブではとりわけ児童の所在確認が重要ですから出席、欠席の管理やその連絡は欠かせません。それを今までは児童クラブ職員が目視で確認し、紙の出欠表(もしくはタブレットに表示した出欠表)にそれぞれ職員が手入力で書き込み、のちほどそれを別の書式に集計、ということを毎日やっているものです。とても単純な作業ですが重要です。そして時間がどうしてもかかります。登所児童数が50人なら50回、同じ動作を繰り返すわけですから。
 それが、ICカードでタッチ一発で記録、集計できることがどれだけ省力化になるか言うまでもありません。クラブや本部のパソコンにデータが集計されるわけですからこれほど便利なものはありませんね。

 一方で、児童クラブの特に現場職員の中でICT化への心理的な抵抗は強いのも事実です。それは私が思うに2つの理由です。1つは単純に「新しい仕組みへの抵抗感=やり慣れた手法からの変更は新たな習得作業が必要=それが面倒だし、機器やアプリの使い方に抵抗がある」ことと、もう1つ、こちらが本音でしょうが「児童の欠席連絡を、保護者から対面で言われる、もしくは電話で告げられるとき、そのやりとりにおける相手の口調、息づかい、表情などから、保護者が何を思っているのかを推測できる、想像できる、あるいはその際にやりとりができることで、隠された本音があるならそれを想像することができる」という、「データのやりとりだけでは把握、想像ができない部分の情報」を知るきっかけが失われることへの抵抗感です。

 先に、ITからICTと、「C」が加わったことを記しましたが、児童クラブの現場における子どもの出欠管理1つにしても、その「C」、コミュニケーションの部分により重要性を感じて児童クラブの現場は働いている訳です。その部分が「省力化」されてしまうことへの不安があります。

 省力化による生産性向上は必須です。限りある予算の中で効率的に業務を実施するには欠かせません。出欠確認作業1つにしても職員がそれに費やす時間が20分間あったとして、それが5分で終わるなら残り15分間を子どもや職員との関わり、やりとりに使えるようになるなら、それこそ優先するべきです。
 一方で、児童クラブは、「人と人(の気持ち)が交わるところ、交流する場所」でもあります。それは交流が目的ではない。手段です。何の手段か。それは、「相手は、どんなことを思っているのか、感じているのか、何を本当なら言いたいのか、聞いてほしいのか」という、「人の感情、思い、情感」を感じ得るための手段です。「あす、子どもはクラブを休みます」という文字だけの通知と、保護者がクラブ職員に「あす、子どもはクラブを休みます」と告げた時の表情、息づかい、口調などから「あ、なにか不満があったのかな」とか「明日は何か楽しい出来事があるんだろうな」ということを想像し、直接「明日は何かいいことあるんですか?」と聞けるわけですが、その交流の機会が減ることでもあります。

 児童クラブ向けにICTのシステムを販売、開発する企業には、単に効率的な情報提供とデータ処理だけではなく、そういった、いわゆる人間くさい部分(これを「アナログ」というには抵抗がありますが)も、何かしら上手に反映できるちょっとした仕様を盛り込んでいただきたいと期待します。逆に申せば、その部分が充実したシステムであれば、より放課後児童クラブの現場で歓迎されるわけですし、導入する事業者あるいは既存のシステムから乗り換える事業者がぐんと増えるでしょう。

 児童クラブにおいては「人の気持ち、想い」を相互に伝えられる仕組みが、不可欠です。

<児童クラブ側にも>
 児童クラブ側の事情を最後に簡単に示しておくと、新しい機器を導入することがなかなか難しいものです。
・上記の、人と人との交流を重要視するあまりデータのやり取り(にしか見えない)ICT化にそももそ抵抗がある。
・比較的高齢な職員が多いことで、新しい仕組みを受け入れるのに柔軟な姿勢がどうしても持てない人がいる。
・残念なことに、雇用労働条件の問題から、新規作業手順をすんなりと理解できるだけの素質をもった人がそれほど多くない。
・そもそも運営に使える予算が少ないので導入に関しての予算が確保できない。ICT化補助金も市区町村が必ず採用してくれるとは限らない。市区町村(の財政当局の)判断、裁量による。クラブ担当課が希望しても財政当局で蹴られることはよくある話。

 これらは事業者が解決しなければなりません。ICT化は全体的に見ればメリットが大きいものです。特に児童の欠席連絡や登所確認については保護者の利便性や安心感を醸成するために必要です。事業者側も、クラブの児童がいつ、どのくらいの人数が登所しているかそのデータを蓄積して分析すれば、曜日や気象条件、学校のスケジュールなど他の条件を加味すれば、将来的な登所児童数や利用児童数のデータ予測ができます。それにより、必要な職員数の配置や行事の計画などが立てやすくなるはずです。長期的なデータ分析ができれば将来の入所児童数予測にもなります。途中退所、退会においてその理由も加味すれば、毎年何月ごろにこういう理由で退所、退会するものが多いということも把握できます。

 児童クラブ運営は、「去年は、その前から、ずっとこういうものだった」で将来を予測している運営方法が今なお主流であると私には感じられます。経験則、勘、に基づく直感的な運営です。それはそれで大事なことはあるにしても、データを分析して根拠のある予測を提示することで、例えば財政当局に新規の補助金を求める際の有力な手法を増やすことができるでしょう。その点、ICT化が急速に進みつつある今は、直感的な運営からデータに基づく運営への過渡期にあるといえるでしょうか。伝統的な人と人の交流を大事にしてきた事業者も、このICT化の時流に乗って行かない事には、残念ながら、そういうデータ的な、(見た目)論理的な事業経営の基盤が整っていないとみなされてしまい将来的に、市区町村から事業を任されなくなる可能性も視野に入れておくべきでしょう。

 そのためにも、ICT化推進の補助金は、3分の1ずつの補助金ではなく、導入初期にあったように国の10割負担は望めないとしても、もっと大幅に国の負担割合を増やしていただきたいと期待します。
 
<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)