保育士の殺人未遂事件に思う。放課後児童クラブに遅れている監視カメラ設置を急ぐべきだ。全てを守るために。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。鹿児島県内の認定こども園で保育士がこどもを切りつけて逮捕されるという、極めて異様の信じがたい事件が起きました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)のことを思うと不安が募ります。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<確かに暴行や性的虐待はある、しかし殺人未遂?>
 放課後児童クラブでも保育所、認定こども園、幼稚園、児童館、学校、とにかく子どもが過ごす場所で、子どもに対する暴力は決して行われてはなりません。が、現実に、たたく、蹴るという暴行(体罰であることも多い)や性加害、あるいは暴言などは、残念ながら、さほど珍しいことではありません。しかし、今回の鹿児島の事案は、保育士が子どもの首を刃物で切りつけた疑いで殺人未遂容疑で逮捕されるという、とても信じられないことです。動機の解明が待たれます。筆者の感覚としては、若い読者の方は知らない事件だと思いますが、1978年(昭和53年)に警視庁管内で警察官が大学生を殺害した事件を聞いたときと同じ異様な感覚を覚えました。なおこの事件は社会に極めて大きな衝撃を与えて警視総監が辞任しました。
 現在は付随してこれも信じられない情報が報道で伝えられています。MBC南日本放送の2024年6月9日22時32分配信のインターネットの記事を一部紹介します。
「鹿児島市の認定こども園で、男の子の首を切りつけたとして、保育士の女が逮捕された事件です。女がクラスを受け持って以降、これまでに複数の園児がけがをしていたことが分かりました。」
「容疑者がクラスを受け持った今年4月以降、園児がすり傷や切り傷を負うケースが複数確認されていたということで、園は調査委員会を立ち上げ、原因究明などを進める方針です。」(引用ここまで)
 また、朝日新聞が6月9日20時15分にインターネットに配信した記事も一部紹介します。
「男児は鹿児島市内の病院に運ばれ、約1カ月のけがと診断された。命に別条はないという。その後、病院が県警に通報。」
「代理人弁護士によると、容疑者は今年2月から同園に勤務。4月から担任を務めていたという。普段の勤務態度について、「まじめ」「優しい」などと評価する職員もいた。一方で、容疑者のクラスでは、園児が擦り傷や切り傷を負ったケースが多かったという。」

 引用した記事で私が気になったのは2点。1つは、逮捕された保育士のクラスでは子どもがけがをすることが多かったということ。もう1つは、傷を警察に通報したのが病院だった、ということです。

<複数の子どもがけが?解明するには映像が重要>
 逮捕された保育士が担任をしていたクラスでは、子どもが複数のけがをしていた。擦り傷や切り傷を負ったケースが多かった。これが何を意味しているのか、私を含めて多くの人は「これは、たぶん、保育士が、やっていたんじゃないか?」と想像するのは無理もないでしょう。もちろん、現時点ではまったく分かりません。単なる偶然かもしれません。いや、かもしれないではなくて、単なる偶然である可能性はそれなりにあります。これから警察、検察による調べが進むのでしょうが、それとて、逮捕された保育士の「自供」だけであって確たる物証、証拠がなければ、真実は、事実はどうなのか、わからないでしょう。

 事実の解明に役立つものは、第三者の目撃であり、動かぬ証拠、つまり記録です。映像による記録です。

 今回の事案では保育士が逮捕されるきっかけの1つに防犯カメラの映像があったという報道があります。園庭で遊んでいた子どもが園の建物の玄関付近で被害に遭ったようですが、その様子を映していた防犯カメラが存在していたことをうかがわせます。では、施設の室内にどれだけ防犯カメラ、監視カメラがあったのかどうか、気になるところです。施設内にカメラがあり、死角を極力少なくなるよう複数設置され、解像度もそれなりに高く、かつ、映像データがしっかりと保存されているなら、これまで複数あったという子どもの不審なけがについても、何かしらの手掛かりが得られる可能性があります。

 さて、延々と鹿児島の事案に言及しましたが、放課後児童クラブに話を移すと、まずそもそも、防犯カメラ、監視カメラが十分な台数、設置されている施設はどれだけあるのでしょうか。大手の営利企業が母体である児童クラブであれば、カメラも設置されていることが多いでしょうが、公営クラブや保護者会、非営利法人が設置、運営する民設クラブでは、防犯カメラの設置はさほど進んでいないのではないかと推測します。設置があったとしても、不審者の出入りを確認するため玄関や出入り口が設置場所、というケースではないでしょうか。

 そもそも、登所や降所を記録したり職員の勤怠を電子媒体で記録するいわゆるICT化ですらなかなか進まない状況です。それはひとえに予算がないからです。防犯カメラを設置したくても、その予算がないのが放課後児童クラブの世界です。設置するときの導入費用だけでなく、運用のコストもねん出できないのが放課後児童クラブの世界です。

 しかし、この鹿児島のような、特異すぎる事案は滅多にないとしても、残念ながら、体罰を含めた暴力的行為や性加害は時折伝えられる程度に起きています。検挙されるまでの事案でなく加害者、被害者の双方で話し合って示談で話がまとまるというケースならもっと多い。そのようなとき、何があったのか、映像でしっかり記録されていれば、事実の解明やその後の展開に重要な役割を果たせるでしょう。

 こういうカメラを導入することに、現場から「私たちの仕事を信頼していないのか」「見張られているようで気持ちよく働けない」という声が上がることがあります。事業者側、運営側も「現場を信頼していないようで、気が引ける」という声が出ることもあります。私に言わせれば、何を間抜けなことを言っているのだ、となります。職員を信じる、信じないの次元で判断しているのではありません。業務がどのように遂行されているのか、不適切な業務が行われていないかどうかを記録、確認するためにカメラを設置することに何らやましいことはありません。

 国や行政には、防犯カメラ設置を早急に、かつ、容易にするような補助金制度の実施を強く求めます。組織内部、職員による不法行為だけでなく、子ども同士のトラブルにも、もちろん外部第三者からの不法侵入や犯罪行為など、もれなく記録ができる複数台の防犯カメラ、監視カメラの設置に使える臨時の補助金制度を早期に実施していただきたい。

<病院からの通報?>
 もう1つの気になった点である、病院からの通報。これはどういうことでしょうか。想像するならば、治療にあたった医師が傷口を見て、これは人為的に付けられた傷であろうと判断して警察に通報した、ということでしょう。医師が気付いたからこそ事案が明るみになったといえます。(もっとも、医師であるなら気づいてもらわねば困るのですが)

 事案発生直後は想像を絶する混乱でしょうから、施設側で気づかなかったことを強く責めることはできません。しかしそれでも思うのは、以前から、逮捕された保育士のクラスでは子どもたちに不審な傷やけがが多かった、ということを「気に留めていた」人がいたなら、今回の、首に子どもがけがをしたということに、「これは、何かがあるのではないか」ということを、施設側の誰かが考えることがあったのではないか、ということです。病院が警察に通報する前に、施設側から「実は不審な点があるのですが」と通報、相談することができたのではないかということです。

 これは私が何度も運営支援ブログに記していますが、「早期発見行動」の重要性を示します。早期発見行動とはつまり職員の行動に不法行為があるのではないか、あるいは不法行為をうかがわせるような行動があるのではないか、ということを常に職員は意識して、相互に職員の所作、行動を確認することです。この早期発見行動を徹底していれば、「何か、おかしいぞ」と気づくことに至る場面が、もっと早い日時となる可能性があります。防犯カメラ、監視カメラが完備していても、この早期発見行動の意識が徹底していなければ、人間の不審な行為にはなかなか気が付かないものです。カメラで得られた情報も、「その行動は、もしかしたら?」という意識を持って確認しなければ、隠された重大な事案を見逃すことにつながりかねないのです。

 今回の事案で、記事にあるように、子どもが擦り傷、切り傷を負うことが多かったということは、施設側としても気になっていたことを示しています。であれば、逮捕された保育士にとりわけ早期発見行動の意識を向ける行動を取っていれば、首に切りつけるという最悪の事態の前に、事態を食い止めることができた可能性もあるのです。

 放課後児童クラブの世界は、あえて言えば、職員の資質や子どもの状態において、保育所や、認定こども園と比べて、決して整った環境ではありません。ずばり言えば、「もっとひどい職場環境」です。職員、従事者の良心にだけ期待することははっきり言って限界があります。もちろん、まじめに、ひたすらに子どもの権利を守ろうと職務に忠実な職員が絶対数としては圧倒的に多数であることは承知しています。が、児童クラブへの社会のニーズが急増し、相次いで施設が設置されていはいるものの、劣悪な雇用条件でなかなか良質な人材を確保しにくい現実で、社会的な規範の意識をしっかり持っていない人物が職員として採用されてしまいがちな状況にあることは、残念ながら事実です。カメラの整備とあわせて、従事する者への早期発見行動の徹底をぜひ、児童クラブの運営事業者は呼び掛けていただきたいと、運営支援は強く求めます。

<監視された職場ではない。すべてを守る職場になる>
 カメラの映像で監視され、職員が互いに「疑問の目」を持って働く職場、そんな職場は嫌だ!と思う児童クラブの職員はきっと多いでしょう。誤解です。実はすべてを守る職場です。不審な事案が起こった時にその原因を早期に解明できる職場は、最終的に子どもや職員、運営事業者を守ることになります。再発防止に役立ちます。また、故意ではない事案にもかかわらず故意の犯罪行為であると、誤って結論付けられることを防ぐ証拠を得られる手段にもなります。「監視されている」のではなくて、「守ってくれるための映像であり、職員相互のチェックの視点」なのです。

 運営事業者はその点をしっかりと伝え、従事する者も軽々に誤解しないようにしていただきたいと私は願っています。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、6月下旬にも寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 親と事業者の悩みに向き合う」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。およそ2,000円になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、あと1か月です。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)