ひどい職場環境、ひどい雇用条件。放課後児童クラブは問題がたくさん。ただ愚痴るのではなく社会に発信して解決を。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。この夏は、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)での昼食提供、お弁当配達実施のニュースが相次いでいますね。「学童の夏、弁当の夏」といった状況です。いずれにせよ児童クラブがニュースになることはいいことです。この流れを大事にしましょう。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<児童クラブをニュースにしよう!>
 2024年は圧倒的に放課後児童クラブに関する報道が増えています。不祥事は別にして、その報道の中心は、なんといっても昼食提供の動きです。少なくとも私が見てきた限り、2024年は昼食提供の話題に支えられて児童クラブがメディアの報道で取り扱われることが増えました。

 以前、そうですね、つい4~5年前なら、検索サイトで「学童保育」とか「放課後児童クラブ」と文字を入れてニュースを検索しても、不祥事以外は、月に1回、あるかないかの報道の頻度だったと言っても過言ではありません。それほど少なかった。児童クラブの職員の劣悪な雇用条件は半年に1回程度の割合で報道されたり特集されたりしてきましたが、それがさらに別の報道を呼んで連鎖的に取り扱われることもなかったですね。

 ことし、なぜこんなにも児童クラブの昼食提供がメディアで取り扱われているのか、その理由は分かりませんが、わたくしが勝手に想像するなら、今の時点で言えば単純に連鎖反応です。つまり昼食提供のニュースをすでにあちこちで見ているから「これは話題になっているからこんなにも報道されているのだろう」と報道機関が判断した結果である、というものです。私は、「報道機関は実のところ、児童クラブにおける昼食提供の有無についてどれほど重要なことなのか判断する根拠を持っていない。ただ、他のメディアが相次いで報道しているから、きっと大事なネタなんだろうと判断が引きずられる」とにらんでいます。むろん、それでも、「報道していただいて、取り上げていただいて、本当にありがとうございます」の感謝の気持ちです。

 メディアが児童クラブ、学童保育について取り上げる回数が増えたこの雰囲気を、もっともっと盛り上げて、長い期間にわたって続くようにしていきたいものですね。そのためには何が必要でしょうか。それは間違いなく「発信」です。その発信は、「丁寧で、わかりやすく、何がニュースのポイントなのか、何が問題点として存在しているのかを、一方的な視点だけではないところで取材する側に伝えること」が大事です。

 例えば児童クラブの昼食提供です。児童クラブの関係者ならば、この問題はもう何十年も前から存在していることは容易に理解できるはず。実は業界内ではまったく珍しい話ではなかった。じわじわと昼食提供に応じる地域や事業者が増えつつあって、それが「コップから水があふれるように」なって一気にどどーっと昼食提供に踏み切る地域が増えたのでしょう。そのあふれさせるきっかけは昨年夏の、こども家庭庁の通知はまちがいなくその1つになっているでしょう。
 昼食提供における利点と不利な点、必要な視点、現場の問題点など、いろいろな点があることを挙げて、メディアや社会に考えてもらうきっかけをつくりましょう。
・昼食提供で保護者の利便性が向上し、負担感も減る。そのメリットは児童クラブにどう反映する?
・昼食提供でアレルゲンの誤提供や食中毒発生が現実に起きている。その対策はどうすれば?
・保護者が手作り弁当(いわゆる「学童弁当」)を作ることは、子どもとの関係性においてどう影響する?
・昼食提供に伴うクラブ職員の実際の業務量の変化は?ストレスは?
・配達される弁当の中身は、子どもが本当に喜ぶものなの?
・利便性向上だけでのアプローチでいいの?弁当の価格設定に問題は?家計が苦しい世帯に恩恵はあるの?

 昼食提供というたった1つの出来事でも、児童クラブや職員、保護者、そして子どもにとっていろいろな影響がありますし、それが相互に影響しあってもいます。それらのことを分かりやすく提示し、取材や特集で取り上げるに適したポイントを、業界側が示すことが大事です。ただただ「報道される回数が増えて、よかった」では、ダメです。

 昼食提供をきっかけに、職員の勤務状況や、児童クラブを利用する保護者の経済的状況についてもメディアや社会に考えてもらう端緒を見出してもらうことだってできます。児童クラブで弁当を導入した、でも40人のうち十数人しか利用しないとしたら、残りの人たちはなんで利用しないの?実は値段が高かった、中身が子ども向けではなかった、ということがあるかもしれません。児童クラブの弁当を、子どもに合わせて職員も食べるように自治体からお願いがあったからやむなく職員も注文しているが、手取り15万円の給料で昼食に毎回450円の弁当代は大変キツく、夕食を100円程度で済ませている、なんていう問題が実は隠れているかもしれません。

 そういうことは、メディアや社会が自力で気づくことは不可能です。だから児童クラブ側は発信しなければなりません。

<SNSは難しい>
 「保育園落ちた日本死ね」は、インターネットから世間に広まり、結果として保育所・保育園の大増設に結びつきました。ネットから社会を変えた例ですね。あわよくば、児童クラブの世界も、そのような奇跡があればと私は思いますが正直申し上げてそれはロト7が当たるようなものだ、ぐらいの意識しかありません。

 SNSには児童クラブ関係者からの、こんなにひどい状態だ、という投稿が毎日繰り返されています。大規模状態、保護者の無関心、職員の雇用条件のひどさ、職場環境のひどさ、など市区町村や事業者に改善を求めているのだけれどなかなか改善されない、その憤りがSNSでの「うっぷん晴らし」にかきたてているのでしょう。それは、ストレス発散という意味だけでは言論の自由もあるので、どうぞお好きなように、と私は眺めています。

 ただし、仕事がきついだの、給料が安いだの、ひどい会社だのというのは、児童クラブでなくたって概ね、勤め人であれば多少なりとも感じるもの。児童クラブだけにある問題との受け止め方はされないでしょうし、つまりそれは「ニュース」にはならない。まして匿名。匿名であっても特別に固有の問題であって社会的に必要な問題(それこそ保育園落ちた日本死ね)であれば大多数の共感を呼び、社会運動として発展する可能性はあるでしょう。背景には保育所になかなか入れないで苦労している子育て世帯の苦悩が全国的に共有されている土壌があったことも、極めて大きな要素でしょう。

 児童クラブにおいては、例えば待機児童はそれが存在しない地域もけっこうありますから。SNSで待機児童で苦しんでいる!といくら投げかけても「学童の待機児童?何それ美味しいの?」で終わってしまう可能性があります。児童クラブは保育所や学校とは全く異なり、地域ごとにまったく事業形態や事業の中身が異なっているので、広い地域におよんで問題意識の共有を図ることがなかなか難しいものがあると、私は感じています。

 SNSは確かに便利な発信の道具ですが、こと児童クラブについては、およそ全国的に理解を得やすい、児童クラブの職員の低賃金ぐらいでしか、なかなか問題意識の共有については効果が見込めないのかもしれません。とはいえ、メディアが注視していること、社会においてそれなりの立場にいる人が参考にするかもしれないことなどを踏まえると、SNSでの発信は活用するべきでしょう。それは、匿名のイチ個人から始まって、実名で発信するインフルエンサーや、それなりに社会において正当に存在して活動している業界団体の公式アカウントからも繰り返し発信される必要があります。

<具体的な問題を解決するためには?>
 例えば、最低賃金程度の給料でしか雇わない児童クラブの事業者だったり研修や教育をろくろく行わないで正規職員や幹部職員としてどんどん資質も踏まえずに応募してきた人を採用して現場に送り込む事業者だったり、児童クラブには、ひどい現場がたくさんあるのは、事実です。そうしたひどい実情は絶えずSNSで発信されています。

 しかし、その状況が劇的に改善したとは聞きません。むしろひどい状況がさらに広まっているのではないでしょうかね。なぜなら、そういう酷い状況のクラブを多数抱える事業者がどんどんクラブ運営を任される地域が広がっているのですから。具体的な問題が解決されねば、児童クラブの窮状はさらに広がるばかりです。

 その解決は、「おたくがやっていることは間違っているよ」と、事業者を批判したり指弾したりする存在が増え、その帰結として市区町村や国が条例や法令で規制をかける、という動きを現実的に起こすことです。「おたくがやっていることは間違っているよ」ということをまずはメディアや社会に知ってもらうことが最重要です。そのためには、SNSの匿名の発信では限界があります。メディアや社会が、その発信を根拠あるものとして受け止めるには次のことが必要です。
・個人ではなく組織として対応し、組織として発信する。本来は業界団体はその目的を持っている。しかし現実的に児童クラブの業界団体は既得権益保持だけに夢中でまったく使えないので、現場の職員たちや同じ意識を共有する他の事業者や他の地域の職員たちと連携して組織化することが必要。難しいですが今こそこの取り組みが必要。
・地域の議員によって議会で発信してもらうこと。これはとても重要。
・既存の労働組合でも良いが、事業者側と法的な根拠を持って交渉すること。
・その発信が社会に影響を及ぼす可能性がある立場の者、いわゆるインフルエンサーに現状の紹介の発信を託すこと。そもそも、この運営支援はその役割を目指してもいます。世間に自分の名前や所属を知られることは、場合によっては雇用主、事業者から懲戒処分の対象になる可能性が避けられないことを考えるとおいそれと実名発信ができないけれども、第三者に知られないことを約して、社会に広く発信を代行してくれる存在に託すことは、意味があります。そもそもメディアはそういう存在でもあります。

 ひとえに女性の社会進出としてまとめられていまいますが、今の時代、ディアで取材したり編集したりする人に、児童クラブを利用している人が増えていて、身に染みて実感がある、ということが児童クラブにかつてないほど注目が集まって報道されていることに影響している可能性があります。NHKのウェブ記事で、女性の記者やディレクターさんが、自らの体験をもとに児童クラブの問題に取り組んでいる、という紹介を見かけたことがあります。児童クラブの保護者運営の問題も、そうした事態に直面した記者が問題意識を持って取り上げ入るような背景を感じます。

 今が、チャンスです。児童クラブについてもっと社会の目を向けてもらうチャンスです。きっかけは昼食提供でいいのです。そこから先にも、じつはこういう問題が存在しているんだよと知ってもらうとかっかりになればいいのです。そのとっかかりになるかならないかは、自分たち児童クラブ側の努力と工夫次第ですよ。以下に記した私の本も、私なりのその努力の1つの形として、皆様のお手に取ってもらえれば幸いです。 

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。8月8日時点では楽天ブックスなら在庫が13冊あります。売り切れ間近です!注文はぜひお急ぎください!また、寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊ほど届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)