どうして放課後児童クラブ(学童保育所)の仕事は、なかなか大変なのかシリーズ。その3は「職員数が少ないから」。

放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン (https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。ぜひ手に取ってみてください! 「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描く成長ストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 放課後児童クラブは、はるか昔から今も、ずっと人手が足りません。求人を出してもなかなか応募者が来ません。せっかく児童クラブに就職しても、あまり長続きしない職種です。離職する人が多いということです。つまり、児童クラブの仕事は大変なんですね。その大変さの理由を考える不定期シリーズの3回目です。なお1回目は「人間関係」(2025年10月4日投稿)、2回目(2025年10月18日投稿)は「先入観との、ずれ」でした。ぜひ1回目、2回目もご覧ください。
 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<おさらい>※シリーズの最初の段落を再掲載しています。
 児童クラブの仕事は、どうやらあまり長続きしないようです。運営支援ブログが何度も引用して紹介している「放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」(令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)には、職員の平均勤続年数のデータも掲載されています。「職員給与」の総括表に、放課後児童支援員の常勤職員で月給者の平均勤続年数が掲載されています。全ての運営形態で6.2年、公立公営5.0年、公立民営6.4年、民立民営7.1年となっています。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構が、厚生労働省による「賃金構造基本統計調査」からまとめた、日本人の平均勤続年数のデータを公表しています。各種の産業や企業規模、学歴など個別のデータをすべて含んだデータのようです。
図13-1 平均勤続年数|早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)
 それによると、2024年の男女の一般労働者(いわゆる正規職員)の平均勤続年数は12.4年、男性では13.9年、女性では10.0年となっています。

 児童クラブの全運営形態での常勤職員の平均勤続年数が6.2年で、全産業の労働者の平均勤続年数はちょうど児童クラブの数値の2倍にあたる12.4年になっています。大雑把にいえば、「児童クラブの仕事は、そのほかの仕事の半分しか長続きしない」ということになるでしょう。やっぱり、児童クラブでのお仕事は、なかなか、長く続かないという傾向があるのです。

<大変なのは、1人あたりの業務量が多いから>
 児童クラブの仕事が大変で、なかなか長続きしないことの要因として運営支援が考えるのは、「児童クラブの職員数、スタッフの人数が少ないから」です。同じ場所で働いている人の人数が少なければ、仕事の量、業務量が増えるのは当然です。職員1人当たりの業務量が、事前に想像していたものをはるかに上回る、つまり「こんなに忙しいとは思わなかった!」ということです。これには第2回で指摘した「先入観とのズレ」も影響するでしょう。「こどもを見守っている、こどもと遊ぶだけの仕事だと思っていたら、こんなにもやることがたくさんあるなんて!」ということで、「この時給、この給料にはとても釣り合わないよ」とがっかりして、早期の離職、退職に至ってしまうのだと、運営支援は確信しています。

 では、職員の人数の状況を、国の調査(令和6年度の実施状況)から確認してみましょう。「22 支援の単位ごとの実施規模別配置職員数の状況」に、クラブの支援の単位(おおよそ1クラスと考えていいでしょう)における登録児童数ごとの配置職員数がまとめられています。引用して紹介します。
児童数21人~30人/2名:2,445 (35.9%) 3名:2,605 (38.3%) 4名:1,148 (16.9%) 5名以上:563 (8.3%)
児童数31人~40人/2名:3,616 (29.6%) 3名:4,516 (37.0%) 4名:2,526 (20.7%) 5名以上:1,468 (12.0%)
児童数41人~50人/2名:2,054 (22.9%) 3名:2,881 (32.1%) 4名:2,258 (25.1%) 5名以上:1,754 (19.5%)
児童数51人~60人/2名:542 (14.5%) 3名:1,076 (28.7%) 4名:1,028 (27.4%) 5名以上:1,093 (29.2%)
児童数61人~70人/2名:145 (9.3%) 3名:360 (23.1%) 4名:461 (29.6%) 5名以上:590 (37.9%)

 どうでしょうか。分かりにくいのですが最も多い配置職員数を太字にしてみました。児童クラブに入所しているこどもの人数が、20人台でも、30人台でも、40人台でも、「配置職員数3名」が、もっとも多い割合となっています。こどもの人数が25人でも50人でも、職員数3名のクラブが最多なのです。職員3人で25人の援助、支援を行うのと、同じ3人で50人のこどもの援助、支援を行うのでは、それはもう、職員1人あたりの業務量は圧倒的に違うのは容易に想像ができます。
 児童クラブの適正な児童数というのは、おおむね40人とされています。(わたくし萩原はおおむね30人が適正だろうとは思いますが)。国は、そもそも運営費の補助では職員数を3名で想定しているとされています(常勤2人と補助員1人か、常勤1人と補助員2人の違いもあるようです)。ですので、3名の配置が最も多くなるのはやむを得ないところもあります。
 さて、こどもの人数が51人以上の場合、最多の職員配置数はさすがに5名以上となっていますが、割合が29.2%という値は、3名の28.7%、4名の27.4%とあまり差異はありませんね。むしろ職員3人の支援の単位が30%とほぼ同じだけの高い割合であることが驚きです。ましてこどもの人数が61人以上の場合でも、職員3名配置の支援の単位が23.1%もあります。4分の1近い支援の単位が、61人以上のこどものクラスで職員が3人しかいないというのは、「そりゃ大変だわ」となります。

 こどもの人数が20人台での配置職員数3名と、61人以上のクラブでの職員配置数3名では、1人の職員が担う業務量はまったく違うでしょう。それでいて、もらえる給料の額がほぼ同じであれば、児童数が多いクラブで少ない職員数の中で働いている人は、そりゃ長続きしません。

<運営費の補助金を、もっときめ細かくするべきです>
 国は、児童クラブの待機児童が生じないように躍起となっています。それはそれで評価できるのですが、児童クラブの問題を「量」「数」だけでの解消にこだわると、「質」の面での悪化を招きます。つまり大規模を解消するのにとにかく登録児童数を増やしていくことは、児童クラブの大規模状態を引き起こし、クラブにおける育成支援の質に著しい悪影響をもたらします。大規模状態とは登録児童数71人以上と一般的に目されていますが、「おおむね40人」を超える支援の単位であって、こども1人あたりの占有区画における面積がおおむね1.65平方メートルを下回るものが大規模状態とするべきです。待機児童を解消するのに、できる限りこどもを詰め込むと容易に大規模状態となり、まして職員数が増えないのであれば、こどもに関われる職員数が少ないこととなり、こどもの集団がまったく落ち着きません。いわゆる「荒れている児童クラブ」になってしまうのも無理はありません。

 運営支援は、とにかく待機児童解消を最優先とするスタンスです。その結果、大規模状態に陥ったとしてもそれは一時的な状況とするべきである、というスタンスでもあります。一時的に大規模状態となって児童数が65人だ70人だ、となっても、「増えた児童数に応じて、職員数は当然に増やすべきだ」とするのが、運営支援の主張です。
 そもそも、待機児童解消のために児童クラブの拡張や新設の準備をしています、それは1年後に実現して支援の単位の分割が可能となります、それまでは80人でなんとか1年間だけ、頑張ってくださいというのであれば、職員たちは覚悟を決めることができるでしょう。しかしそれは確実に「適正規模が実現できる」という見込みがあることと、「増えたこどもたちに関われるだけの職員数が確保されていること」でしか、その覚悟は持てません。だいたいにおいて、80人の支援の単位を分割して40人の支援の単位が来年度に2つとなるとして、必要な職員数は2つの支援の単位で8人前後です。であれば、分割を見越して、80人単位の一時的な大規模状態において職員数が8人としておくことが大切です。1人の職員がおよそ10人前後のこどもたちと関われるという比率であれば、ある程度は、大規模であってもこどもと職員との関わりを持てることができます。

 こども家庭庁には、「児童クラブでの育成支援は、こどもと関われる放課後児童支援員等の人数の多寡によってその質が左右される」という認識を確実にもっていただき、「登録児童数10人ごとに放課後児童支援員等は最低1人配置する」という基準を、速やかに新設していただきたいと運営支援は訴えます。
 おおむね40人の状況をピークに児童数が多くても少なくても運営費補助は減額されています。(2025年度は常勤2人配置の場合、構成する児童の数が36~45人の支援の単位で、6,939,000円、これを最高額に児童数が少なくても多くても減額される)。36~45人の支援の単位における必要な放課後児童支援員等の配置人数を4人とし、児童数が少なければ必要な配置人数が減るので減額となるのは、やむを得ないでしょう。しかし、児童数が増える場合は、「増えた児童に関われる職員数を確保するため」に、運営費補助の減額の仕組みを見直すべきです。
 適正規模の支援の単位を増やすための政策的な誘導で、児童数が増えた場合の減額措置を講じていると想像しますが、「こどもまんなか」社会において、こどもに不利な状況を招く措置は行うべきではありません。ただ条件は付けても良いでしょう。市区町村が「おおむね40人の児童数を実現させるための計画を持っていること」を条件に、児童数が増えても運営費が減らない体系の補助金を導入するべきです。まして、現行制度では大幅に補助金が減額される児童数71人以上においては、支援の単位の分割等でおおむね40人の児童数の支援の単位を実現することが策定されている場合に限り、必要な職員数に応じた補助金を国は出すべきです。

 運営費補助金の仕組みをもっときめ細かくするべきです。本来、児童クラブの運営に必要な補助金の金額は、あくまで「援助、支援を受けるこどもたちの立場」に立って算定されるべきことで、児童数が多ければ必要としたい運営費補助金が増えていくのは至極当然のことです。ただ、適正規模の児童クラブを増やそうという努力をしない市区町村には不利益を講じることは、補助金の適正な使い方と、本来の児童クラブの目的を達成させるためには、やむを得ないことと運営支援は考えるものです。

<職員数が増えれば状況はある程度、改善する>
 児童クラブにおける働く側が感じる「こうじゃなかった感」つまりミスマッチは、「こんなに大変な仕事とは思わなかった」が要因の1つです。もちろん児童クラブで求められる業務の内容への理解をもっと広めることは重要ですし、当たり前ですが児童クラブ運営事業者ごとにそれぞれ定めている業務の種類、設定がそれぞれにあります。そういった状況に対して、児童クラブで仕事をしたい人の抱く気持ちに合う、合わないもまたあります。しかし、「思っていた以上に、仕事が多い」という心理状況に陥った職員であればどんな事業者に雇われても、そのクラブで働き続けようとは、なかなか思えないでしょう。
 児童クラブの仕事をして得られる報酬、給料の額も当然に重要ですが、「その仕事で満足するか、満足できないか」は給料の額、時給の単価額だけで決まるものではなくて、「このぐらいの仕事の量、業務の量であれば、このぐらいの給料でつり合いが取れる」という感覚もまた重要です。その点において、もちろん児童クラブで働く人の報酬額を増やすことは大前提として必要であるとしても、同じ程度に、「得られる給料、報酬の額に釣り合った仕事の量を設定する」こともまた重要です。そしてそれは、「同じ職場で働いている職員の人数」によって定まっていくのですから、「児童クラブで働く職員数を増やす」つまり配置基準の見直しが必要である、ということです。

 こども10人前後において職員数1人という基準を設けることで、職員1人あたりの過重な業務量に至ることを食い止められる可能性がありますから、ぜひとも国は、児童クラブでの育成支援の質の確保のために、運営費の補助金の設定を見直すことで、職員数を増やし、職員1人あたりの過重労働を防ぐことを目指すべきです。それが職員の早期の離職、退職を防ぐことにつながります。給料がさほど高くなくても、「この程度の仕事の量であれば、肉体的にも精神的にもひどく疲れることはないし、給料ともまあ釣り合っているかな」となれば、もともとこどもの援助、支援が性に合う人であれば、そうそうすぐには辞めないものです。
 児童クラブで従事する職員数を増やすことが、児童クラブの安定した継続的な事業運営を実現させるために必要です。ぜひとも国会で、地方の議会で、それぞれに議員の皆様方には議論を興していただきたいと運営支援は強く求めます。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

New! ※当運営支援ブログにも時々登場する、名古屋の弁護士、鈴木愛子氏による「子どもが行きたい学童保育」(高文研)が発売されました。放課後児童クラブのあり方とその価値、本質が、具体的な事例に基づいて紹介されています。放課後児童クラブ、学童保育に関わるすべての方に読んでいただきたい、素晴らしい本です。とりわけ行政パーソンや議員の方々には必読と、わたくし萩原は断言します。この運営支援ブログを探してたどり着いた方々は、多かれ少なかれ児童クラブに興味関心がある方でしょう。であれば、「子どもが行きたい学童保育」をぜひ、お求めください。本には、児童クラブに詳しい専門家の間宮静香氏、安部芳絵氏のこれまた的確な解説も併せて収録されています。本当に「どえりゃー学童本」が誕生しました!
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萩原和也