放課後児童クラブで働く人は「自分たちを守ってくれるルール」、雇う側は「働く人を守るルール」を知っておこう
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所もおおむね該当します)の世界はいろいろな事業者が児童クラブを運営しています。働いている人と、働く人を雇う立場の人、それぞれに意識してほしいことは「ルールを知って、ルールを守っていこう」という考え方を身に付けることです。それは我が身を守ることを意味するからです。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<大事だと思う、その心構えから>
放課後児童クラブで働いている人、過去に働いたことがある人は、「働きやすい職場」というイメージを持っている人は決して多くないと私は感じています。実際、自身が運営法人の長を務めていたときには、常に改善ばかりを求められましたし、自分自身も改善点ばかりを何とかしようと思っていました。
まして、今急速に増えている、広域展開事業者による児童クラブで働いている人の中には、その事業者の「色」に染まっていない人にとってはとても窮屈で働きにくいという意見を持つ人がかなり多いのだろうと、弊会に寄せられる意見や情報から察することができます。
実は本日(2024年11月28日)、愛知県津島市で放課後児童クラブを指定管理者として一括運営しているNPO法人「放課後のおうち」の正規・常勤職員を対象に、わたくしが講師となって、働くことを考えてみようと、基礎知識講座を開催しました。
ですが、私が申しあげたのは、単に知識を覚えることではなく、どうしてこういう知識が存在するようになったのかを考えることの方が大切だ、ということです。こう伝えました。「ここにたくさん書いてある知識は、そのうち覚えたり知っておけばいいですよ。今日の夕方に忘れてしまってもいいんです。でも、労働のことや、子どものことに関してできた法律は、ずっと弱い立場であった人を何とか守ろうという先人たちの良心と努力と英知が現れた形であること。みなさんは児童福祉の世界で、子どもと、子育て中の保護者を支えるとても重要で崇高な仕事をしている。弱い立場にいる人を支える仕事をしているのですね。その弱い立場の人を支えようと人間が作り出した仕組み、知識を知っておくことはとても大事なことですし、それを活用できるようになったら、より弱い立場の人たちを支えられます。知識はいずれ身に付きます。なので今日は、弱い立場にある人たちを支えることの大事さを理解していきましょう」。
労働関係の法令は極めて多岐にわたります。それを児童クラブで働く人が全部理解しようというのは無理ですが、これだけは覚えておくといざというときに役立ちますよ、ということを、本日もそうでしたが、これからも折に触れて、児童クラブで働く人たちに伝えていきたいと私は考えています。それもまた、運営支援の大事な任務のひとつです。
なお、人を雇う立場の側には私は厳しいです。運営支援はもともと雇う側、つまり経営側に、もっとすぐれた経営運営を行っていただきたいという考え方です。初歩の初歩の労働関係の法令にすら興味がないようでは、児童クラブに関わる資格がありません。子ども、保護者、職員、そして組織という4つを守らねばならないのですからね。幸い、津島の児童クラブは職員の皆さんも、運営側で活動する人も、そして児童クラブを支えようと熱心に活動している保護者の方々も、児童クラブを管理監督する行政の皆さんも、常にもっと優れた良い方法があるはずだと、進取の気概にあふれています。他の地域の児童クラブにもきっと同じようなところはあるでしょうが、もっともっと増やしていきたいですね。
<具体的に伝えた点>
それをすべてここで紹介するには文字数の都合があるので数点だけ紹介しましょう。
(1)指揮命令下にある時間は、労働時間。
これにはいくつも裁判所で判決が出ていますが、よほどコンプライアンスが徹底している(大・有名)企業はともかく、児童クラブの世界ではほとんど意識されていません。それは、それなりに大きな企業が多い広域展開事業者でも同じ事です。つまり、サービス残業がまかり通っている。あるいは、無許可で勝手に残業してしまうことも多い。「子どものためだから」という言葉で何でも認められるものではないのです。
(2)雇用側(つまり会社、組織側)は、働く人に対して、安全配慮の義務を負っている。
これは労働契約法に明記されています。職員が、運営本部側に何も伝えないで仕事をしている時、万が一、何らかの犯罪行為を企図している者に襲われてしまったら、ということです。もとより、会社側は、施設の防犯設備を充実させる必要がありますし、例えば女性を1人で夜遅い時間まで、防犯設備がろくに整っていない施設で残業させることは現に避けるべきです。
(3)どうしても生じる急な休み。対応は事業者です。
児童クラブの世界で多いのは「あなた、その日に休むの?では代わりの人、探しておいてね」という指示。つまり、職員が何らかの事情で休みを取るときに、その穴埋めの人を他のクラブだったり同じクラブのパート職員に急に出勤してもらったりと、休みを取る人が代わりに働く人を探してくる、ということが良くあります。しかし本来、代替勤務者の用意は事業者側が行うべきものです。つまり、「代わりの人が見つからない?ではあなた、休めませんね」を防ぐためです。
しかし、休む人が代わりに働く人を探してくる習慣は児童クラブの世界に根強いものがありますね。これは早く無くしましょう。「え?保護者運営で保護者は普段働いているから代わりの人を探すことができない?」それは理由になりません。保護者運営でも保護者が雇用する側、つまり使用者であれば、使用者が責任をもって事業を遂行してください。
(4)管理監督者の問題
知っているようでなかなか知らないのが「管理監督者」ですね。これは、現場のクラブ職員にとってはちょっと嫌な制度かもしれません。使用者と一体になる立場の者は、管理監督者として労働時間、休憩、休日の規定は適用されないということです。よく、管理職になると残業代が減るので収入が減る、ということが、まさにこのことです。ただし、管理監督者はその地位の名称だけで判断されるものではありません。クラブの長、例えば施設長や主任であってそのクラブにおいて他の職員にいろいろ指示命令をする立場であっても、自身の勤務シフトは出退勤時刻が就業規則通りであり、厳格に規定された範囲内でしか組むことができないのであれば、実質的な管理監督者とは言えないでしょう。逆に、出退勤の時間は自由にしてよい、ということであればそれはもう管理監督者(自分自身の労働時間を自ら設定できる)と言えます。注意したいのは、保護者運営系児童クラブによくある「理事兼職員」です。理事である以上、組織運営に関与できますから管理監督者ではない、と主張はできないでしょう。事業者側が、そのような職員の労働時間をどう扱うのかは、労使でしっかりと相談して決めましょう。
(5)変形労働時間制は「損をさせない仕組み」
そもそも、誰かが得をするということは誰かが損をしている。誰かが損をしているということは誰かが一方的に得をしている。変形労働時間制は、損を抑えようとする仕組み、つまり「長い時間働いたことによってかさむ費用をいかに抑えるか」が本質的なものです。それは実のところは、労働時間の上限を法の範囲内に抑えつつ、いかにして効率的に労働の成果を発揮していこうか、ということです。
これは、児童クラブのように、その収入の多くを補助金(つまり税金)でまかなっている公の事業においてはとても大事な考え方です。保護者から毎月いただくお金だっていわば保護者にしてみれば「子育て税」のようなものですから、1円たりとも無駄遣いしてはなりません。
いただいたお金を最大限有効に使う仕組みが変形労働時間制ともいえます。
その適用はとても厳格です。使用者側が「うちは週平均40時間以内だから大丈夫」という程度では導入できません。事前にシフトを組んで周知させておくことはもちろん、児童クラブのように突発の残業や休日返上の出勤、公休日を出勤日の入れ替えのようなことでは変形労働時間制をもってしても時間外労働が発生します。どうしても、労働者が不利になる制度と思われていますし、実際に「1日だけ」の物差しで測れば長時間労働をすることになるのでその日については確かに損です。ただし、先にも述べたように効率的に予算を使うことは、児童クラブの運営事業者がしっかりとした考え方で運営していることの証明にもなり、それはひいてはその事業者がずっと児童クラブの運営を任されるために必要な安定性の1つとして機能することでもあります。言葉を聞いただけで拒否反応を示すのではなく、長所と短所をしっかりと理解した上で、労使の双方がトクをする状態を実現する制度の運用を考えていきたいですね。
<我が身を守ること>
地域に根差した事業者であれば、労使早々で一緒に学んでよりよい制度の構築と運営に励むことができます。ただ、広域展開事業者ではそうはいきません。経営者、使用者は現場からするとはるかに雲の上。せいぜいが地域のエリアマネジャー級で、その人に雇用労働の体系を変更する権限などありません。
ですが、現場で働く人は「これはどうなの?おかしくないか?」と思うことがあれば、それをすぐに調べましょう。そして記録を付けておきましょう。年休申請を拒否された、定刻の出勤の10分前に集まることを指示されていたにもかかわらずその時間の賃金が計上されていない、いろいろな疑問点があるでしょう。その疑問が明確に法令に違反しているかどうかもまた確認しましょう。それはいざというときに我が身を守る証拠であり、武器になります。
(もちろん雇用側にも言えますが。正確に指示をしても労働者側が守らない、あきらかに素行不良で職場に迷惑ばかりかけている職員がいる、というときもまた記録をせっせと集めることです)
どんなことを注意すればいいのか、どういうことを知っておくとよいのか。それはまさに、運営支援にお任せください。まずはご相談からお気軽に。分かりやすくお伝えします。
<おわりに:PR>
弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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現在、放課後児童クラブを舞台にした小説を執筆中で、ほぼ完成しました。とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子だけを描いた作品ではありません。例えるならば「大人も放課後児童クラブで育っていく」であり、そのようなテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。出版にご興味、ご関心ある方はぜひ弊会までご連絡ください。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ぜひご連絡、お待ちしております。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)