またも放課後児童クラブ支援員による残念な不適切行為。支援員の意識、行政の姿勢がダメ!世論の過ちを正せ!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。連日、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の不祥事を取り上げます。児童クラブ職員が子どもに暴言を浴びせた事案です。私は、クラブ職員(支援員)、行政に激しく怒りを感じています。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<報道された事案>
 三重県名張市の放課後児童クラブで、クラブ職員が在籍児童に暴言を浴びせ、小学1年生の児童が心的外傷後ストレス症候群と診断されたという事案です。心理的に傷害を負ったのですから、これは傷害事件に等しい事案です。昨日の運営支援ブログでは面前DVのような状態で児童が適応障害になりました。連日、児童クラブで子どもが辛い目に遭う事案が報道されることは、由々しき事態です。では、報道された記事を一部引用します。CBCテレビ5月15日16時48分配信の記事です。
「三重県名張市の放課後児童クラブで、男性指導員が小学1年生の男子児童の手を振り払い、「同じことしたら痛い目みるからな」と発言するなど不適切な行為をした疑いがあることが分かりました。」
「4月26日、小学校の敷地内にある放課後児童クラブで、男の子が別の児童とトラブルになった際、男性指導員が男の子を乱暴な言葉で叱り、手を強く振り払うなど不適切な行為をしたということです。」
「男の子はその後、放課後児童クラブの話をするだけで腹痛や頭痛などの症状を訴えるようになり、病院で心的外傷後ストレス症候群と診断されました。CBCテレビの取材に対して男性指導員は「あれこれ否定する気もないですから、市の窓口を通じて取材してください」と話しました。名張市は事案を把握した後、男性指導員に対し、子どもとの接し方を改善するよう口頭で指導を行ったということです。しかし、放課後児童クラブの運営主体は市ではなく、地域住民らで構成される運営委員会のため、市は指導員の採用に関わっておらず、男性指導員を処分することもできないと言います。」(引用ここまで)

<もう、本当に呆れてしまう:資質>
 運営支援ブログの愛読者の方はもちろん、この事案がどれだけ「馬鹿げている」かお判りでしょう。また、検索でたまたま表示されて訪れた読者さまには、この事案が、「まっとうに営まれている」児童クラブでは「ありえない」理由をお伝えします。
・児童クラブ職員(注:報道では指導員としています。指導員とは旧称です。支援員とするべきです)は、威圧的な言動で児童を従わせることをしてはならない。それは育成支援ではなく、法令で禁止されている行為(厚生労働省令第12条の違反)に当たる。
・児童が小学1年生であること。小学1年生、それも4月という時期は、他児とトラブルを起こした児童に限らず、ほぼ集団生活における他者とのコミュニケーションがうまく発揮できない時期。その時期を考慮せず、職員が一方的に服従させる接し方は、育成支援ではない。

 私に言わせれば、この男性指導員なる人物は、いったい、放課後児童クラブ運営指針を一度でも目にしたことがあるのだろうかと、はなはだ疑問に思います。放課後児童支援員の資格認定研修を受講していたのであれば、受講時間の間、頭の中は別の事を考えていたのではないかと疑問に思います。「同じことをしたら痛い目にあうからな」という文言は、およそ、まっとうな人物が述べる発言ではありません。ならず者、暴力で他人を服従させることを好む反社会的な勢力に共感を覚える人物が好む言葉でしょう。それを、児童クラブの職員が、児童に向かって言ってのけるとは、この職員はあきらかに児童クラブ職員の資質を備えていません。

 さらに「あれこれ否定する気もないですから」という、取材に対して応じた言葉です。個人の立場で話せないことだってそれは当然ありますから、「ノーコメントです」といえば良いだけです。「個人の立場でコメントはできません」でも構わないのです。それを、「あれこれ否定する気もない」という投げやりな発言は、およそ、社会人としての知性を感じさせません。取材するメディアに対してではなく、社会一般に謙虚な姿勢を感じさせません。「ああ、学童で働く人間の知性って、そんなもんだよね」と世間に誤解を与えてしまいます。いや、誤解ではないですね。残念な真実の一端を知らしめてしまった、と言う方が正確でしょうか。悲しいですが。

 さて私はこの職員だけに残念な思いをしているのではありません。このクラブにおける職員の研修、教育が、おそらくいい加減な内容だったであろうと想像します。クラブ全体として、質の高い職員になるよう育てていこうという姿勢がおよそ不十分であったと想像するのです。職員個人だけでなく、この職員が属するクラブ(を構成する職員と運営機構に限る)が、はなはだ残念です。

<もう、本当に呆れてしまう:行政>
 記事では、行政の姿勢に言及されています。私は本当に腹が立ちます。市側は「口頭での指導を行った」とあります。医師から心的外傷後ストレス症候群という診断を受けるまで心理的に激しい傷害を受けた児童がいる重大な事案という認識を欠いています。本来なら、文書で指導をするべきです。職員個人への指導ではなく、クラブ全体の運営状況を監査するべきです。
 行政は、このクラブの運営者ではない、すなわち職員の雇用主ではないので懲戒処分などは直接に出来ないのは当然です。しかし、設置者です。補助金を交付している立場です。補助金を交付している限り、監査を行うことができます。なぜ臨時に特別の監査を行わないのか。面倒なのですか?それとも、監査をしたら次々に不適切な事例が明るみになるからですか?あるいは、「子どもなんて言うことを聞かなければビシッと叱って当然。今回は、診断書が出ちゃっただけだから」などと事態そのものを軽視しているのですか?

 地域の住民が間違いなく、公が設置した施設において、被害にあったのです。地域住民を守る行政が、そんな及び腰でいいのですか。やはり児童クラブそのものを、軽視しているとしか私には思えないのです。

<世間の見方は残念ながら、この不適切行為に賛同が多数!>
 この報道記事を紹介したヤフーニュースのコメントは、全体数としてさほど多くはありません。170ちょっとです。むしろ少ない方でしょう。それはそれで、関心が無い話題なのかもしれません。ただ、私が極めて残念なのは、コメントの多くが、この職員の行為に理解や同情を示す内容が多いことです。返す刀で、子どものしつけは家庭の役目であり、こういうケースは保護者の育て方が悪い、という論調に進みがちです。また、児童クラブ職員とおぼしき方のコメントもあり、名張の児童クラブ職員に対して同情するとコメントしています。

 つまり、世間的にはこういう理解が児童クラブにある、ということです。
・児童クラブは子どもを「預かる場」である。言うことを聞かない子どもに厳しく接するのは当然。他児に迷惑がかかるから。
・子どものしつけは保護者の責任。児童クラブは子どものしつけに責任はない。ダメなことはダメとルールを守らせることで良い。

 放課後児童クラブにおける「育成支援」に対する理解は、世間一般にまったく存在していないと言っていいのでしょう。預かり場なんだから、その場の秩序を乱すような行為に対して職員は厳しく接して当然。むしろ保護者が謝罪するべきだ、ということと、世間一般は思うのでしょう。これは、世間一般に対する児童クラブ側の説明と理解を求める行動が足りていません。そして何より、児童クラブの利用経験を含め児童クラブに関わった人々の多くが、育成支援が行われているという感覚を感じることがなく、預かり場として機能していたクラブに関わったということをしめしているのです。国民多くの児童クラブに関わった経験の積み重ねがこの世論を形成することに重大な影響を及ぼしているとしたら、児童クラブは子どもの預かり場であるという知見しか得られなかった国民が大体数だった、ということなのです。

<この事態が及ぼす深刻な展開>
 今回、不祥事が発覚した名張市の児童クラブは「運営委員会」による事業運営です。保護者、職員や地域住民(自治会や学校の関係者)が構成するメンバーがクラブに関する様々な事項を相談し、決定してクラブ運営をする形式です。運営委員会による児童クラブをめぐっては、4月下旬に、松山市の児童クラブで会計担当の職員が運営費を着服していたという不祥事が発覚したばかりです。

 運営委員会はおおむね、行政が設置して、クラブ運営を地域に任せるという形式です。行政には施設の設置責任と、最終的な管理責任があります。また補助金を交付している以上、適切に事業が行われていることを監視することが必要です。そもそも、運営委員会であれば指定管理者なり業務委託なり、いずれにしても事業運営に際しては相当膨大な決まり事(およそ「仕様書」と呼ばれるもの)があるはずです。その決まり事の中に、あれはしてはダメこれはしてはダメ、と書かれているはずで、それを守れなかった場合は最終的には契約を解除、指定管理者の指定を取り消す等の規定条項もあることでしょう。

 ところが、行政は「口頭で指導はしました」程度です。およそ、本気で子どもの権利を守ろうという気概はなさそうです。そして運営委員会側はこの事態を受けて、どのような厳しい態度を取ることにしたのでしょうか。それは職員個人ではなく、運営に当たっていた自分自身への厳しい態度です。まさか、職員個人の問題で終わらせるわけではないでしょう。運営者として不祥事が発覚した場合の責任を背負うのは当然です。それは実際に責任をしっかり背負っており、ただ報道されていないだけだと信じたいですが、残念ながら私はそこまでお人好しではありません。

 行政も、運営委員会も、「責任を負う、責任を取る」ということでは、およそ真摯ではない。むしろ責任を取らない。向き合わない。無責任としか私には映らない。

 松山市の時にも記しましたが、今回の名張市の件でも、運営委員会による、クラブ運営の限界が明確に示されていると私は考えます。そもそも、事業執行や組織運営に責任を「実際には負わない」運営委員会によるボランティア運営では、もう児童クラブ運営は不適切です。職員の研修、教育すら、満足にできない。処分も満足に下せないのであれば、事業者としては失格です。

 さあ、このような事態になれば、有利になるのが、形態としての組織運営は整っている、全国で児童クラブを運営している広域展開事業者です。私が、大手の広域展開事業者の役員であれば、この名張市のニュースを聞いたら即座に「チャンスだ。名張に営業に行け。ウチなら、職員の研修教育も丁寧に充実した内容でできる、責任の所在を明確にしたクラブ運営ができる、実際に不祥事が報道されたことはないでしょう?安心してください、(全国で)増えてますよ!、と押してこい!」と営業部や開発部に指示しますね。絶好のビジネスチャンスです。「もう、保護者や地域住民がクラブ運営するなんて無責任はやめましょう。私たちにお任せください」と行政担当者を説得するだけです。

 未だに、保護者が運営に関わることが、子どもの育ちを確実に保障すると主張している勢力があります。保護者が運営に関わると、保護者が責任を事実上負えないという構図がある限り、無責任体質を帯びてしまう。また、非常勤の保護者や地域の人物では、職員の研修や教育という継続性が必要で組織内部の細かい状況を常に把握していることが必要な、つまり常勤、専従ではないと担えない組織運営業務が満足に執行できない、という当たり前のことを、なぜ学童業界は認めないのでしょう。別の理由があるんでしょう、私たちの支持基盤が脅かされる等の。ばかばかしい。

 子ども本位の育成支援は、保護者が児童クラブ運営事業者が行う育成支援について、その内容を知ることができ、意見を出すことができ、その意見に基づく施策が立案され実施されることを確認できる仕組みさえ、整っていればいいだけです。運営そのものに(保護者のうち、運営に責任を背負うことを承知をして参加を求める希望者は排除する必要はないですが)保護者が加わる必然性は、もはやありません。むしろ責任を負えない者がクラブ運営に参加することが有害です。

 これで松山市や名張市が数年後、大手の広域展開事業者運営の児童クラブ地域に変わったら、私の言うことが正しいと理解できるでしょう。ただしその場合はもう、手遅れです。

 子どもの育ちを大事にしたい児童クラブが必要である、というなら直ちに、そのことを実践している団体が広域展開事業者となるように業界全体で行動するべきです。また、すでに広域展開事業者である事業者に私は言いたい。今がチャンスですよ。ただし、皆さんはもっと、職員の資質向上と待遇向上を本腰を入れて行うべきです。暴力や暴言で子どもを従わせるような職員を平然と雇うとか、補助金が増えても職員の基本給を下げるような恥ずかしいことはするべきではありません。事実上、業界をけん引する立場になっている以上、社会の道理からみて恥ずかしいようなことは責任ある企業として行うべきではありません。

 <おわりに>
 社会一般の意識は、「子どもがわがままなのは親のせいだ。親が悪い。クラブ側こそいい迷惑だ」というようなものです。それに同調するような児童クラブの世界側からの発言は残念です。親が悪い?ならその親に、どんなに跳ね返されても子育てについて寄り添って話を聞く、話をしていくことこそ、児童クラブの職員の仕事です。それをやらずに「あの親はまったく言うことを聞かない」と吐き捨てるのは、己の無能と、仕事をさぼっていることを明らかにしているだけです。恥ずかしい。それこそ、児童クラブの職員の給料なんて、未来永劫、上がりませんよ。単なる子どもの預かり場で働く人間に、年収400万円、500万円なんて社会は許容しませんよ。

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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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