放課後児童クラブで導入が進む昼食提供。その問題点が浮き彫りに。利便性向上だけを考えず、福祉の観点を持とう。

 放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)は2023年度から急激に昼食提供が進んでいます。2024年は相次いで昼食提供に関する報道がありました。その中で留意したい報道がありましたのでお伝えします。社会はここで改めて児童クラブにおける昼食提供について、その本当の必要性を考えるべきだと運営支援は提言します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道から>
 読売新聞オンラインが2024年11月28日16時50分に配信した、「夏休みの学童弁当の利用低調、お盆時期には利用0・7%に… 1食550~690円「高い」の声」との見出しの記事を一部紹介します。

「高松市の放課後児童クラブ(学童保育)の運営が民間委託されたことに伴い、受託事業者が今年初めて実施した夏休み期間中の弁当提供サービスの利用率が、0・7~4・7%だったことが市への取材でわかった。「料金が高い」「メニューが子ども向けではない」などの意見が寄せられたといい、市は「低調だった」として、事業者と今後の対応を協議するとしている。」
「市子育て支援課によると、受託事業者は市内全域に配送が可能という条件を重視し、大手外食チェーンの弁当配送サービスを採用。通常価格より40~100円割り引き、1食550~690円の5種類の弁当を、週ごとに注文できるようにした。」
「日ごとでは、夏休み開始後初の平日だった7月22日は4・7%にあたる児童187人が注文したが、お盆時期の8月13日には30人で0・7%にとどまった。」(引用ここまで)

 内容を整理しますと、「1食550~690円」であり、「週ごとの注文」(つまり、日単位での注文ができない?)、そして「盆期間中の利用率は0.7%」ということですね。この盆期間は、確実にクラブの登所児童も少ないので、登録児童数全員を分母として利用率をはじき出すとその割合は通常よりももっと低くなることがあるでしょう。

<値段とメニュー>
 記事によると、値段が高い、メニューが子ども向きではない、とあります。値段は550~690円です。値段が高いか安いかは、まず「児童クラブを利用する保護者の家庭がどう思うか」という観点で考える必要がありますが、おそらく通常なら期待値も込めて多くの人が利用する最初の週でも4.7%であったことを思うと、この値段が利用率の低さに影響している可能性はあるでしょう。10回利用したら5,500円ですからね。それを支払える保護者世帯もあるでしょうが、利用率が最初からヒトケタであることを考えると、ちゅうちょしたのではないでしょうか。なお値段については、弁当を提供する業者の事情も考慮する必要は当然あります。児童クラブが対象だから利益度外視で弁当を製造、提供してくださいとは民間の事業者である限り、求めることはできません。

 記事で紹介されているメニューは、「▽サバの塩焼き▽卵焼きうなぎのせ▽エビフライとアジフライ」です。小学生の児童だからといって毎回、鶏のから揚げ、ハンバーグ、卵焼き、ということではないにしろ、「卵焼きうなぎのせ」は、どうでしょうか、大人は喜ぶでしょうが子どもは?と私は率直に思います。児童クラブの子どもむけに別途、新たな献立を用意して弁当を製造することはとてもできないでしょうから、通常、その時期に販売しているメニューを基本的にそのまま流用することは当然、そうなるでしょう。

 値段にしてもメニューにしても、一般向けに商品を販売している事業者に対して、児童クラブだから十分な配慮をしてくださいとは、とても言えません。特別の配慮を求めるなら、それによって十分に利益が確保できる条件を提示しないと、弁当事業者が応じることはまったく期待できませんね。

 ここはやはり、児童クラブの側が対応することが必要でしょう。

<児童クラブで昼食を提供することの意味>
 保護者の利便性を向上させること、つまり保護者の子育てに係る負担を少しでも軽減することが児童クラブにおける昼食提供においては最も大事なこととして取り扱われています。子育て中の保護者にとって、少しでも「やる事」が減らせるならそれはどんなことでもありがたいもの。まして弁当作りというのは、それが得意な人や好きな人は一定数いるものの多くの保護者は「お金で解決できるなら、そうしたい。弁当作りに費やす時間と手間暇、あれこれ考える時間を、お金で交換できるならそうしたい」と思うものです。

 こうした考え方に、SNSやインターネットの掲示板には「弁当作りができないなら子どもを育てるな」「親としての責任はどこにいった」という意見が相次いで書き込まれます。個人がどう思おうとそれは勝手ですが、この国の社会の根底にはこうした「子育ては全てが親の責任だ」というあまりにも偏り過ぎた意見がいまだにこびりついて剥がれないのでしょう。私は子どもが学童保育所に通っていた時は弁当が必要なときは自分で作って子どもに持たせていましたが、仮に自分で弁当を作るよりも合理的に優れた昼食提供の制度があったならちゅうちょせず利用していたでしょう。

 保護者の利便性を向上させるという観点だけでは、「値段が高くても文句を言わず利用しろ。文句を言って利用しないならそもそも弁当が必要だと言うな。弁当業者がかわいそうだ」と、どんな値段でも買うべきだ、弁当が必要だと言ったのは保護者の側なんだから文句を言わずに買え、という偏った意見が相次いでわいてきてしまいます。

 児童クラブにおける昼食提供が、そもそも保護者の負担を減らしたいから、という理由だけである限り、この問題の解決は事実上不可能でしょう。値段の高さにしても、メニューにしても、弁当業者にしてみれば、利益が確保できるなら変えようがあるでしょうがその点の保障はありません。それを変えるには弁当業者に、値段を下げても、メニューを子ども向けに特別に準備するにしても、費用がかかります。その費用を誰かが出してくれる、つまり児童クラブの事業者や、市区町村が費用を出すということであれば、弁当業者が相談に応じる可能性はあるでしょう。

 しかし、単に保護者の利便性を向上するだけの目的で、児童クラブの事業者も、まして市区町村が公金を予算を確保して支出するのはありえません。弁当注文のシステム構築には市区町村が予算を組んで対応することはあるとしても、そもそも子ども食べる食事はその家庭の実費負担が当然であり、市区町村が弁当業者に補助を出すことは考えらない、のが今の常識です。無理もありません。

 私はその常識を変えろ、と言いたいのです。児童クラブで提供する昼食は単に保護者の利便性を向上するためではない。子どもに食を提供して健やかな成長を支えることは国、社会の責務であるという認識を確立することが大事であると訴えます。児童クラブを利用していない子どもとの差はどうするのだ、児童クラブの利用の有無で受けるサービスの差が生じるのはいかがなものか、という意見があるでしょうが、児童クラブの入所は保護者が選択できますから、昼食提供サービスを受ける受けないを含めて保護者が自由に選択した結果、ということでいいのではないでしょうか。

 児童クラブにおいて昼食を食べられることは子どもの育ちを支える上で重要なことだ、という観点を確立できれば、その昼食の提供に公費で補助をすることが可能となると私は考えます。完全に無料とする必要は当然ありません。児童クラブの利用料を何らかの基準で変動させているクラブが多いですが、その基準を準用するなりして、利用料の多寡に応じて昼食利用料を徴収すればいいでしょう。

 もっとも高い料金が適用される世帯にしても、1食200円程度であれば利用者は多くなり、その状態が安定することが想像できます。利用料が0円になるような世帯は昼食も0円とすることになれば、貧困世帯も安心して児童クラブの昼食を利用できます。

 学校給食が無い期間における貧困世帯のカロリー補給、栄養補給が問題になっています。第二次世界大戦後の欠食児童問題が再び発生しています。児童クラブにおいては、給食が無い期間の食事に困る世帯が入所さえしてくれれば、確実に、食を提供することができる、そのように国は制度を設計するべきしょう。

 児童クラブにおける昼食提供は、保護者の利便性を向上することを最重要とするのではなく、「子どもに、食を提供すること」を最重要課題として、定義しなおすべきです。その結果として保護者が弁当の準備から解放される副産物を生む、程度でいいのです。

 そのことを考えると、いまは迅速に昼食提供ができる仕組みとして弁当業者の利用を盛んにするとしても、いずれは、小学校の給食を提供する仕組みを活用したり、児童クラブに従事する職員数を増やして児童クラブの調理施設を拡充し調理に関する最低限の規定を整備したりすることで、児童クラブにおける自施設調理と提供の可能性を大きく広げる方向性に、国は進んでいただきたいと運営支援は考えます。

<メニューも工夫しよう。そして安全対策は厳密に>
 メニューを工夫するには弁当業者が対応できなければ意味がありません。これも、児童クラブに対して弁当を提供するサービスを行う事業者に対して、その分における配慮を国が検討するべきです。なお、児童クラブにおける昼食提供で宅配弁当業者を利用する際の不安点は、「その事業者がいつ、児童クラブ向けの弁当提供の商売を取りやめるかが分からない」ということです。今年の夏休みは利用できても冬休みは期間が短いからダメとか、来年の夏休みはとても儲からないからやりませんとか、継続性が不確実なのです。
 その点を補うことでも、国が何らかの配慮が可能であれば、弁当業者にも配慮を行うことができれば望ましい。もちろん児童クラブ側の利用率が劇的に上がれば、それによって弁当業者も確実に商売ができるのですから、特別な配慮がなくても児童クラブとの取引を続けるモチベーションにはなるでしょう。

 そうすれば、子ども向けのメニューでのお弁当づくりや、適時の配達も可能となるでしょう。小学生向けのメニューはなかなか難しいものです。保育所や幼稚園向けに弁当を提供している事業者と私はかつて協議したことがありましたが、保育所向けの弁当のメニューではなかなか学童期の子どもには、量も味付けもそぐわないと考えました。では大人向け、今回の高松市の事例はそうだったのかもしれませんが、大人向けですと、同じメニューで問題ない日があれば、「それは大人は喜ぶけど子どもはちょっと」というメニューも結構あったものです。しかも、味付けが濃い、揚げ物ばかりという難点は、弁当業者の商品では必ずついてまわるものです。

 小学生が楽しめる弁当の内容は、なかなかに難しい。それを弁当事業者だけに任せるのは酷です。しかし、利益が確実に確保できるという条件があれば取り組んでくれる可能性は高まるのではないでしょうか。

 アレルギー対応はどんな条件であっても絶対的に優先します。横浜市では弁当を提供した給食業者の不適切な業務で子どもに健康被害をもたらしたという言語道断の事例がありました。そのようなことはあってはなりません。児童クラブ事業者も市区町村も、弁当事業者にはアレルギー対応について最善の配慮を求めねばなりませんし、調理過程上におけるアレルゲンの混入(コンタミネーション)の可能性については児童クラブ側に明示しなければなりません。当然ながらサービスを受ける児童クラブ側、まして保護者も、しっかりとアレルゲンに関する情報を伝えることは欠かせません。

 これらの点でも、小学校の給食の調理提供の仕組みを活用することや、児童クラブの自施設調理において、より優れた対応が可能であると運営支援は考えます。特に自施設調理は、その児童クラブの子どもについてアレルギー対応がより直接的に確認できるので、より安全性が高まると私は考えています。

<余談ですが>
 児童クラブの運営を手掛ける企業、広域展開事業者には、給食調理や社員食堂の調理運営を手掛ける事業者が目立ちます。アウトソーシングという形で児童クラブの運営と親和性が高いからですね。最初に紹介した記事は高松市ですが、高松市の児童クラブを2024年度から運営することになった事業者はまさにその典型例です。今回の高松市の事例で弁当を提供した事業者名については私は知りませんが、児童クラブ向けに何か特別なサービスの提供を行ったのでしょうか。

 また、高松市で児童クラブを運営している広域展開事業者は今年度、グループ会社(というか親会社)と協業して児童クラブ向けの宅配弁当サービスを強化するとプレスリリースを出していました。その情報では価格帯は今回の高松市の事例と似ていますが、その新たに展開している児童クラブ向けの弁当提供が高松市でも行われたかどうかについては知る由がありません。

 私が思うのは、給食にしろ社員食堂にしろ、食事の調理提供を行うノウハウがある事業者が児童クラブの運営にも手を広げることはまったく問題がないにしても、そのような事業者が児童クラブに昼食やおやつを提供しようとしたときに、児童クラブの本旨である、子どもの健全育成の視点を最重要視せずに、単に食事提供サービスの事業の範囲内であれこれ考えることに終始しているとしたならば、いったい何のために児童クラブの運営にも手を広げているのか、を考えてしまいます。やっぱり、単に子どもをビジネスとしてしか考えていないのではないかと。いや、ビジネスとして児童クラブ運営に乗り出すことを全否定はしません。しませんが、児童クラブを運営している事業者が副業としても昼食提供を行うのであれば、児童クラブの事業の本旨に沿って、より子どもと保護者のために喜ばれること、子どもの健全育成のための利益になることを考慮して、昼食や、おやつの提供のサービスを付け加えてほしい、ということです。

<おわりに:PR>
 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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