人手不足に苦しむ学童保育の世界。人手不足を解消するには構造的な問題に取り組まなければなりません。最終回

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 これまでの間、ブログでは学童保育(本稿では、放課後児童クラブのことを指します)の世界を苦しめる慢性的な人手不足状態の解消に向けて、種々の提言を紹介してきました。
 ここまでのところは、
・国が示す、補助金と保護者の負担の割合を現行の5割ずつから、補助金の負担割合を多くすること
・国:都道府県:市区町村が3分の1ずつである補助金負担割合を市区町村と都道府県が6分の1、国が3分の2とすること
・児童福祉法を改正し、放課後児童クラブを地域子ども子育て支援事業から児童福祉施設に位置付けを変えること
・公契約条例を制定し、学童保育の職員の賃金を保証する
・育成支援の質を担保するに必要な就業時間の設定と、常勤職員の無期雇用を契約で盛り込む
 この5点を実現させるために「世論の支持と理解が必要」であって、現在の学童保育を「変えなきゃいけない」と社会が認識することと、「学童保育には本当に感謝している。子どもの育ちを支える専門分野だね」と社会が評価すること、つまり社会が学童保育を正しく理解し評価することで、構造的な仕組みを変えられることにつながると、訴えました。

 実のところ、職員数をなるべく多く確保し、しかも職員の給料を引き上げることに熱心な学童保育の事業者は、存在しているのです。絶対数は多くはないのですが、全国のあちこちにあります。少なくとも私の知る限り、埼玉県や東京都には存在しています。ということは、それら、「良心的な」事業者が運営する学童保育所の数が増えていけば、いいのです。

 それらの良心的な事業者は、ぜひとも、自治体から運営を任される学童保育所の数を増やすことに注力してください。1つの市区町村だけではなく、自治体の境界を越えて、他の地域の学童保育所の運営を引き受けることに努力していただきたいと私は期待します。規模が大きくなるとそれだけ予算的にも余裕が出てきます。スケールメリットが生じるのです。ビジネス感覚に富んだ、事業運営に長けた人たちによる運営であれば、事業規模を拡大する手はずなど、手慣れたものでしょう。「規模の拡大は無理」と思えるのなら、あえて言いますが、事業の責任者としてご自身の事業運営の素質は限定的であるということを冷静に自覚してください。

 余談ですが、学童保育所を運営する運営主体は、どのような形態が理想なのでしょう。伝統的な学童保育業界は、「公営」すなわち自治体が人を雇用して運営する形式をいまだに理想としています。設置主体として自治体が責任を持つのは欠かせませんし、自治体が、学童保育所の全職員を「正規雇用」すなわち正規の公務員で採用して学童保育所を設置、運営するのであれば、それは理想でしょう。ただし、それは現実において、「不可能」です。子どもの受け入れ義務がある保育所にしてから、どんどん公立公営保育所が減って民営保育所が増えていますし、全国的に公務員の人数を削減する時代、教員も臨時採用者ばかり。まして学童保育の職員が基幹的職員ならまだしも多くの職員が正規採用されることは、もうありえません。有期雇用にあたる会計年度任用職員は、身分も報酬も不安定です。ワーキングプアの温床にすらなっています。
 また、全員が正規の公務員で職員の身分が安定している場合に問題となってくるのは、「事業運営に関する進取性の意識」です。「お役所仕事」という言葉が象徴するように、およそ公営組織は、進化発展がない、と言い切っても良いでしょう。民間のように迅速さがない、きめ細やかな対応がない、杓子定規すぎるなど、対人支援業である学童保育所の運営には、実際には不向きであると私は考えています。もっとも、ただ子どもを預けたいだけの保護者にとっては理想でしょう。職員側や施設側から、特に何も求められないのですから。
 よって、「職員にとっては理想的だけれど、(学童保育所に様々なことを期待したい)利用者側からすると実は困ることがある」というのが、完全な公設公営学童保育所と、私は思っています。(この、職員にとって理想的というところが、伝統的な学童保育業界がいまだに公設公営を理想形として追い求めている理由です)

 株式会社経営の学童保育所はどうでしょう。企業の規模が大きければ、福利厚生や社内教育は整っていそうです。しかしそれも、正規採用、つまり無期雇用であれば、です。有期雇用、契約職員主体の株式会社経営学童保育所は実に多いです。それでは、やはり職員の身分は不安定であり、「ずっと働き続けたい」という人にとっては応募しづらい環境です。また、営利を追求するのが株式会社の使命であり、「うちは株式会社だけれど、利益は二の次、学童保育所では利潤を求めない」という企業があったとしたら、それは間違っています。人件費を削ってでも利益を確保するのが株式会社です。もっとも、グループ企業の1社が運営する学童保育所であって、学童保育所の分野は将来、別企業が営む学習塾や予備校、スポーツクラブに入所入会させる児童の「事前確保」でありそのための投資、という考え方であれば、学童保育「だけ」で利益が上がらなくても、トータルで見て利益を確保するための投資ですから、ありえるでしょうね。

 非営利法人はどうでしょう。必要以上に利益を追求しない(注意:非営利法人は利益を追求してはならない、の考えは誤解です。利益を追求することは正しいのです。得た利益を事業に投資するための利益追求は正しいのです。利益を役員で山分けすることがダメなのです)ので、事業に配分できる予算は増えるでしょう。職員の無期雇用もかなうでしょう。その点、運営がしっかりしている非営利法人は、まさに学童保育所の運営主体として私は理想的だと考えています。ただし、「事業規模が小さく財務が脆弱」の場合や「運営責任者が企業経営、組織運営について素人同然で、保護者会の延長の感覚で組織運営に取り組んでいる」場合は、事業運営に不安定な要素が大きく、私はこの場合であれば公的責任が極めて重い学童保育所の運営から手を引くべきだ、とすら考えています。
 なお、保護者会運営については、法的責任の問題で「すぐにでも取りやめるべき。最も不適合な運営主体」と考えています。
 さらに言えば、自治体の民営学童保育所に対する設置運営責任ですが、補助金を交付して事業委託だろうが指定管理だろうが、学童保育所の運営を任せる限り、自治体は契約上、運営主体を管理できる権利を持つことができます。よって、公設公営でなくても、自治体が設置運営責任を果たすことは十分可能であると私は考えています。

 強引ですが、私が思う、理想的な放課後児童クラブの運営主体を順位付けしましょう。
1位 職員全員が正規公務員で、進化発展に取り組める公設公営 ←実際には不可能。ありえない
2位 非営利法人で、運営者は十分にビジネス感覚を身につけており、事業規模が大きい ←ありえる。実質1位
3位 株式会社で、利潤の追求はそこそこに、職員雇用は無期雇用を中心にしている ←まあ、あるかもしれない
ここまで合格です。
4位以下 職員を有期雇用主体で処遇する場合、公営だろうが非営利法人だろうが営利企業だろうが、みな不合格

 学童保育を悩ます人手不足を解消するには、補助金の仕組みを変え、法令を変え、学童保育の位置づけを「必須なもの」に変更し、性善説を取らず運営者にルールとして義務を課すことで無期雇用や就業時間の確保を余儀なくさせること。その上で、事業の継続に適した運営主体が、多くの学童保育所を運営するように事業規模を広げていくことです。

 「いま、自分たちの学童保育所は、とてもひどい」という場合は、思い切って行動してみてはいかがですか。利用者たる保護者が一致団結して、自分たちの学童保育所運営主体に「ノー」を突きつけることです。その上で、理想的に思える運営主体を呼び寄せ、行政に提案すればいいのです。行政を動かすには、住民の力がやっぱり一番ですから。

 誰かが動かないと、思い切って動かないと、構造的な問題は、変わりません。ダメだダメだと嘆くばかりでは、何も変わりません。動かねばならないのです。私は、動き始めていますよ。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の世界の発展と質的な向上のために種々の提案を発信しています。積極的に学童保育の現状や理想について社会に発信をしていきます。また、育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供できます。学童保育業界が抱える種々の問題や課題について、具体的な提案を行っています。学童保育所の運営について生じる大小さまざまな問題について、取り組み方に関する種々の具体的対応法の助言が可能です。個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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