「学童保育の貧困」を憂う。その3。資格制度があまりにも貧弱。学童の資格を二重マル、花マルの資格に!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 「学童保育の貧困」を憂うシリーズの3回目です。これまで以下のことを憂いてきました。
1月15日掲載分:学童保育の意義、意味に対する社会全体の理解が薄い。学童業界の内向き姿勢はその裏返し。
1月16日掲載分:任意事業(やっても、やらなくてもよい)というあいまいな位置付け。だから補助金も貧弱。
 3回目の本日は、貧弱な資格制度を憂います。(なお、このシリーズでの学童保育は、学習支援系である民間学童保育所を除いた学童保育の仕組みを指します。)

 学童保育(正式には、放課後児童健全育成事業)の資格、つまり「放課後児童支援員」のことです。学童保育と関りがない方に紹介しますと、保育所に保育士が配置されているように、学童保育所(正式には、放課後児童クラブ)には「放課後児童支援員」という、都道府県知事認定の公的な資格を有している職員が配置されていることが必要です。この資格は2015年から運用が開始された、新しい資格です。保育士や各種教員免許、社会福祉士の資格や免許を持っている方や、一定程度の実務経験者、又は大学等で一定の分野の知識を得られる学部学科で履修した人が、指定の研修(認定資格研修)を受講することで、得られる資格です。試験はありません。

 上記に資格の大まかな概要を記しましたが、もうすでにそこに、資格の弱さが如実に表れていますね。

 試験がない。つまり、はっきり言えば、認定資格研修を受けられる状況であれば、ただその研修に出席するだけで、得られる資格です。これは、公的な資格としては、あまりにも貧弱です。もっと言えば、誰でも取れる公的な資格です。

 認定資格研修で学ぶことはとても大切な内容です。育成支援の意義、制度や法令のことを学ぶ内容です。しかし全体の講義時間は24時間。膨大な内容をたった24時間の座学で学びます。しかも、どれだけ理解できたかを測定する試験はありません。「いや、保育士や教員免許、社会福祉士の人は、それまでの積み重ねがあるから」という言葉をよく耳にします。ダメです。学童保育で必要な育成支援は、育成支援ならではの専門性があります。その専門性は、保育や教育、福祉のあらゆる要素をミックスした独自の奥深い世界です。それを24時間で得られるというのは、資格としてはあまりにも貧弱です。

 その上、認定資格研修には免除制度もあります。保育士など資格のある方は受講しないでよい科目もあります。ため息が出ます。育成支援の専門性は、育成支援固有の専門性を、まだ国が認めてないということの証左です。

 これではいけません。私は資格の強化として、次の点が必要だとずっと考えています。
・国家資格とすること。それも新たに「育成支援士」という国家資格を設けること。
・試験制度を取り入れて、育成支援の理解が薄い者は遠慮なく不合格とする。

 ちまたには「学童保育士」「学童保育師」なる民間資格があるようですね。詳しくは知りません。こういうことは私は止めた方がよいと思っています。それはいわゆる資格ビジネスと変わりありません。国が認めた公的な団体が設ける資格制度ならともかく、単に一つの勢力でしかすぎない団体が資格を設けることは、必要とする資格全体への混乱を招くとともに、その業界全体への信用を伸ばせない恐れがあります。確かに、放課後児童支援員という資格は貧弱です。だからその弱点を埋める資格を作って専門性を補完しよう、業界の底上げをしようという善意に基づくアイデアであることは理解していますが、本来は、国に対して、すでにある資格の強化をより強く訴えるべきでしょう。

 私は今後、放課後児童クラブの資格は、国家資格の「育成支援士」と公的資格の「放課後児童支援員」の二本立てがよいと考えています。あらゆる単位にどちらかの資格者が必ず配置されていなければならないとすることです。特に、複数単位が1つの施設に存在しているクラブにおいては、必ず育成支援士が配置されることを条件とするべきです。放課後児童支援員にも試験制度が望ましいのですが、育成支援士になる前段階としての位置付けであれば、現在の講座受講での資格付与もやむを得ないでしょう。ただし、24時間ではなく36時間ほど、小論文の提出は必須、そしてケアマネジャーのように数年ごとに再受講を義務付けることは必要です。

 その上で、保育士のように、大学等で専門的に育成支援を学んだ人は放課後児童支援員の資格を卒業と同時に付与され、試験を受けて合格した人は育成支援士の資格を得られる、とすればよいでしょう。

 資格の専門性、もっといえば「権威」を高めることは、その資格者に対する社会の高い評価の獲得に直結します。育成支援士が勤続10年でも年収300万円程度、という状況は社会が許さない、そういう風潮に持っていくことが必要です。そのためには、育成支援そのものの専門性や、子どもの権利を守る仕組み、法令の理解、一般的な教養や知識、つまり社会人としての能力、品性もまた問われるべきでしょう。そうして、「すごい資格」を持っている人が、質の高い育成支援を行うことが重要です。それこそ、学童保育の貧困を解消する一つの手法になります。

 今の資格がさほど評価されていないことは、放課後児童支援員ですらその配置が国の基準で絶対的な義務となっていないことが証明しています。もちろん、多くの市区町村は条例で放課後児童支援員の配置を義務づけていますが、あくまで根本は絶対的な義務、いわゆる「従うべき基準」とはなっていません。それも解消されるべきですし、国家資格ともなれば、さすがに従うべき基準とせざるをえないでしょう。よって、まずは放課後児童クラブには、必ず資格者を配置すること、その資格はより専門性を深めた権威のある国家資格が必要であること。この点をぜひ、国会で議論していただきたいと切に望みます。

 なお今も、放課後児童クラブの有資格者配置の緩和が求められているようです。理由は「資格者が確保できない」ということですが、それは単純な理由です。賃金が低すぎるからです。資格者がいない、このままでは開所の基準を満たせないと嘆く市区町村は、地域内のクラブ職員の賃金を確認してください。その賃金で、資格者が働きたいと思いますか?の状況にあるはずです。もっとカネを用意して賃金を引き上げれば、働きたい有資格者はすぐに集まります。おたくの地域の子どもが、質の低い酷い状況で過ごしても構わないというのなら、どうぞカネをケチってください。そういう市区町村は、そういう酷い状況に置かれた子どもたちが大人になった時、定住しようと思われませんから。いずれ、衰退して併合されて自治体としては消えゆくでしょうね。

 資格制度を変えることは広く言えば前日に取り上げた法制度や行政の仕組みを変えることに含まれますが、特に大事なことと私は思っていますので、本日は別に取り上げました。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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