ナイナイ尽くしの放課後児童クラブ(学童保育所)の職場。無理を承知で最善を尽くす手法を考えよう。その5

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と保護者、働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だから児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 本日の運営支援ブログは、職員数の少なさを乗り切る考え方のシリーズ5回目(最終回)です。職員数がふえそうにない現状、いかにして少しでも仕事のきつさを減らせるかの工夫を考えるシリーズです。これまでは「フレックスタイム制度」「仕事の無駄を減らす業務見直し」「無理な仕事を押し付けない適材適所」を挙げてきましたが、「理屈は分かるんだけど実際にできないことばかり。現実味がない」という声が聞こえてきそうです。ということで、最終回は実務、実践での手法を考えます。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<試行錯誤、トライアンドエラーを恐れない>
 まず、組織全体として、当然ながらクラブのすべての職員に、「仕事量を減らす改革をする。そのためにいろいろチャレンジする」ということで意思統一します。「仕事改革」とでも名付ければよいでしょう。その仕事改革で業務見直しをすることは、保護者、こどもに説明します。保護者には、「今までやっていたことをどうしてやらなくなったのか?」と疑問を抱くことを防ぐために必要です。こどもは当然、クラブで職員と向き合う存在ですからね。こどもたちにも「これから、仕事のやり方を変えます。どう変えていくのか、変えたのかは、その時々にちゃんと説明します」と告げましょう。
 ここまでが前段階。

 それから先は、「とにかくやってみる」です。何をやるか。組織とクラブ全職員で相談して、取り掛かる対象を決めることになりますが、運営支援が勧めるのは次のものです。なおもちろん、こどもの安全確保に直結する業務や、組織運営上必要な業務に手を付けてはなりません。
「作業工程が多い業務。準備に時間がかかる業務」→簡略化する。途中の工程を減らす。結果を質素、シンプルなもので良いと理解する。
「いままでのことを思い出して、時々、やることを忘れてしまったことがある業務や、どうしても人が足りなくて先送りしたことがある業務があれば、それはいったん、取りやめてみる」
「職員たちの全員や多数が敬遠しがちな業務は、取りやめてみる」
「あれこれ考えて、見直してみたい業務が思いつかないときは、そのクラブの施設長や主任が、自分の感覚で、これはいったんなくてもいいかな、と思う業務を、いったん取りやめてみる」

 それで1か月や2、3か月、やってみてください。

<できなかったら?>
 「みんな大切な仕事ばかり。もうすでに、やらなくて良い業務は切り落としてきた。これ以上、業務のスリム化はできない」という声も、あるでしょう。その場合はどうするか。
 やむを得ないですが、簡略化できる業務、いったん中止、中断しても全体の運営に影響が出ない業務はとっくに取りやめてきたとあれば、業務改善、効率化、省力化は「できない」ということになります。その場合は残念ながら、いまの厳しい状態、少ない職員数で1人あたりの業務量が過重である状態は続くことになります。当然、「もっと人を増やしてください」と運営本部や市区町村に要望をし続けているでしょう。スリム化の余地が無く、職員を増員することを組織が認めないのであれば、「もう、どうしようもない」ということになります。
 「そういう場合の解決策を知りたいんだ!」と思われるでしょう。はっきりいって、そういう場合の解決策はありません。無の状態からさらに減らすことはできませんから。ではどうすればいいか? 運営支援としては、「そんなにひどい職場なら、すぐにでも、あるいはタイミングを見てお辞めなさい。児童クラブはどこでも求人を出しているから、通勤可能範囲で次の職場が見つかるでしょう。今の職場より、ずっとマシかもしれませんよ」とお答えします。

 「それでは、いまのクラブのこどもたちはどうする?」と、まじめなクラブ職員ほど心を痛めますが、運営支援はこうお答えします。「自身の体調を崩してまで取り組む仕事は、ありません。自分自身が、病むことだったり体調を崩して早く死ぬことだったりと自信の不利益を納得しているならともかく、こどものためにとことん頑張れという、やりがい搾取の前に人生をひどい目に追い込まれることは避けましょう」。
 こどもを守る存在の児童クラブ職員ですが、自分自身の健康、生活を守れないで、こどもを守れません。そのクラブで自分自身の健康や生活を維持できないなら、自分自身を守れるクラブで、こどもたちを守ってください。そうしたクラブは苦境に陥るでしょう。なにせ保育所と比べてはるかに配置基準がユルユルであったとしても、最低限の職員配置基準のレベルでしかなくても、配置基準は配置基準。それすら守れない、あるいは守ろうとしない設置主体や運営主体の、いい加減な経営姿勢に、殉死することはありません。

 「いやいや、地域に根差した児童クラブ運営事業者でとても良い事業者なんです。困るのは補助金を増やさない自治体なんです」ということもあるでしょう。この場合は2つの答えを運営支援は用意します。1つは「いくら共感している事業者であっても、自分自身のワークライフバランスを犠牲にして良いと思えなければ、おやめなさい。あるいは、仕事が楽になるような職種への変更を申し出なさい」。もう1つは、「では、今までは聖域だと思っていた業務でこどもの安全確保に直結する業務以外について、見直しをして業務量を減らす覚悟をしなさい」、です。

<必要な仕事しか残っていないはず。本当に?>
 数年でも運営を続けていくうちに、仕事というものは自然に取捨選択が働いて必要な業務は残り、必要が無いものはいつしか誰もやらなくなるものです。ですから、「必要な仕事しか残っていないはず」というのは、ある部分において正しいとわたくし萩原は考えます。

 一方で、とりわけ保護者運営や、保護者運営に由来するクラブ、また公営クラブには、合理的に考えてもう必要が無いのでは? という仕事や業務が残っていることがありうると、わたくしは感じます。発足直後や、その時代には必要だったという仕事が、時代の変化や法制度の変更などによって、必然性が無くなっているという場合が該当します。

 思い込み。「これはずっとやってきた。やってきたのは必要だったから。だからこの仕事は必要だ」という考えを捨ててください。ゼロベースで考えるということは、そういうことです。「現時点で行っている業務すべてが、過去の取捨選択を潜り抜けてすべて必要で合理性がある業務だ」という思い込みを捨ててください。それができるかできないかが、業務見直しの入り口なのですから。

 児童クラブの場合、「こどものため」という意識、ことばが、「錦の御旗」としてすべての思考回路をストップさせてしまいます。(こどものために、きつい仕事でも頑張ってくれるよね、という「やりがい搾取」はその最たるもの)
 もちろん何度も訴えていますがこどもの安全確保に直結する業務は削れません。近くの公園にこどもたちを連れていくのに、複数職員の誘導、監視なくして移動してはなりません。そういう性質の業務ではないもので、工程の省力化や業務そのものの一時ストップなどができるものがあるかどうかを、「こどもためだから必要でしょう」と目されている業務の中からも探すということです。今どきはもうほとんどないかもしれませんが、かつてはよく、誕生日などのイベントで施設内に飾り着けるものを職員が作っていたことがありました。「こどもたちが喜ぶから」「雰囲気が出るから」ということですが、それ、本当に必要ですか? ということです。どうしても必要ならこどもたちと一緒に作るとか、運営事業者に要求して100均で買えるものを購入するとか、保護者に呼びかけて不要になったものや余ったものがあったら寄贈してもらうとか、いろいろと手はあるでしょう。

 自分たちのクラブや組織で行っている業務が本当に「こどものため」に必要な業務なのかどうか、他のクラブや他の運営事業者でのクラブと情報共有することが大切です。もしかすると(そして決して珍しくない)自分のクラブでやっていることは実はそのクラブの「主(ヌシ)」のベテラン職員のこだわりだけでやり続けているもので他のクラブや他の運営事業者のクラブではとっくに取りやめたこととか、まったくやったことがなくてそれで不自由していない、ということかもしれません。前にも書きましたが、漫画雑誌の発売日にわざわざコンビニへ寄ってクラブに買ってくることをしていたクラブがありましたが「うちはそうしてきました。こどもたちも喜んでいます。買いに行く手間ぐらいなんともありません」と職員たちはいいつつも「仕事が多くて嫌になります」とも訴えるわけですよ。しかも「雑誌を買う当番の人が忘れてしまうことがあるんです」と愚痴を言ってもいたんですね。わたくしに言わせれば「そんな業務、おやめなさい」です。

<運営事業者が本気にならねばならない>
 業務の削減は、クラブ独自で行うなら、それほど大きな業務を効率化することはできません。クラブの職員たちで取り組むなら、日々の業務の流れで生じやすい無駄やムラを効率化することやイベントの内容の簡素化あるいは取りやめが主なものになります。手を付けやすい分、「気休め」程度の省力化に留まることが多いでしょう。それでも、やらないより、やったほうがましです。「塵も積もれば山となる」です。
 一方で、過重業務の解消を少しでも目指すなら運営事業者として取り組まねばなりません。もっといえば、運営事業者が、職員の過重労働を本気で減らそうと思っていないのならば、その事業者が運営するクラブは、きつい仕事のままです。そんな事業者に雇われ続けることは運営支援はまったく賛成できません。
 運営事業者の本気が必要です。その本気とは、いままで課していた業務を取りやめる、見直すことに関して生じる影響や不具合への対応、場合によっては生じた悪影響への責任を、クラブの現場ではなくて運営事業者として、あるいは運営責任者が背負う覚悟を明確に示すことです。その上で、例えば、「こどもの記録を書く時間を指定の日時だけにする。その時間内で書けるような書式、あるいは記載内容の絞り込みを行う」という業務効率化に取り組む。極端な話では、運営事業者が職員たち(=実際は過半数組合または過半数代表者)と業務効率化を話し合って「ワークシェアリング」を導入するという究極の策に踏み切ることも選択肢に入れてみることをお勧めします。
 ワークシェアリングとは、1人がやっている仕事を複数人で分担することで、通常は「雇用の維持」を目的とします。仕事量が減るので賃金も減りますが、そうして削減した賃金分で、解雇されたり削減されたりする人をなるべく減らすのが目的です。つまり、「職員の給料は減るけれど減らした分で人を雇って仕事を担ってもらい、業務の量を減らす」ということです。賃金が減るので運営事業者だけで勧められる施策ではありませんが、少しずつ減らした1人あたりの人件費で非常勤職員を1人やとって、その人にも業務を割り当てていくということで、全体として過重労働を減らしていく、という取り組みです。

 児童クラブで言えば、育成支援体制強化事業の補助金を獲得することを運営事業者が本気で自治体に要求することも「事業者の本気」です。要求したからといってすぐに認められるとはなかなかならなくても、とにかく要求し続けることです。1支援の単位ごとに約155万円ですから、複数クラブを運営する事業者であれば、適用を自治体が認めたのならかなりの効果があります。昼食や清掃などの業務を担う非常勤職員をこの補助金で雇うことができたなら、運営費への補助金で育成支援そのものに従事する職員を増やせる可能性が出てきます。この補助金の確保を最優先に、児童クラブ運営事業者は市区町村に対して粘り強く、何年かかることを前提に交渉を続けましょう。議会からの後押しも欲しいですね。

 運営事業者の本気。最後にわたくしの経験をお伝えして終わりにします。50人ちょっとのこどもの人数を見越して整備されたクラブに、待機児童ゼロという政策を貫徹するために80人超のこどもを受け入れざるを得ない見込みが出た年がありました。現場の職員は当然ですが「無理です。こどもの安全を確保できません。職員も疲労が激しくて間違いなく仕事を続けられません」と訴えていました。もちろんわたくしも行政に早急な分離分割を求めつつそれまでの間の職員増員を訴えました。しかし行政もなかなか打つ手がありません。こちらも分離分割の候補先を探しに入っていましたがなかなか見つかりません。行政が打ち出したのは支援の単位をとりあえず分けること、つまり名簿上の分割でした。しかし場所が同一なので単に支援の単位を分割しただけで補助金は1単位分でした。
 80人超を受け入れての運営が始まり、現場の職員は無理を承知でこどもたちのために文字通り、奮闘していました。非常に声量が多くて職員の声が聞こえないクラブ室内で拡声器を使うなど、涙ぐましい努力をしてくれました。その年の秋、業界団体と県庁担当課との恒例の会議がありました。現場の苦境を県庁幹部と列席する県議会議員に届ける機会です。その機会に発言の機会を頂き、名簿だけの支援の単位ではこどもたちを支えられない、名簿だけの支援の単位でお茶を濁すようなことを県は見過ごしてはならないと訴えました。
 行政との協働を最優先としてきたわたくしでしたが、職員の立場にたって行動することと、行政担当課との協働や連携に水を差すことが大いに予想される行動を比較したとき、「ここは組織の長として職員を護らねばならない。いざとなったら首をくくればよい」との覚悟で、県庁担当課に半ば直訴することを選びました。
 会合を終えて本部事務局に戻り、いつものように残業をしていましたが、事務局(市役所別館にオフィスがあります)の向かいの担当課も課長以下、夜8時を過ぎても残っていました。想像はむろんつきました。で、わたくしがトイレに行ったところすかさず課長もトイレに入ってきました。そして課長から「いやあ、県庁からこっぴどく言われたよ。局長の言うことはごもっともだから。まいっちゃったよ。でも、確かに正しいのはそちらだからなぁ」と言葉をかけられました。2人並んで小の用事を足している状況で、でした。そりゃもう、出ていたものが出なくなりそうなぐらいこちらも緊張しましたよ。

 数日後、担当課からは「今年度はどうしようもないのは理解してほしい。でも来年度は場所が見つかり次第、分離分割するよう予算を取る」という話しがありました。まあ、駆け引きに完全に勝ったわけではありませんでしたが、場所が見つかり次第、あのギュウギュウ詰めは解消できることこなったので痛み分け、ということでしょうか。次年度からは2つの支援の単位分の補助金がついて職員が増員され、職員数が増えたので少しは現場の負担は減りました。さらに分離分割の候補物件が見つかったのでその次の年度にようやく分割がかないました。それも駅近くのオフィスビルで賃料が高いところでしたが施設開設(賃貸物件の改修)の補助金と、自治体単独の補助金である家賃補助の増額を勝ち取っての開所でした。複数の避難路を確保するためにオフィスビルの壁をぶち抜いて新たに非常口を作るという大掛かりな改修工事でしたが、それもやり遂げました。

 運営本部が職員の過重労働解消に興味がない、利益を確保するだけしか目指していない、という運営事業者はきっとあるでしょう。そういう事業者は自然に淘汰されていってほしい。そのためにも、ひどい事業者のもとで働くのは、わたくしは止めたほうがよいと考えていますよ。能力がある、育成支援をしっかりやりたいと思っている人でしたらなおさらです。そういう転職は、決して悪いことではありませんから。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

New! ※当運営支援ブログにも時々登場する、名古屋の弁護士、鈴木愛子氏による「子どもが行きたい学童保育」(高文研)が発売されました。放課後児童クラブのあり方とその価値、本質が、具体的な事例に基づいて紹介されています。放課後児童クラブ、学童保育に関わるすべての方に読んでいただきたい、素晴らしい本です。とりわけ行政パーソンや議員の方々には必読と、わたくし萩原は断言します。この運営支援ブログを探してたどり着いた方々は、多かれ少なかれ児童クラブに興味関心がある方でしょう。であれば、「子どもが行きたい学童保育」をぜひ、お求めください。本には、児童クラブに詳しい専門家の間宮静香氏、安部芳絵氏のこれまた的確な解説も併せて収録されています。本当に「どえりゃー学童本」が誕生しました!
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萩原和也