学童保育の思い出話:キャンプの下見で、男子が大喜びした「大冒険」のことを話そう。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。「学童保育の思い出話」を時々、つぶやいてみようと思います。今回は、学童キャンプの下見の「大冒険」のお話です。どんな大冒険?
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<下見は大事ですよ!>
 もう「今は昔」になるのでしょうか、保護者が運営に関わっている、あるいは関わっていた放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所のこと)のうち、「学童キャンプ」を、夏休みの定番の行事にしていたクラブは結構あったと思います。保護者が関わっていなくても、筆者自身が小学生だった1970年代後半から80年代前半にかけて、筆者が住んでいた東京都多摩市では、児童館がキャンプを主催し、地域の子どもたちが自由参加するという形態がとられていました。私は児童館で放課後を過ごしていた小学生低学年の時代に参加したことがあり、また中学生になって地域の児童館が行うキャンプに引率ボランティアとして2年間、参加したことがあります。

 それ以来、久しく集団でのキャンプ経験はなかったのですが、筆者の子どもが学童保育所に入所して、久しぶりに、集団でのキャンプに関わることになりました。子どもが小学1年生のときは、キャンプ係(これがまた、最も人気が無い、保護者みんなが避ける係)に立候補して準備から関わりましたし、小学2年生からは保護者会会長などずっと役員をやっていたので、キャンプはそれこそ、子どもが小学6年生で最後の学童キャンプを負えるまで、どっぷりと関わってました。

 自分が関わっていた学童のキャンプは、それなりに「しっかり」としていました。やはり、大ベテランの優秀な職員(放課後児童支援員)が配属されていたことが大きいのですが、学童キャンプが子どもの成長発達に及ぼす肯定的な評価をしっかりとふまえてキャンプを計画していたことが一番重要だったと、今振り返っても感じます。その肯定的な評価をもたらす要素はいくつかありますが、職員がとても重視していたことの1つが「下見」でした。

 キャンプの下見がなぜ大事か、それは2つ要素があります。1つは「リスク管理」です。毎年、同じキャンプ場に行っていましたが、キャンプ場とはいえ、自然の真っただ中です。去年と同じ状況であるはずがありません。往復の交通ルート、緊急時(子どもの尿意や嘔吐などのトラブル等)のバスの駐車可能なスペースから、キャンプ場内における危険個所の把握、管理人との打ち合わせなど、あれもこれもやることがあります。それも、大人(職員や同行のキャンプ担当保護者)だけがチェックするのではだめなのです。
 わたしの子どもが在籍していた学童保育所は、4年生以上の高学年がキャンプ下見に参加していました。この子どもたちもまた、自分の目で、どこが危ないか、どこで遊べるのか、しっかりと確認することを役割として持っていました。別段、子どもたちに安全管理を任せるのではありません。それは当然、職員や同行の保護者が担っていますし、大前提として、命に直結するような危険な場所ではありません。ただ、転んでけがをする、打ち所が悪かったから骨折する、程度のリスクはあります。そのような場所において、「子どもたち自身が、自分の能力で、危険を察知、回避できるようになる」こともまた、子どもたちの成長に必要なことであるという認識を、持っていたからです。下見に参加した高学年は、キャンプに行く前に、クラブで他の子どもたちの前で、キャンプ場の説明や危ない所などを自分の口で説明する役割も担っていました。なので、キャンプ場に着いた子どもたちは、メモ帳を手に、しっかりと、危ない場所や慎重に行動するべき場所をチェックしていたものでした。

 そしてもう1つは「子どもたち自身で、キャンプで何をやりたいか考えるための材料集め」です。1泊2日のキャンプでは、どうしてもあれもこれも体験させたいと意気込む大人たちがスケジュールを組んでしまいます。そんな中でも、子どもたちが何をやりたいか、どう過ごしたいかもまた、子どもたちがキャンプに関わる大事な要素として、当時の学童保育所の職員や保護者達は考えていたのです。何もかも、職員や保護者がおぜん立てするようなキャンプなら、それは家庭で充分楽しめます。学童キャンプはそうではない役割を担っていました。子ども「たち」、つまり集団で過ごす子どもたちが、何を感じ、何を思い、何をやりたい、してみたいと思うか、その「心の動き」を「発生させること」「感じさせること」、そして「実行すること」が、大事な役割だったのですね。

 とまあ、とにかく「下見」は大事なのです。キャンプに限りません。映画鑑賞に行くにも、プラネタリウムに行くにも、博物館に行くにも、職員の下見は当然必要です。映画館やプラネタリウムの下見にはさすがに子どもたちの参加は不要ですが、リスクの把握のためには職員が下見をすることです。

 下見を欠かすとどういうことになるか。昨年夏のプールにおける痛ましい悲劇のような結果を招くことにもなりかねません。いわゆる所外活動はとりわけ、普段と違う場所ですから、職員(つまり事業者)は必ず下見を行う、下見を行うことを義務とし、下見を行っていない所外活動は絶対に許可しないことです。またその考えは、普段から外遊びで利用しているクラブの近くにある公園や小学校の校庭の利用の際にも、あてはまりますね。遊具を点検する、ハチの巣がないかどうか点検する、日陰の確保を行い外気温や湿度をこまめに測定する、不審者の早期発見に留意するなど、子どもの負傷や疾病、事件事故につながる要素をなるべくゼロに近づけるよう職員は常に行動することです。それを怠った場合は、重大な結果を招くことになりますよ。

<そして大冒険>
 キャンプの下見では、(責任の所在の観点からすると、決してお勧めはできない、むしろ避けるべきではあるのですが)キャンプ係や役員の保護者の中で都合が付く人が、職員と子どもたちを自分の家の車に乗せてキャンプ場まで往復していました。小学高学年というのは、とかく男子と女子が分かれて対抗意識を競うもの。もっともそれは、精神年齢がおよそ男子を上回る者が多い女子からすると「男子はバカすぎ」であり、男子からすると「女子はいちいちうるせえよ」という、見ていてほほえましいいつもながらの光景ではあるのですが。

 とまれ、下見にでかける際に男子は毎年、萩原家の車に乗っていました。1回ばかし、採用されたばかりの女性新人支援員が萩原家の車に同乗しましたが、やがて私が法人全体の代表理事になってしまったのでさすがに気が引けたのか、それからは職員が同乗することは残念ながらありませんでした。よって、毎年、男子ばかりを載せて片道約2時間弱の行程を、子どもたちの「大カラオケ大会」で過ごすのです。

 ある年の下見(下見は保護者の参加のしやすさを考えて土曜日の午前から午後の半ばにかけておこなっていました)のことです。とにかく子どもたちは車内で行きも帰りも元気に歌う。であれば、あの曲だろうと私は思い、カーナビゲーションのHDに仕込んでおいたのです、そう、「金太の大冒険」を。なにせ私の愛唱歌ですし。あれほどの名曲ながら残念ながらテレビで流れることがないので、子どもたちは知らなかったのです。初めて聴いた「金太の大冒険」に男子たちは大コーフン!子どもたちの大合唱が車内をこだましました。というか、叫びながら歌っているので騒音に近いです。「ずっとキンタがいい!ずっとキンタで!」とリクエストが続き、そのたびにカーナビを操作してエンドレスリピート状態となりました。

 こうして、安全運転のもと、下見を終えてクラブに戻ってきました。下見に参加した高学年の親たちがクラブに迎えに来ていました。車から降りた高学年男子たちは相変わらず「金太回った~金太回った~」などと大声で歌ってはしゃいでいます。その様子を見た高学年男子のママたちは「聴かせちゃったのね!聴かせてしまったのね!絶対夢中になるから聴かせないように気を付けていたのにぃぃ!」「もう~当分ずっと金太だよ。やまちんパパ(私の愛称)、責任とってよ~」と半ば本気で怒り、半ば苦笑いしながら「あんたたち!もうやめなさいぃ!」と子どもたちを止めに入っていました。

 職員に聞きましたが、その後のクラブでも事あるごとに金太の合唱があったとのこと。当然、「バカじゃねーの」と女子はますます男子を冷ややかに見るようになったのは言うまでもありません。

<おわりに>
 あのとき、金太の大冒険を覚えて取りつかれたように大合唱していた子どもたちも、多くがそろそろ社会人になる年齢です。あの時のはしゃいだ記憶をまだ持っているでしょうか。子どものから品行方正にできる子は、それはそれで素晴らしい。でもまあ、そんな子ではないことが当たり前で、思いっきりバカなことをたくさんして、たくさん失敗して、その中で自分なりに学んでいければいいのだと私は思っています。大人になっても、バカなことをたくさんしている人はいますが、取り返しのつかない事態になることが多い。子どものうちなら、まだまあ、大丈夫です。放課後児童クラブは、子どもたちに、「時には」でいいので、そんな「バカになる」経験をさせてあげられる場所でもあってほしいと私は願っています。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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