広域展開事業者も、1クラブだけの運営事業者も、「第三者の視点」を取り入れた運営で得られる利点があります

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営は、常に安定して行われることが必要ですが、そのために必要なことは「客観性」です。客観性を帯びた事業者の経営が、安定した児童クラブ運営をもたらすということです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<分けて考えたい、運営と経営>
 放課後児童クラブが何の問題もなく営まれている状態は当然であり、常にそうであることを求められています。そうでなければ、子どもは安全安心にクラブで過ごすことができず、保護者も安心して仕事や介護、勉学などに励めないですものね。
 その状態は、事業運営が安定していることです。行うべき事業を行うことを「運営」として私は考えています。個々のクラブにおける子どもの支援が問題なく行わわれているというクラブ単位のことから、クラブを運営するために職員を雇用し、必要な経費を用意して支払っている事業者単位のことも、運営です。運営が安定して行われるためには、児童クラブ固有の事情に知悉していることが必要です。保育所の運営には詳しくても児童クラブは保育所とまったく同じではない以上、保育所の運営の専門家がその瞬間から児童クラブの運営のプロにはなれないでしょう。(ただ、ごく短期間で運営のプロになることはもちろん可能でしょう)

 一方、経営となると、私は分けて考えるべきだとしています。事業体そのものの存続を取り扱い、(基本的には)事業体、すなわち会社や法人組織が、将来的に発展すること、もしくは継続的に安定して存在し続けて事業を営むことが可能となるように必要なことを行うことが、経営です。
 経営が安定してこそ運営が安定するのであって、経営が安定しなければ、例えば雇用が不安定になる、必要な経費を削減する等の運営に対する不利な条件から、運営が不安定になります。運営が不安定、例えば雇用した職員が不祥事を多発することで事業者に対する信頼が揺らげば、経営が困難になることも当然です。
 その点で、運営と経営は密接に関係していますが、厳密には分けて考えるべきだというのが、児童クラブにおいても当然必要だというのが私の立場です。しかし実は児童クラブの世界は、主に小規模の団体や、地域に根差した児童クラブ運営団体ほど、両者の区別があいまいになっています。一方で、広域展開事業者はその点、当然ながら明確に区分されているように見えます。(それは当然で、事業体経営に当たる本部は実際にクラブ運営を行う個々のクラブや地域事業本部と離れて存在していますから、場所的にも機能的にも分けられているからです)

<社外取締役は常識。では児童クラブは?>
 社外取締役は今は企業経営で当然の機関となっています。社外取締役とは、ウィキペディアによると「株式会社の取締役であり、外部の視点により企業経営のチェック機能を果たす役割を持つ」と説明されています。SMBC日興証券の「初めてでもわかりやすい用語集」には、「社外取締役とは、社内から昇格したのではなく、社外から就任した取締役を指します。現在も過去にもその会社や子会社に在籍したことがない人材を起用することで、社内のしがらみや利害関係にとらわれず、経営を監視することができるという特徴があります。もともと米国で1970年代にコーポレートガバナンス(企業統治)を強化する狙いで導入され、多くの企業で取締役会の半数以上を占めています。日本では社内から昇格する取締役が大多数を占めていますが、それでは経営に対するチェック機能が働かないため、社外取締役を導入する動きが広がっています。2019年秋に提出された会社法改正案には、社外取締役の設置義務づけが盛り込まれ、2021年3月1日より施行されました。」とあります。
 要は、第三者の視点=客観性をもって、安定した経営をもたらす仕組みです。社内、同じ組織の世界に属する者からでは気が付かないことや、同じ組織に属する「仲間うち」の利益を優先し、顧客(児童クラブで言えば、子どもと保護者)の利益をないがしろにするようなことを、チェックする、そのような誤った施策が決められ、実施されることを防ぐ仕組みです。

 児童クラブにおいてはどうでしょう。公設公営は別として多くの公設民営、民設民営クラブで、社外取締役設置が義務となっている企業が手掛けるクラブ以外で、このような第三者による運営の参画は、あるでしょうか。現役保護者が運営に加わり、子どもがクラブを卒所、退所したいわゆるOB保護者を第三者として、ということで処遇している運営事業者があるかもしれませんが、OB保護者も出身母体は同じですから、第三者とは言えませんね。
 まして、監事となるとどうでしょう。会長や、代表など役員経験者が監事を務めることが大変多いでしょうが、「その人たちだけ」の監事構成になっていることもまた、多いでしょう。

 もとより「児童クラブは、学童は、特殊なので、このことを分かっている人でないと、子どもたちの安全安心な遊びと生活の場が保障できない」という理屈を、過去にさんざん聞かされたことがあります。そんな強烈な「内向き志向」が、「独善的な事業体の運営の方向性」を、導いてしまう温床になっていると、私は危惧します。

<第三者は必要。しかしその第三者には、児童クラブの現状を理解する努力も必要>
 確かに児童クラブの状況は、なかなか不思議なことがいっぱいあります。保育所と同じように見えて、市区町村が必ず実施しなければならない制度ではありませんし、法令上は資格者配置が必須ではない(しかし実際は市区町村レベルで配置を義務づけている地区が大半)、あんなに多くの子どもを受け入れるのに、施設や運営に関する基準は実に大雑把。そもそも児童の受け入れに際しての法律関係が明確に説明されていません。学習塾やスポーツクラブ同様の、消費サービス提供契約なのか、保育所などと同様なのか、私も明確な説明を受けたことがありません。

 外部の経営のプロ、あるいは社会情勢に通じた有識者や学識者、法曹関係者の方に第三者として経営陣に加わってもらうことが児童クラブにとっても重要なことだと私は考えます。とはいえ、そのような方が、児童クラブに関して、特に子どもの育ちや育成支援についてまったく知識を欠いた状態で、事業の行方を判断することは、もちろん不利な状況を招くことになるのは当然です。例えば、児童クラブの運営者を公募で決める際に、運営者を決める側の委員会のメンバーが、児童クラブの事は知らずに会計上の知識だけで効率性「だけ」を重んじて運営事業者を決めるのであれば、それは全国規模で展開している事業者に高い評価を付けるのは当然でしょう。

 要は、児童クラブ「だけしか知らない」人で役員を固めると、独善的な運営に陥ってしまう恐れがある。例えば職員の勤務状況のみを優先した結果、クラブの開設時間を短くしてしまい利用者側の保護者にとって利便性が向上しない児童クラブであり続けることがあります。未だに午後6時や午後6時30分で開所するクラブが多いこと、それも公設公営や保護者由来の公設民営クラブに多いことはその表れだと私は感じています。
 一方で、児童クラブ「については全く知らない」人が第三者で入ってきても、トンチンカンな意見や判断しか示すことができないことになり、おそらくその方に支払うコストを無駄と感じることになるでしょう。そうはならないように、「自分は児童クラブについて実態を知らないので、徐々に学んでいこう」という謙虚な姿勢を持った方を、第三者として選ぶことが必要です。と同時に、運営事業者側も、せっかく引き受けてくれた第三者役員に、丁寧に、状況を説明し、包み隠さず現場を見せ、意見を積極的に求めること、そして「貴重なご意見ありがとうございます。」で片づけないことが重要です。

 最近の企業の事例では、有名なメガネチェーンの事例がありますね。検索すれば出てきますが、いわゆる「やりて」の経営者が行き過ぎた行動、振る舞いがあったとして解任されましたが、それを指摘したのが社外取締役であり、その後の経営のかじ取りを担うこととなった、という例です。ただこの件では、社外取締役も、最初は状況がよくつかめなかったということを述べていたようです。それだけ、社外の立場、第三者の立場は、実際に事業者の中で行われていることを把握するのは難しい、ということでしょう。

<これからの「児童クラブ大激変」の時代には外部の空気が必要だ>
 何度も繰り返しブログで記述していますが、放課後児童クラブを取り巻く社会的環境は激変しています。かつて、それこそ20~30年前の児童クラブは、「無事に子どもが来て、親に引渡せればいいよ。職員の給料は安いけれど、おやつを食べさせて一緒に遊んでくれればいいから」で済んでいた時代でした。(もちろん、学童指導員の専門性について声を上げている人たちはいましたが)

 今の時代は全く違います。法令で義務付けられて取り組まねばならないことがたくさんあります。「障害者雇用率」「高齢者の雇用率」「女性の賃金状況」「育児休業の取得状況」など報告せねばならないことが急増していますし、国から児童クラブに指示される傷病報告や安全計画の策定と公表など、とてもとても、保護者のボランティアで運営できる事業ではなくなっています。マイナンバーにおける情報管理もそうでしたが、まして、日本版DBSなど、厳格な情報セキュリティーシステムがないと対応できない制度は、さらに増えていくでしょう。

 それら、社会から求められる種々のことをしっかり守って運営できているか。つまりコンプライアンスです。法令を守りつつ、最も重要な「事業者の存続」を可能とする経営について、客観的に意見を出し、事業者にとって最善の利益を導けるような役割を、第三者、社外の役員に担ってもらうことが、地域の子育て支援に欠かせない重要な社会インフラである児童クラブの運営事業者にとって、もはや欠かせない時代になっているのです。

 それは大手の広域展開事業者にも実は同じ事で、規模の大小は問いません。規模が大きくなればなるほど、一般的に「現場感覚」から遠ざかってしまいがちですから、社外取締役には「児童クラブの現実と本音」を理解している方が就任することが必要です。多くのクラブ運営を担う重要な企業であればあるほど、企業に取ってだけの欲を追求するような経営姿勢であっては困りますから。子どもと保護者が安心して利用できる児童クラブ運営を実施しつつ存続できる経営に資する行動をすることが、社外取締役に求められる責務です。

<おわりに>
 児童クラブは「その地域に住む、子どもと保護者」のための存在でした。長らくその時代が続きました。しかしその時代であっても実は、社会全体に存在する子育て支援システムの存在であったはずです。ただ、国からの補助が無い、あるいは極めて少なかったということから、「自分たちだけが負担して存在させてきた」という感覚があったのでしょう。しかし、補助金を求め続けて今は(まだまだ不十分ですが)補助金交付対象となっているのは、社会全体として必要な子育て支援の仕組みであることが認められているからです。であれば、児童クラブは個々の経営であっても本来は社会全体における立ち位置、役割を踏まえた経営が求められるはずだと私は考えています。
 地域における安定した児童クラブ運営を実現できる事業体の経営に何が必要なのか、今後の大きな時代のうねり、変化の潮流を踏まえ、企業経営におけるリスクの最小化の選択を続けながら、安定した児童クラブにおけるサービス提供を実施できるよう、まずは運営者自身が、認識を新たにする必要があるでしょう。外部からの役員を招くだけの余裕がとてもない事業者も多いでしょうが、目の前にいる「保護者」は、いろいろな世界で活躍している方です。利用者であり、サービスの提供を受ける側でありますが、利用者からの意見、評価は事業運営について重要な役割を果たせます。第三者機関の代わりになるとして、積極的に率直な意見、評価を定期的に求めるようにしましょう。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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