ややこしい放課後児童クラブの世界ですが、保護者の「運営」と「経営」と「参画」は、しっかり区別して考えよう

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の世界は本当にややこしいのですが、だからこそより正確な情報をメディアには社会に広めていただきたいと期待するのです。とりわけ、保護者が児童クラブに関して関わる内容が「運営」なのか「経営」なのか、「参画」が保障されているのかの区別はしてほしいと願うのです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<保護者運営について>
 最近、私の目に触れた報道記事で気になったものが2つありました。1つは、「運営委員会」方式による児童クラブの運営が困難になり、来年度に予定されている社会福祉法人運営への移管を待たず運営委員会が「早期に民営化を望む」と市に要望した、とする記事です。そしてもう1つは、保護者の運営するクラブだったが負担が大きかったので法人化し、保護者負担がかなり軽減した、とする記事です。

 正直なところ、多くの人は何ら違和感も疑問も持たないことでしょう。「ああ、なるほど」で終わると想像ができます。そのことは、出来事を取材し、記事を書いた記者自身が思って感じたことでもあるでしょう。

 運営支援ブログの熱心な読者さんであれば、その2つの記事の不正確なところがすぐ理解されるでしょうが、おそらくそういう人は児童クラブに関わっている人の中でもごく少数派です。それほど、本当に児童クラブの世界はややこしく複雑です。では保護者運営とはどういうことなのか、運営支援の観点で整理してみます。

 前提として押さえておきたいのは「公営」と「民営」のクラブがあることです。公営は、市区町村が事業を営むクラブです。民営はそれ以外。つまり保護者が組織する保護者会が事業を営むクラブは民営ですし、保護者や地域の方々が参加して構成される運営委員会が事業を営むクラブもまた民営です。両者の区別は、予算を立て、人を雇っているのはどの部門なのだ、で判断できます。たとえ運営委員会が日々の事業を営むクラブであっても、予算を立てて職員を雇っているのが市区町村であれば公営ですし、その場合、職員は公務員(会計年度任用職員も公務員です)の身分になっているはずです。

 そして「保護者運営」を理解するには、保護者運営という5文字の熟語を構成する「保護者」と「運営」を考えねばなりません。
 保護者とは、「児童クラブを利用している子どもの保護者」を指します。つまり、児童クラブが提供する児童福祉サービスを受ける側です。利用について事業者に申請し、利用を許可された者であって、提供された児童福祉サービスの対価として定期的に利用料を支払う立場です。利用者です。
 さらに利用者ではない保護者も存在します。それは、「かつて子どもが児童クラブを利用していて、子どもは小学校を卒業したが、引き続き児童クラブに関わっている保護者OB」も、児童クラブ界で使われる「保護者」に通常含まれます。現実的に、児童クラブの保護者が参加する任意の親睦団体であり業界団体である「連絡協議会」には、現役保護者よりも圧倒的に保護者OBが人数的には多数を占めています。当たり前ですが、児童クラブに関わること、児童クラブに関連する種々の活動が大好きでやりがいを感じているからOBになっても児童クラブに関わり続けているのですから、児童クラブにとってはとても心強い立場ですし、時にはその「熱い気持ち」が現状の運営に際して障害になる例もまたあります。
 つまり児童クラブ界における保護者とは、「利用者」です。そして「現役」と「OB」がいるということです。

 次いで「運営」です。「goo辞書」では「団体などの機能を発揮させることができるように、組織をまとめて動かしていくこと。また、動かしている主体や管理者」とあります。これに運営支援から独自に視点を追加しますと、「児童クラブがその事業を円滑に実施できるように、与えらえれた予算や権限を活用して組織を動かしていくこと。またその活動を行っている事業者」となります。

 ここで注意したいのは「経営」という単語で表される物事です。goo辞書で「経営」を調べてみると「事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行って実行に移し、事業を管理・遂行すること。また、そのための組織体」とあります。運営と経営は確かに違うことが分かりますね。運営は経営という概念に含まれるもので、運営をするために必要な予算や権限を決めるのは経営です。予算と人事を完全に掌握して実施することが経営、とも言えます。

 この「運営」と「経営」の2つの概念がごちゃ混ぜになっているのが児童クラブにおける「保護者運営」の実態であると私は考えています。そのごちゃまぜぶりは甚だしく、それが社会一般の児童クラブへの理解を妨げる一因になっていると言えます。なにせ、児童クラブを設置することができる立場にある市区町村ですらこんがらがって理解しているのですから。(児童クラブの経営を民間の法人が行っているのに公営クラブと表現している市区町村がいくつかありますから。公設とすれば正確ですが)
 実のところ、現状において運営と経営を区別せずに「保護者運営」と呼んでいるのは、区別しなくても平常時は特に不都合がないからではあるのですが、そこがあいまいなまま、実は保護者会がクラブを営む事業体を「経営」しているのに保護者「運営」と称されることは、本来、望ましいことではないと私は考えるのです。

<「保護者運営」と「保護者経営」がごちゃ混ぜ>
 児童クラブが日々、その事業活動(=留守家庭の子どもを受け入れて育成支援を行う)を行うにあたって保護者が関わっていることを「保護者運営」と一般的に呼びます。その参加の程度によって「保護者運営」と「保護者経営」に本来なら分かれているはずですが、日常的にほとんど区別されていないことは先に述べた通りです。

 つまり一般的な概念として取り扱われている「保護者運営」とは、経営も運営もひっくるめて、児童クラブ事業者である組織に必要な事業計画を立て、保護者または保護者から支持された者が収入活動(補助金申請手続、利用者から利用料徴収など)を行ったり予算を立てたり、予算案に従って資金を支出したり、職員を雇ったり賃金を支払ったりすることを指しています。そこには、本来は経営の範ちゅうに含まれることが含まれているのです。事業体の持続的な活動を司る経営と、その持続的な活動そのものである運営、この両者を含めて「運営」と呼んでいるのが今の児童クラブの世界です。
 経営も運営も、それぞれに児童クラブの事業を日々、そして継続的に安定して円滑に営むことを行う責任が含まれていますが、経営ともなれば、経営に関わる者、通常や役員と称される立場の者は、予算執行の責任や労務上の責任を負うことになりますし、雇用者である以上、民法における使用者責任もまた負うことになります。ここが、経営と運営の差の本質的な部分です。
 運営の場合は職員を雇用するのは別の組織ですから、経営を行う状態と比べて課せられる種々の責任は少なくなるとも言えます。もちろん、いい加減な行動で児童クラブの事業が突然実施できなくなった場合のことを考えれば、児童クラブの経営なり運営に当たる立場の者はどれほど責任を負っているかが分かるでしょうが、この責任の範囲において「経営」と「運営」の両者には、大きな差があるということなのです。それを特に区別せずに、ひっくるめて「保護者運営」としているのが現状です。

 具体的に考えてみましょう。
「市区町村が設置した児童クラブで、職員の雇用、採用、賃金支払、経費の支払は行政が行う。予算立案も行政。保護者の利用料は保護者が行い行政に納付する。おやつの選定、購入は保護者」というクラブはどうでしょう。現実にあります。保護者個人が行うことは難しいので組織化、つまり「保護者会、父母会」を作って対応することがほとんどでしょう。この場合、クラブを経営しているのは行政ですが、利用料を徴収したりおやつを購入したりする事業運営に関わる業務を保護者(会)が担っているので、経営は行政ですが運営は保護者(会)です。経営と運営は厳密には分かれています。保護者側は、与えられた予算や業務範囲の中で事業活動(=限定された運営)を行いますが、そうであっても失敗すればクラブの円滑な事業を阻害しますから責任は重大です。ただ、予算繰りに失敗したとか職員が引き起こした犯罪行為に関する責任を負うことはありません。

「市区町村が設置したクラブで、業務委託契約または指定管理者制度によってクラブの事業は保護者会が行うとなっている。利用料徴収もおやつに関する事柄もすべて保護者会が行う」クラブはどうでしょう。この場合、収入の多くを占める委託料や指定管理料の金額を決めるのは市区町村ですが、その使い道は一定程度使途が限定される(職員を対象とした補助金)以外は、事業者である保護者会が立案した予算に従って使うことができます。どのような事業活動を行うかは、事業者である保護者会が決めることができます。経営は保護者会であり、運営も保護者会であるといえるでしょう。そしていわゆる「運営疲れ」、すなわち「保護者がどうしてそこまでしなければならないのか」ともっとも悲鳴を上げるのが、このような形態で運営されているクラブに関わっている保護者です。

「市区町村が設置したクラブで、業務委託契約または指定管理者制度によってクラブの事業は保護者が中心になって設立した法人が行っている。利用料徴収は法人が行い、おやつの購入は法人が雇用している職員が全て行う」クラブはどうでしょう。この場合、さらに2つに区別ができます。「事業を行う法人の役員(理事や監事)は、クラブの保護者会から定期的に人を派出している」形態と、「事業を行う法人の役員は、その法人から報酬を得て業としてクラブ運営事業を行っている。保護者の参加は完全に任意」の形態です。
 この場合、似ているようで性質はかなり異なります。2つに区別したうちの前者は、保護者が経営と運営を行う形態と本質的に差がありません。任意団体である保護者会が運営しているか法人が運営しているかだけの違いで、どちらも保護者が経営と運営の責任を負うことになります。違う点は、保護者会が経営と運営を負う場合は保護者会に入っている保護者全員(そしてそれは通常、クラブを利用している全ての保護者となる)が責任を背負うことになりますが、法人の役員としてクラブから人を派出している場合は、個々のクラブの保護者や保護者会は直接には事業経営の責任を負うことは無い、ということです。なおいずれにしても、利用料徴収やおやつ購入は法人が雇用した職員が行うのですから、この点(=運営)に関して個々の保護者や保護者会が、円滑に行うべき責任を負うことはありません。
 つまり、保護者の負担は、保護者会が経営も運営も行う状態に比べて軽減されるのは間違いありませんが、前者の場合は、(おそらく不承不承)法人に役員として参加することになった保護者はやはり経営、運営の責任を回避できません。しかし後者の場合は基本的に保護者が経営や運営の責任を負う立場になることは、自ら希望しない限り回避できます。「保護者が、経営や運営の責任を負う立場に就くことが完全に任意で選択できるかどうか」が重要なのです。

<運営支援が考える、児童クラブと保護者との理想的な関わり方=保護者参画>
 放課後児童クラブは何よりも、安定して継続的に円滑して事業が営まれねばなりません。そうでなければ子どもの居場所が失われ、保護者が安心して活動を継続することができなくなります。児童クラブで働く者は仕事を失い、生活が直ちに脅かされます。どうにも児童クラブについては「子どもを預かってくれる場」の印象があまりにも強く、「預かってくれる場をどうやって維持するか」について世間の関心は薄いと私は感じています。子どもの居場所を継続的に確保するには安定した事業運営が必要であり、そのために堅実な事業体の経営が必要です。よって、その経営は(もちろん運営も)、保護者がその本業の傍らに時間を費やして実施できるものでは、本来はないはずです。

 事業が円滑して継続的に可能となるように必要なありとあらゆることは、児童クラブの経営はそれを業として行う、つまり専従の者であり、事業体の経営に長じた者が担うべきです。財務、労務、法務、総務といった、事業体、すなわち法人組織が備えてしかるべき各種の事柄をしっかりと行うことができる体制が必要だということです。それは非常勤の役員だけで構成される事業体では不可能です。

 一方で、日々、子どもに支援を行うという中核的な事業の質を常に向上させるためには、子どもの保護者からの意見や希望を常に事業の遂行に反映させる仕組みを整えることが必要です。保護者は利用者であり、顧客です。利用者の視点を参考にしつつ、利用者「だけ」の要望におもねることなく、放課後児童クラブ運営指針に代表される、あるべき児童クラブの育成支援や保護者の子育て支援において、質の高い事業を実施できる仕組みを整えることが必要です。それを考えると、やはり保護者から常に意見や要望を汲み取れる仕組みは必要です。

 そのために、定期的に利用者アンケートを行って保護者から意見を集めることは大事です。もっともそれは保護者を通じて、子どもの意見や要望を反映させられることができるようにすることを主に期待しますが。もちろんアンケートはただ集めるだけではなく、事業者側が、そのアンケートの意見についてどう考えて議論し、出した結果をすべからく保護者側に戻すことが必要です。全員の目に触れる形で。

 ただアンケートはそうであっても「意見を寄せる」「寄せられた意見を検討する」過程において、どちらか一方の立場を舞台にしています。できるならば、双方が会話し、議論を交わし、合意を形成できる場があるほうが望ましい。かといってそれが理事会や役員会なら保護者に経営や運営の責任を負わせることになります。よって、事業体が規定をもって、任意で参加したい保護者を募り、その保護者と定期的に会合をもって運営に関して意見交換したり議論を積み重ねることで、事業者はその場で形成された合意を事業運営に反映させることを義務づける仕組みこそ、重要です。いわゆる評議会制度です。
 評議会制度は、保護者が事業者の行う経営や運営に「参画」できる仕組みです。この制度を活用すれば保護者側は児童クラブに対して希望したい種々の事について正式に提案できたり協議できたります。今の時代であれば、夏休みの昼食提供や開設時間延長について話し合う機会が得られるでしょう。事業者側も、保護者のニーズをより満たすために必要かつ効果的な施策は何かを判断できます。クラブで行われる子どもの支援、援助について問題点を協議相談することもできるでしょう。質の高い育成支援の実施に有益であると考えられるのです。

 私はこうした、事業者が行う事業の経営、運営に際して保護者が一定程度、関与「できる」仕組み、すなわち「保護者参画の保障」こそ、事業者と保護者の双方が互いの理念をすり合わせることができる効果的な仕組みであると考えています。とりわけ、経営と事業運営が完全に分離されている広域展開事業者においてこそ、この保護者参画は、質の高い事業運営を確保できる仕組みの1つとして機能できると考えています。よって、市区町村は設置する児童クラブの運営を任せる事業者に、保護者と定期的に事業運営について意見を交わせる評議会のような仕組みの設置を「義務化」し、そこで協議された内容の「公表」を義務化するべきです。ここについては極めて重要な視点ですので、改めてブログで説明します。

 最後に。保護者が児童クラブの経営や運営を担うことの責任について、そのすべてを理解して引き受ける保護者ばかりではない、むしろ知らされないまま、説明を受けないまま「前年度通り」「ずっとこれでやってきたから」と言われて、不安ながらもやむなく引き受けている保護者が圧倒的に多いことをぜひメディアには認識していただきたいのです。前日に取り上げた所外活動における保護者の要員参加でも同じ事です。「大丈夫、責任はないから気楽に参加して」とは偽りです。保護者の無知、不知に付け込んで、あるいは利用して実は責任を負わせるようなことほど不誠実なものはなく、絶対にあってはならないことです。この点の理解が実は伝統的な児童クラブの勢力の側に欠けているのが私には残念でなりません。

<おわりに:PR>
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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
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 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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