学童保育が抱える課題や問題を改めて考えよう。最終回:営利企業の指定管理者が増加する理由と、やりがい搾取

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育事業の質的向上のためにぜひ、講演、セミナー等をご検討ください。

 あい和学童クラブ運営法人は本日、11月4日が登記上の設立日です。設立1周年を迎えました。まだまだ学童保育の世界に貢献できていない私ですが、日本の学童保育で働く人たちや、利用する人たちが、心配や不安なく学童保育の世界で過ごせて、利用できる時代が来るように、学童保育の問題や課題の解決に向け、さらに頑張って活動を続けていきます。ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するご相談やご依頼をお寄せください。

 活動1周年を迎えるにあたり、運営支援ブログは改めて学童保育の抱える課題や問題を取り上げています。過去4回で次の事を取り上げました。
・「学童保育」という言葉には、実態の異なるいくつかの事業を含んでいることが、知られていない。
・学童保育は、子どもを預かる仕組みと誤って理解されている。
・学童保育は小学6年生の最後の日まで利用できる制度ということが、知られていない。
・学童保育で働く人のほとんどがワーキングプア状態
・学童保育の資格「放課後児童支援員」は大事な資格と思われていない
・多くの市区町村では、学童保育が安上がりでできることを優先して、働く人のことを考えていない
・学童保育の職員の仕事は、単に子どもと遊んで見守るだけの仕事ではない
・学童保育での「遊び」は、大人が考える「遊び」とは違う。人間の成長に欠かせない作業である
・学童保育の成立と発展に、運営に参加した保護者の役割は極めて大きいが、もう保護者の運営参画はやめるべし

 最後となる第5回は、多くの地域で広がっている営利企業の指定管理者による運営と、低賃金で使い捨てられる学童保育職員について書きます。現在の学童保育を苦しめている大きな要因だからです。

※指定管理者制度=「公の施設」の管理運営を行う民間事業者等を「指定管理者」として指定することにより、民間のノウハウを活用しつつ、サービスの向上と経費の節減等を図ることを目的とした制度(神奈川県庁ホームページより。太字は弊会)

(1)営利企業による指定管理者が増加しているのはなぜか
 学童保育所の運営を営利企業(株式会社がほとんど)が引き受けて行うことが増えています。引き受け方は、事業委託契約(準委任)が、指定管理者として運営を代行する2つの方式に大別されますが、多くが指定管理者制度です。この制度によって営利企業が運営する学童保育については、職員の雇用面、職場環境について多くの問題が生じているのは、学童保育に関心のある方ならご存じでしょう。
 株式会社が補助金事業を収益の柱とするには、事業で使用する予算を抑制して利益を確保することが合理的です。株式会社は利益をあげて株主に還元することが使命ですから。結果として株式会社が運営する学童保育所においては、利益を確保するため支出の8割近くを占める人件費を抑制することが必然的な行動原理となり、「無期雇用制度ではなく有期雇用契約であり、賃金水準が低い」「賃金水準が低いため応募してくる職員数が少ない&人件費削減のため雇用配置する職員数が少ない」ため、クラブにおける事業、すなわち「育成支援」が、マンパワー不足によって円滑に遂行できない点が最大の問題点です。

 学童業界には広く知れ渡っていながら、それでもなぜ営利企業の指定管理者が増えるのは何故かを考えねばなりません。私が考えているのは次の要因です。
・市区町村の財政的負担が少なくて済む低額な指定管理料で、引き受けてくれるから
 →市区町村の財政事情が厳しいから。これまでの運営方法ではじき出した運営費の予算より低額な指定管理料で済むのであれば、担当課は財政部局に評価され、自らの評価も上がります。

・応募資料で「全国各地で安定した事業展開を行っている」という応募企業の説明を信じることにしている
 →市区町村の学童保育担当者は、近隣の地域の担当課とは時折、情報交換を行っていますが、あまり自らの失態になるようなことまでお互いに伝えあうことはまずありません。まして、他地域の学童保育所がどのような状況にあるのかまで、情報収集をしているかといえば、そんなことはありません。一方、応募企業がプレゼン資料で「弊社は十数都道府県で何百単位の学童保育所を安定して運営しています」と説明すれば、実際に運営している単位数のデータは客観的な数値であることもあり、応募側の説明をすんなり受け入れてしまうのです。実際に上手に運営しているかどうかまで、市区町村の担当者や選定委員、選定委員会執行部が、自ら調べることはありません。

・指定管理者選定委員も、執行部である市区町村の意向を「そんたく」する
 →指定管理者制度の本質は「コストカット」です。1円でも安い業者を選ぶことが本質です。よって、いくら質の高い事業を行っている業者があっても、それより安い料金で引き受ける業者があれば、市区町村は「安く済む業者を選びたい」と思うのです。その市区町村の意向は選定委員に明確に伝わります。資料を作って渡すのは市区町村執行部ですから。よって、選定委員の多くは、市区町村の意向に沿った判定をすることが自然です。

・低い指定管理料では運営が厳しいだろうと思っても「ヨソの組織のこと」だから関心を持たない
 →市区町村の担当者も、難しい試験を突破して働いている才能ある方々です。「こんな指定管理料で、本当に職員を安定して雇用して何年も事業ができるのか」ということの判断ぐらい、つきます。しかし公務員の方々は、自分のシマ、自分の所属する部課のこと「だけ」意識を向けることが鉄則です。ヨソのシマに口を出すことはご法度です。それと同じで、応募してきた企業がどんなに安い指定管理料であってきっと運営が厳しいと予想しても、口は出さないし、関心を持たないように意識をするのです。何と言っても、ヨソの組織ですから。ヨソの組織に深入りしなことは、公務員として生き延びるために必要な処世術です。

・応募する企業は、もう多くのプレゼンを勝ち抜いた経験があり、市区町村が自らを選ぶコツを熟知している
 →百戦錬磨というやつですね。さらに引き受けている学童保育の単位数が増えれば増えるほど、プレゼン資料に「実績」が積み重なります。それが「安定の実績」となりさらにアピールポイントになります。勝ち組はどんどん勝ち続けるのです。

・保護者などが作る非営利法人より、企業規模が大きいため財政的に安定していることが何より魅力
 →学童保育は公共の児童福祉サービスですから、予算不足で運営ができません!の事態だけは市区町村は避けたい。しかも低い指定管理料で引き受けようとしている。なれば、その企業の規模が大きければ財政規模も大きいので資金繰りに急に困ることもないと想像でき、選ぶ市区町村側は安心です。それは保護者主体の非営利法人には真似のできない利点です。

・学童保育に高い予算を投じる必要がそもそもない、と思っている市区町村の担当者も多い
 →とにかく市区町村にはカネがありません。不交付団体であっても、1円でも安く済ませたいという意識が染みついています。しかも少子化。学童保育の施設に予算を投じた後、その維持管理費、つまり固定経費が後々、その市区町村にのしかかってきます。多くの市区町村は、人口急増期に整備した学校や交通インフラ、公共施設の維持管理費の増加に頭を抱えています。経常経費をどうやって抑えるかが市区町村の重大問題です。そのような状況で、少子化でニーズが経ることが明確な学童保育に多額の予算を(それが人件費といえども)投資する余裕はありません。

 以上、これらの理由で、指定管理料が安い企業が相次いでその実績を拡大していくのです。これらの理由を覆す理由がない限り、今後も、指定管理料が安い企業が学童保育をどんどん引き受けていくでしょう。
 これらの理由を覆すために必要なことは、3点あると私は考えます。
①市区町村の財政負担の軽減=市区町村が「遠慮なく」学童保育に予算を投じられる制度を国が構築する=補助金負担割合の軽減と学童保育予算の義務化=放課後児童健全育成事業が児童福祉施設に位置付けられること
②学童保育に予算を投じることは社会が求めていること、という世論が強力になること(つまり、学童保育を含めて福祉の事業には、お金がかかる=人件費がどうしても必要だ、という合理的な理解が社会に広く知れ渡ること)
③それほど高くはない指定管理料で、かつ、職員の雇用も職場環境も安定した事業運営ができる組織が、多くの地域で指定管理者となるように事業規模を拡大する=その法人が非営利法人であれば、必要な人件費を確保した分での必要最小限の指定管理料で公募に臨める

 特に③について私は重要と考えています。一刻も早く、あちこちの地域で手広く運営する非営利法人が現れてほしいと思いますし、私自身もそのような組織で学童保育の発展に尽くしたいという希望を常に持っています。

 さて、長くなりましたが最後に触れておきたいのが、学童保育の世界における職員の使い捨て状態です。上記の安い指定管理料で運営する学童保育はもちろん、それなりに雇用が安定している非営利法人であってもよく見られます。私は「やりがい搾取」と呼んでいますが、仕事の量や職務の重大さと賃金水準が合理的に釣り合っていない状況において、職員の「これは大事な仕事だから頑張らなければ」という善意を、仕事に向き合うエネルギー源としている状況を指します。その善意は補充されることなく減り続け、やがて空になります。そうなった職員は、退職、離職となるのです。
 この「やりがい搾取」は一刻も早く解消されねばなりません。この解消には「賃金水準の引上げ」と「配置人数増による1人あたりの分担量の削減と見直し」が必要です。まあ、結局はカネ、つまり補助金の増額が必要ですが、運営組織が確実に補助金増額分を職員の賃金水準引き上げに使う仕組みが整っていることが欠かせません。

 これからも学童保育は、子どもにとって、働く親にとって必要です。学童保育で働く人を大切にする組織が必要です。組織を大切にすることは、組織をよりよくすること。組織をよりよくするには、組織の欠点を直視することが必要です。次週、11月6日からは弊会設立1周年を記念して、「ここが嫌だよ学童保育」(仮題)シリーズに取り組んでみようと考えています。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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