学校に行けない、行きたくない子どもの居場所に、放課後児童クラブも選択肢の1つとなるよう制度を変えていこう!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。旧ツイッター(X)では、東京都板橋区が試験的に取り入れるとした、いわゆる不登校対策について様々な投稿が相次いでいます。私は、小学校に行けない、行きたくないという状態に置かれている子どもと、その子どもと向き合う保護者を支えるための選択肢の1つとして、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の活用を改めて提案します。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<不登校をめぐって>
 旧ツイッターでは2024年8月上旬から、東京都板橋区における不登校対策について投稿が相次いでいます。私も数度、その話題に関して投稿しています。それは、板橋区の区議会議員の投稿の内容にいささか不安を覚えたからです。その区議会議員の投稿は2023年12月15日に行われていました。それがこの8月になって再燃した理由は分かりません。ともあれ、不登校状態にある子どもや、その子どもと過ごす保護者を支援する立場の方々から懸念を示す投稿が相次ぎ、板橋区もこの件について釈明する事態にまでなりました。(「板橋区と株式会社スダチが連携し不登校支援を強化」という記事について|板橋区公式ホームページ (city.itabashi.tokyo.jp)

 ちなみに、私が旧ツイッターに投稿したのは次の通りです。
<私は不登校の子の再登校だけが解決という視点に賛同しない。ただ残念ながら再登校こそ解決と信じる人は多く、自分が自治体の街づくり系委員会に参加した折、他の委員が「不登校の子がいない社会が健全。是が非でも登校させにゃいかん」と主張したため反論した記憶がある。児童クラブの活用を考えたい。午後10:57 · 2024年8月10日>

 板橋区が一部とはいえ試行するとした不登校対策の相手方として組む企業が掲げている不登校対策については、先の旧ツイッターへの投稿のように私は不安を覚えています。「子どもの思い、希望、要望、願い」を考慮することなく、つまり主人公である子どもを無視する形で再登校だけが不登校状態の解決であるとする単純な事業モデルに対しての不安です。ですが本日のブログは、板橋区が一部試験的に行う不登校対策で連携する企業について、またその企業が行う不登校対策についてその是非を問うものではありません。経済活動の自由がありますから、企業や団体がどのような事業を展開するのかはそれが明らかに違法、脱法的あり、法令違反に問われたり公序良俗に反するものではない限り、まったく問題ないとするのが私の考えです。(ですから、営利の広域展開事業者による放課後児童クラブの運営そのものに、私は異を唱えてはいません。ただ、広域展開事業者が雇っている職員の雇用条件や待遇はどうなの? 子どもへの育成支援を見た目の派手さ加減、アピールでごまかしていない? 職員雇用は万全であって職員配置もすぐに手当てができますよと選定の際に自信たっぷりにアピールしておきながらいざ新年度が始まるとずっと求人広告を出していますが職員配置が万全だというあの自信はどうしたの? 自治体はそんな状況を見て見ぬふりなの? と、しつこく訴えているだけです)

 「子どもが学校に登校すれば解決」と明確に示し、「保護者との面談だけで、子どもの再登校を実現させる」という単純すぎる手法に対し、賛同し、期待し、その手法によって子どもが再登校を果たすことを望んでいる保護者は間違いなくいるでしょうし、だからこそ企業として事業活動が継続できているのでしょう。もっとも、子どもが不登校状態になってあわててしまい、冷静な判断ができない状態、もしくは不登校状態への対応について豊富な知見を持つ人や支援団体から多くの情報を得る前に、インターネット等でたやすく手に入りやすい、分かりやすい解決法にすがってしまうという状態を、ビジネスとして「活用」することで利益を確保しているのであれば、私はまったく賛同できません。しかも必要な費用(不登校状態解消のノウハウを得るために支払う料金)がン十万円の高額というのであれば、疑問に思わざるを得ませんが、しかしあくまでもそれは私個人の感想に過ぎません。

 そもそも私は、不登校状態は、それ自体は学校生活における課題の1つであっても必ず直ちに解決を求めなければならない異常事態、問題状態とは考えていません。極端に言えば、学校に行けないからといって人生に何の問題があるんだ?ということです。現実的に我が家も家族が半年あまりの不登校状態になりましたが、多少、回り道の人生かもしれませんが今では特段変わりなく普通に学生生活を送っています。

 学校に再び登校できることになることが円満解決とは私は思わないのですが、ただもちろん、子どもが学校に行けなくなること、行かなくなることが保護者として極度の不安に陥ることは間違いないことも理解しています。このままずっと家から出られなくなったらどうなるのか、勉強についていけず、高校や大学に入れるだけの学力水準を得られないのではないか、就職に不利になるのではないか、いろいろな不安や懸念が保護者に襲い掛かってくるのは当然です。不安定な子どもの精神状態のため、子どもから目を離せないために仕事をあきらめなければならない状態に追い込まれる保護者も普通にいます。ですから、「なあに、子どもが学校に行きたくなければ、行かなくたっていいんだ。安心しなさい、大丈夫だから」という言葉が、現実に不登校状態の子どもと向き合っている保護者の苦悩を何ら救うことがないのは、事実として知っておかねばなりません。不登校状態を解消することは保護者の不安、そして現実的な生活を成り立たせることに必要であって、だからこそ、くだんの企業が頼りにされている面は否定できないでしょう。子どもが徐々に活動範囲を広げていくことによって保護者が安心して家庭を成り立たせられるための仕事ができるようになることは、私は現実的な不登校状態解消において必要な過程だと重要視しています。そこで、その解消の1つとして放課後児童クラブの存在を大いに利用すればいい、というのが私の持論です。

 なお今回の板橋区の件で私が残念なのは、伊橋区の姿勢です。不登校状態への対応は全国どの市区町村も重視している問題です。別に、いろいろな評判がある企業と連携することもそれ自体が問題ではないでしょう。ただ、区内にたくさんの子どもの受け入れ施設がある自治体が、子どもの育ちに関する施設とどれだけ連携して不登校状態への対応としているのか、見えてこないからです。

<児童クラブの活用は解決策の1つだ>
 不登校状態の子どもであっても、いろいろな状態があるでしょう。いわゆる引きこもりに近い極度の精神不安の状態から、家庭内では普通に会話ができ、ゲームやネット鑑賞を楽しめる、あるいは外に買い物や外食はできるという状態まで、千差万別です。それぞれの段階に応じた子どもへの支援が必要なのは言うまでもありません。
 また、「何をもって解決とするか」と保護者が考える内容によっても、不登校状態の解消と位置付けられる目標地点が異なってきます。学校に戻りたいということを最終到達点とすることも大いにあるでしょう。また、学校には戻れなくても他の人たちと普通に交わることができる社会性やコミュニケーション能力を会得できればいいんだ、という状態になればいいんだ、と思う場合もあるでしょう。

 私は自身の事業活動から、小学校に行けなくなった放課後児童クラブの入所児童が「学童なら行ける。行きたい」と言っているから何とかなりませんか、と保護者から相談を受けたことを覚えています。2023年10月12日の運営支援ブログでは、「学童保育所は、不登校の子どもに寄り添えることができるはず。子どもを支える新たな役割を担うことを目指そう。」と題して、放課後児童クラブが不登校の子どもの居場所として機能できる可能性を提案しました。

 現実的に、放課後児童クラブを不登校状態の子どもの受け入れ先として活用することは、クラブ職員が自身の裁量で子どもを受け入れているごく少数の例を除き、ほぼ不可能です。なぜなら、制度として、不登校の子どもを受け入れる目的を備えていないからです。児童クラブは、保護者不在時の子どもの受け入れ場所として設置される施設です。留守家庭の子どもを受け入れるための施設です。不登校状態の子どもを受け入れるとは法令に書いていない。ですからまずは、ここから変えねばならないのです。
 児童クラブは国や市区町村からの補助金の交付を得て運営していることが通例ですから、自治体は設置や運営に関して条例や基準、要綱でその事業活動について定めています。そこに不登校の子どもを受け入れるとしている例は、まずないでしょう。少なくとも私は数百例の市区町村のルールを見ていて、不登校対策として児童クラブの利用を認めると記しているルールを見たことがありません。実際の事業活動にしても、例えば午前中から、不登校状態の子どもを受け入れて一緒に過ごすための職員配置が可能かといえば、まったくそのことを考慮した職員配置体制、雇用体制となっていません。もっといえば、子どもが授業を終えて登所する30分ほど前から職員が出勤してくる勤務シフトである児童クラブだってあります。不登校状態の子どもを受け入れるという概念そのものが、いま現実の児童クラブには存在していません。

 そんなことは百も承知で、私は訴えています。前例なんてなければ作ればいいだけ。規則や規定は、会議でいくらだって変えられるでしょう。必要に応じてルールを変えることは当然です。そしてその必要、「不登校状態の子どもの、居場所の候補先の1つとして、児童クラブを活用する」ことの必要性があると私は考えているのです。

 なぜなら、児童クラブは、子どもが育つ場所だからです。子どもが、人間関係を作り上げるために必要な経験値を得られる場所だからです。人はいろいろな困難、つらいことを味わいながら育っていきます。学校に行きたくてもいけない状態になった子どもは、そのつらい状況の際たるものでしょう。しかし、いずれ大人になって社会で生きていくには、生きていくための術を身につけねばならない。それは現実として理解しなければなりません。児童クラブはそれなりの人数の子どもたちが互いに関わり合いながら過ごしている場所です。人間関係を養っていくには最適の場所です。しかも、子どもたち同士の関係に配慮しながら支援、援助をする職員がいます。学校のように一方的な関係性が機能する場ではないことも、不登校状態の子どもにとって、何かを強制される、強いられる場ではないことが心の余裕を生む可能性があります。

 児童クラブで働いている放課後児童支援員ら職員たちは、子どもの育ちを支える専門職です。子どものことをじっくりみて、話を聞いて、心のうちをのぞいて、寄り添って伴走して支援していくことが仕事です。児童クラブの職員の仕事は、やさしい翼のようにしっかりと子どもを包み込んでいく状態を作り上げていくことです。そうして作られた子どもたちの安全地帯の中で、不登校状態の子ども達はじっくりと心の痛手を回復することができる、私はそれこそ児童クラブにおける不登校状態の子ども達への支援の最大の強みだと考えています。

<児童クラブ側の意識が変わらねばならない>
 ともすれば児童クラブ側は、「児童クラブに在籍している、登所している子ども」しか、自らの育成支援を考えない傾向があります。目の前にいる子どもに万全の支援をすることは当たり前ではあるのですが、子どもの育ちに関わる専門職として働いている以上は、働いている地域や住んでいる地域での子育て支援施策がどうなっているのか、小学校の方針や不登校状態の子どもへの対応はどうなっているのか、興味と関心を持ってほしい。そして、児童クラブに入所はしていない子どもであっても、地域に住む全ての子どもたちのことを考えた施策を思いめぐらすようになるべきだと、私は考えています。

 つまり児童クラブは、「入所している子どもへの支援、保護者の子育て支援」を第一の事業目的としつつ、次いで「地域の子ども、子育て世帯への支援と援助を行う、子育て支援ステーションの一画を担う」位置付けを目指すべきだと、私は考えています。地域の子どもたちが過ごす場所としては児童館があります。児童館もとても有効な施設だと私は考えますが、児童館と比べ児童クラブは数が多いことが何より重要です。児童館は午前中、未就学児の子育てサロンなどいろいろな事業を行っている場合が多いですが、児童クラブは午前中、必要な業務はあっても他の子どもたちがいる場合は少ない。午前中に、不登校状態の子どもや保護者とじっくり向き合う時間が確保しやすいと考えます。
 もちろん児童クラブが不登校状態の子どもと向き合うことを業務の1つとして加えるならば、制度の改定が必要です。何より、職員数が足りません。報酬も足りません。そこは手を付けずに不登校状態の子どもにも向き合うとは、私も言えません。

 逆にいえば、今までさんざん児童クラブの役割を訴えてきても、象の歩みのごとくなかなか処遇改善が進まなかった。しかし不登校状態への対応拠点の1つとして児童クラブが機能すると新たな役割を付与することを、処遇改善の起爆剤というきっかけにすることはできないものだろうかと、考えているのです。

 「放課後児童クラブ・児童館等の課題と施策の方向性」と題した厚生労働省の報告書があります。「-社会保障審議会児童部会放課後児童対策に関する専門委員会 とりまとめ-」で、令和5年3月28日の日付があります。この9ページ目に、次のように記載があります。
「新型コロナウイルス感染症によるこどもの成育環境の変化から、心身への影響、不登校等の課題が見受けられる。福祉的課題等を抱えるこども・子育て家庭への支援の一つとして、放課後施策の充実は重要である。こどもの貧困対策の観点からも放課後児童クラブの機能拡充が期待される。」

 まさにこの提言通りです。子育てのために、児童福祉サービスのために存在するのが放課後児童クラブですから、その福祉的な役割と機能の拡充は、すでにある既存の社会資源の活用という点でも極めて費用対効果に優れるものです。児童クラブで、徐々に、不登校状態の子どもが自分のペースで、自分の居場所を見つけていく。保護者は児童クラブに任せて仕事を続けることができる。児童クラブの職員は、保護者はもちろん、小学校側と連携、情報共有をしつつ、子どもの育ちをじっくりと見守っていく。児童クラブ側はホームラーニングシステムがあれば、子どもに勉強する機会を提供することだってできる。
 地域で、児童クラブを核として、不登校状態の子どもと仮定を包括的に支援する制度ができれば、不登校状態への対応に大いに役立つ解決策の1つとなるであろうと私は期待しています。行政にはぜひ、そのような制度作りを本気で検討していただきたいと私は強く希望します。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月12日時点で、楽天ブックスなら在庫が14冊あります。在庫が増えてる!何があったんだ! まあでも注文はぜひお急ぎください!アマゾンでも販売しています。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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