地域に根差した放課後児童クラブ(学童保育所)運営事業者が、将来の発展につながる道を歩み始めたようです!快挙!
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
運営支援ブログでは、放課後児童クラブを運営する事業者のうち、「児童クラブを利用する保護者や職員が運営する、あるいは過去の経緯から運営に関わっている事業者であって、その地域だけを事業範囲としている事業者」を「地域に根差した放課後児童クラブ運営事業者」と呼んでいます。保護者会運営や、保護者会運営を由来とする非営利法人です。全国各地にありますが、このたび、埼玉県北本市で児童クラブを運営するNPO法人が、他地域の児童クラブ運営事業者の候補者に選ばれたことが分かりました。事実上、運営事業者として決定となります。これは快挙であり、記念碑的な出来事といえるでしょう。ではなぜ、快挙だと運営支援は考えるのでしょうか。
(※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)
<埼玉県入間市の公募型プロポーザルの結果>
埼玉県入間市は市のホームページで、「入間市学童保育室運営業務委託 公募型プロポーザル実施要領 企画提案の募集について(募集終了)」と題したページを公開しています(2025年12月1日時点)。「本業務は、令和8年度から令和10年度に、入間市立学童保育室のうち、8地区20施設で実施するものです。」とあります。20クラブの運営をする事業者を決める、なかなか規模の大きな公募案件です。地区は次の通り。
「豊岡第一」(2つの学童保育室)
「豊岡第二」(4つの学童保育室)
「豊岡第三」(2つの学童保育室)
「東金子」(2つの学童保育室)
「宮寺・二本木」(2つの学童保育室)
「藤沢第一」(4つの学童保育室)
「藤沢第二」(4つの学童保育室)
「西武地区」(3つの学童保育室)
選定の結果、最優秀提案者が決まりました。事実上、運営をする事業者です。
「豊岡第一」(2つの学童保育室)→特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ(2社競合)
「豊岡第二」(4つの学童保育室)→特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ(2社競合、相手は広域展開事業者)
「豊岡第三」(2つの学童保育室)→特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ(競合なし)
「東金子」(2つの学童保育室) →特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ(競合なし)
「宮寺・二本木」(2つの学童保育室)→特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ(競合なし)
「藤沢第一」(4つの学童保育室)→株式会社コマーム(3社競合)
「藤沢第二」(4つの学童保育室)→特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ(競合なし)
「西武地区」(3つの学童保育室)→特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブ(2社競合、相手は広域展開事業者)
特定非営利活動法人北本学童保育の会うさぎっ子クラブは、同法人のHPによると、本市で放課後児童クラブを運営していた保護者会が集まって2011年以降にNPO法人となり、その後、北本市の指定管理者制度のもとで児童クラブを運営しています。運営支援ブログが示すところの「地域に根差した放課後児童クラブ運営法人」そのものです。同法人のHPでは12施設の写真が掲載されています。また、未就学児のサポートやこども食堂も事業として展開しているようです。同法人は児童クラブ専業の法人ではないようですが、HPのイメージでは、企業体としての事業運営を強く意識しているようにわたくしにはうかがえます。
北本市と入間市は隣接していません。地図で見ますと川島町(かわじままち。人気の醤油メーカーがありますよ)、川越市(児童クラブの幹部職員は正規の公務員!)、狭山市などが間に入っています。決して遠くはありませんが、道路事情の影響で横方向の移動に時間がかかる埼玉県ゆえ、心理的な距離はそこそこにあります。そのような離れた地域の児童クラブの運営をめぐる公募に参加して、いくつかの地区では競争となって、それに勝ち抜いたということは、わたくし萩原にとっては画期的すぎる出来事であると高く高く評価します。3社競合した地区にも応募していて、そこでは残念ながら最優秀提案者には選ばれませんでしたが、2社競合となった2地区で競った相手は全国規模で児童クラブ運営を行っている非営利の広域展開事業者ですから、失礼な言い方をすれば、サッカーで例えると都道府県リーグのチームがJ1チームに勝った、ということです。快挙なんです。
<どの点がすごいのか>
快挙というのは「地元ではない地域で、競争に勝った」ことです。なお、「児童クラブの運営者を決めることに競争原理を持ち込むべきではない。不適切だ」という意見があるのは百も承知です。ここでは「べき論」を論じて時間を費やすことはしません。現実に公募型プロポーザルや指定管理者の公募が当たり前に行われている現実に「どう対応するか」を考えるべきだとわたくしは指摘します。
現実に児童クラブの運営事業者を選ぶ過程において競争が取り入れられているのであれば、その競争に挑み、勝てないと、児童クラブの運営を続けることはできません。「わたしたちは、こどもを真ん中に、保護者と一緒に運営している素晴らしい団体です。質の高い児童クラブを運営しています」と、地域に根差した児童クラブ運営事業者は呪文のように口にします。確かに質は高いかもしれない。しかしそれはあくまでも運営する側の立場からの評価です。外部の人がどう評価するのかは、外部の人が持っている評価基準、判断基準に大きく影響します。その基準にも問題があるのは確かですし是正が必要であるとわたくしは考えますが、いまの時点では、外部の人に選んでもらわなければ、生き残れないのです。
そして競争相手は、規模が大きく、公募参加のプロセスを多数経験している「公募慣れ」している広域展開事業者である場合、地域に根差した児童クラブ運営事業者には不利になります。ことごとく、広域展開事業者の利点が不利な点となっているからです。しかも厳しいことに、児童クラブの運営事業者を決める側、おおむね市区町村ですが、公の事業ゆえ何よりも「事業の安定、継続性」を求めるのです。そりゃそうですよね。年度の途中で、あるいは契約の期間内に、「ごめんなさい。もう運営資金が足りないので児童クラブを続けられません。撤退します」とは絶対に市区町村は言われたくない。質の程度の差が致命的でなければ、事業が安定して続けられる事業者をより選びがちになるのは当然です。事業規模が広ければ少なくとも人的資源にも余裕があり、事務処理能力、組織運営能力もそれなりに備えます。本部運営機能、事務局機能というバックオフィスの稼働能力がある、ということです。
地域に根差した児童クラブ運営事業者は、その地域だけを事業範囲にした非営利法人である場合、財務基盤は当然に弱く、運営ノウハウもその地域だけに通用するものです。組織運営業務はボランティアの保護者がスキマ時間にこなしたり職員が兼務したりと、そもそも本部事務局機能を設けていない場合もありますし、設けていても小規模にとどまることがあります。広域展開事業者が得意げにアピールする「人が足りなくなったら近い地域の職員を連れてきてカバーします」とも言えません。
児童クラブの運営を巡る競争、公募には、広域にわたってクラブを運営する事業者が当然に有利です。しかも公募に応募してきた数多くの経験がものを言って「公募慣れ」している。これもまた強みです。書類の作成も、プレゼンテーションも、手慣れたものです。
こうして、公募を多く経験してきている広域展開事業者が圧倒的に児童クラブの運営者として選ばれやすいのが児童クラブの公募そのものです。しかも、「公の事業ですから、適切な運営能力を持った事業者を競争で公平に選びたい」という理屈から公募が当たり前に行われています。それでは、地域に根差した児童クラブ運営事業者は、ただ負けるだけです。繰り返しますが、「わたしたちは地域に根差した児童クラブ運営をしています。高い評価を得ています」だけでは、今の公募では勝てません。評価基準、審査基準に問題があるのはまさにその通りです。この点、北本のNPO法人は、指定管理者を公募で決めるプロセスを地元で経験したことが強みになったことでしょう。
その流れを断ち切ることができる可能性を見せたのが、今回の北本のNPO法人だと、わたくしは言いたいのです。これを快挙と呼ばずして何と呼びましょう。「私たちはとてもいい児童クラブ運営をしているのに、なんで競争で、公募で、負けるのですか」と、これまでもそして今も、嘆きの声をよく耳にします。わたくしに言わせれば、「競争や公募があるのを知っているなら、なぜそれに勝とうとしない。勝てるための準備をしてこなかったのか」ということです。やれば勝てることを、入間市での公募で北本の地域に根差した児童クラブ運営事業者が明示したことは、とても意義深いことなのです。
<地域を超えた。既存概念を超えた>
「地域」の意識を超えることができたことがこの快挙の要因であると運営支援は考えます。地域に根差した児童クラブ運営事業者は、どうしても「地元だけに目が向く」ことが最大の難点です。北本のNPO法人はこの点、すでに意識は広く社会に向いていたと言えるでしょう。NPOのHPには長年の指定管理者としての運営ノウハウや児童クラブの運営技術をサービスとして提供する事業が紹介されています。地元の地域以外にサービスを提供する提案をしているので、あとは実際に「他の地域の児童クラブ運営を行うとして、その際に生じる業務負担を適切に処理できるかどうか」を判断する作業になります。
この「他の地域の児童クラブ運営を行う」ということそのものに「そんなこと、できるわけがない」とか「うちらは、この地域の児童クラブを運営するための組織だから」という固定観念が根強いと、「他地域の児童クラブ運営を行う」という想定そのものにたどり着けないのです。北本の場合は、他地域に自らの技術、ノウハウを提供するということで、その最初の難しい意識上の関門を飛び越えていたことが、この快挙の一番大きな勝因であるとわたくしは考えます。
地域に根差した児童クラブは、事業運営に必要な事務処理や組織運営に必要な事務作業を、ボランティアの保護者や職員の兼務によって処理していたり、小規模な本部機能、事務局機能を設けて担当しています。運営するクラブが30,40を超えるようですと専従の役員や本部職員、事務局職員も数人いるでしょう。それでも、処理できる事務能力は地域限定ですし、何より意識が「地元の児童クラブだけ」に向いています。
地域を超えて運営を考える、事業展開を検討していくことについては、何より、組織の運営責任を負うものの意識と、組織運営業務に従事する職員たちの意識が広がることが重要です。「生き残るために何が必要か。事業規模を大きくしていって事業体として大きくたくましくなること」が重要だと理解できる「意識改革」ができていたのであろうと、運営支援は想像します。
組織が生き残るために、広域展開事業者との競争に打ち勝つためには、自分たちの組織が強く、大きくなる必要がある、そのためにも公募で勝ち抜けるノウハウを身につける必要がある、ということです。先にも書きましたが、北本の場合は地元でのいわば「防衛戦」に勝利したその勢いで他地域に進出した、ともいえるでしょう。地元での公募の争いはもちろん辛かったでしょうが、それが他地域での公募参加において役立つ経験になった、とも言えるでしょう。
この点、わたくしの超個人的な感想では、北本市のNPOよりはるかに事業者としての規模が大きく財務基盤もある上尾市やさいたま市の児童クラブ運営非営利法人が依然として地域だけに目を向けているように見えることが返す返すも残念です。公募が当たり前に行われるのであればいずれ公募に直面することもあるでしょう。いつまでも今まで通りで事が進むと思ってはならないのが、公の事業のアウトソーシング事業の鉄則です。それを理解できないようでは先行きは明るくないでしょう。そこを、北本のうさぎは、地域に根差した児童クラブ運営事業者の概念を大きく飛び越えて飛躍に向かって走り出した、とわたくしには感じられたのです。
今後ですが、事業規模を大きくした場合にどの業種でも起こりうる種々の課題に直面することもあるでしょう。人員の確保、新規進出した地域に残る「事業の感覚」との意識のずれなど、種々の課題がきっとあるでしょう。しかしそれは決して乗り越えられない課題ではありません。未来に明るい展望を抱いている限り、いろいろな知恵が沸き上がって、案外簡単に乗り越えられるものばかりでしょう。
今回の公募では極めて重要な点があります。仕様書に「5 関係法令の遵守」とあり、そこには「学童保育室の運営にあたり、本仕様書のほか、次に掲げる法令等を遵守すると共に、国・県・市が定める指針等⑻⑼⑽⑾を準拠すること。」とあります。その法令等のなかに、「(3)こども性暴力防止法」とあります。これはつまり、2026年12月25日施行の、いわゆる日本版DBS制度への対応、すなわち認定事業者になることをも含むものだとわたくしは想像します。性犯罪抑止の種々の方策を講じるのは当然として、特定性犯罪の前科をもつ者を確認したり採用しなかったりすることを求めるものでしょう。このことは、いずれ、公の事業として児童クラブを営む事業者は、自治体から日本版DBS制度の認定事業者になることを当たり前に求められる、ということの先駆けの1つであるとわたくしには考えられます。
埼玉では富士見市のように公募で運営事業者が替わることによる戸惑いや不安が沸き上がっていますが、それは既存のクラブ側が受け身であること、つまり自分たちが選ばれて当然なのにという意識が根底に横たわっているために、公募で運営クラブを勝ち取っていこうとする能動的な動きに対応できていないからです。自分たちが理想とする、希望する児童クラブがあるなら、そういう児童クラブを運営したいなら、運営できる能力を公募で見せつけることが必要です。地域に根差した児童クラブ運営事業者が生き延びるためには、公募で勝つだけの力、パワーを身につけること。つまりは「どんどん大きくなっていくこと」です。成長するもよし、同じ志の事業者同士が合併合体するのもよし。まあつまりは「地域に根差した児童クラブ運営事業者はその理念を持ち続けつつ、事業者としては広域展開事業者となるべし」ということです。
地域に根差した児童クラブ運営事業者が他地域での児童クラブ運営に乗り出すことを決めた今回の出来事は、伝統的な児童クラブ界の流れを変える記念碑的な出来事であると、必ずや後世になって振り返られることとなるでしょう。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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