放課後児童クラブと地域社会との関係を考えてみます。児童クラブは地域活力を生み出す人材のゆりかごになれる。中
放課後児童クラブ(学童保育)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は、いわゆる民間学童保育所を除いて、必要に応じて行政が地域に設置しているものですが、児童クラブが事業を円滑に実施していることを大前提として、児童クラブの存在価値をさらに高めていくためには何が必要でしょうか。運営支援は、地域社会から必要とされる児童クラブのあり方を今こそ追求するべきだと考えます。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
<児童クラブと地域との連携には人材が重要。その人材とは>
地域社会が独自に行う活動、あるいは行政と地域社会が連携、協働して活動するということは、「カネ」があって、「人」が存在して、存在するそれぞれの組織が「同じ目的、同じ目標」を目指して、それぞれの立場が互いに関係を保ちながら連携しつつ活動する、ことです。なお、ここでいったん協働についてどういう定義がされているかを確認しましょう。例として、さいたま市が令和4年3月に策定公表した「 「市民活動の推進」と「市民と行政の協働の促進」に関する指針(改定版) 」から引用します。
「 協 働 」 と は 、 多 様 な 主 体 同 士 が 、 相 互 の 立 場 や 特 性 を 尊 重 し つ つ 対等 な 立 場 か ら 、 地 域 や 社 会 に お け る 共 通 の 課 題 の 解 決 や 共 通 の 目 的 の 実現 に 向 け て 、 相 互 の 役 割 を 明 確 に し た う え で 、 連 携 を 図 り な が ら 協 力 して 活 動 す る こ と を い い ま す 。
(なお、同指針から市民活動についての定義も抜粋しておきます。
「 市 民 活 動 」 と は 、 地 域 や 社 会 の 担 い 手 と し て の 市 民 や 市 民 活 動 団 体が 、 自 発 的 ・ 自 主 的 に 社 会 の た め に 行 う 非 営 利 の 活 動 の こ と を い い ます 。「 市 民 活 動 団 体 」 と は 、 市 民 が 自 由 な 意 思 に 基 づ い て 集 ま り 、 自 律 的に 活 動 す る 団 体 の こ と を い い ま す 。)
「協力して活動」するためには、他者と協力しようと思う人がいること、他者と協力を実際に行うことができる人、そして目標(=この場合の目標は、自己だけの利益を確保するものではなく、自分を含む含まないを問わず第三者の利益を実現するために存在または設定されるべきものです。地域社会でいえば、防犯や交通安全のための活動、清掃活動、お祭りなどですね)を目指して活動をしたい人や活動をしている人がいる、ということが当然ながら必要です。その3つの要素すべてに「人」が必要です。将来はAIを積んだロボットがある程度、代替できるのかもしれませんがね。また、この3つの要素を満たして活動することこそ、ボランティア活動そのものです。災害復旧ボランティアの方々はその3つの要素を必ず含んでいるといえるでしょう。(ですので、一人で勝手に被災地に行って勝手に自分のやりたいことだけをやっている人物は、ありがた迷惑どころかまったく迷惑な存在です)
この「人」こそ、児童クラブでの体験、経験、活動を通じて、輩出することができるというのが、私の考えです。他者と協力して活動することが嫌と思わない人、他者と協力して活動することに価値を見出せる人や経験値がある人、目標(=上記で説明した、第三者の利益を実現するために存在または設定されたもの)を実現したいと意欲を持ち実際に活動できる人です。なぜ児童クラブで、そのような「ボランタリー精神を理解した人」、つまり協働を理解している得難い人材が生まれるのでしょうか。
<児童クラブで人材が生まれるワケ>
児童クラブと一口にいっても、いろいろな形態があります。よってすべての児童クラブで、協働の考えを理解できる人が現れるものではない、ということは最初に指摘します。
協働の考えを理解できる、あるいは知らず知らずのうちに協働の考えに基づく行動を行っている人が生まれる又は育つ児童クラブは、「児童クラブにおける子どもの育ち、育成支援について、職員と保護者が一緒に考えて設定した<目指すべき育成支援の実現>のために、共に必要な作業を行ったことがある人がいる児童クラブ」です。後段の部分を「共に必要な作業を行う人を構造的に必要としている児童クラブ」としても良いでしょう。
典型的な例では、保護者が運営に参加する児童クラブです。保護者会だったり保護者が役員になることを保障している非営利法人が該当します。株式会社運営クラブだから、公営クラブだからといって、協働に親和性がある保護者が誕生しないことではありません。株式会社運営クラブに実際は存在するかどうかはともかく保護者による連携組織があってクラブ内の活動や事業内容そのものの質の改善に向けて尽力している形態の場合は、知らず知らずのうちに協働活動の素地を作っていると言えます。
その逆もまたあるでしょう。保護者運営のクラブだからといって、「保護者が嫌々ながら参加して運営されているクラブ」では、とても協働、他者と連携して作業をすることに拒否反応しか持てないでしょう。よって運営主体の種類によって決定されるものではなく、「保護者(と職員)が、みんなで、子どもの育ちについて、育成支援について、話し合う機会を設定しているかどうか。その話し合いに基づいて行動できる余地を児童クラブの運営組織として与えているか、保障しているかどうか」が問われるのです。
児童クラブにおける子どもの育ちを考えること、それはいわゆる「保護者会活動」と呼ばれるものですが、それはわざわざ運営支援が定義しなくても当然ながら非営利の活動です。子どもが児童クラブにおいて安全安心を守られて健全に成長することは社会にとって利益のあることですし、保護者としては当然ながら絶対に欠いてはならないことです。児童クラブに在籍している「子どもたち」の育ちや活動について、「保護者みんなで」より良い高みを目指して考えて、活動できる人が活動することは、地域社会における公の活動の最も最小限の単位であると、私は考えています。その地域にいる子どもたちが必要に応じて利用している児童クラブですが、児童クラブの子どもたちが権利を保障されつつ健全に成長することを、地域の保護者つまり大人たちが共に考えて行動することは、地域における市民の協働活動の原点であると、私は考えています。
その活動範囲をちょっと広げれば、あっという間に地域における協働活動です。児童クラブと地域社会、児童クラブと行政機構、児童クラブと地域社会と行政機構の協働活動が実現します。児童クラブにおける、保護者同士の連携の活動こそ、地域における協働活動の原点であり、出発点です。
<児童クラブにおける人材面でのメリット>
児童クラブを地域における協働活動の一つの出発点として捉えるとき、児童クラブならではの利点があります。
(1)それまで他者と連携したり一緒になったりして、社会的な活動をした経験が無い人でも、取り組みやすい内容であること。しかも初心者に最適な条件、環境が用意されていること。その理由は(2)に示しています。児童クラブでの保護者同士の連携活動は、協働活動の入門編といえるでしょう。
(2)分かりやすいこと。保護者にとってその価値が無限大に大きく重要な「我が子の育ち」をベースにしていること。そして子どもが過ごす場で、子どもがどのように過ごすことがより子どもにとって利点があるかを、児童クラブの職員と情報を共有できることによって具体的に思い描きながら当事者同士の立場で話し合うことができること、です。児童クラブの場所で話し合うなら、その分かりやすさはなおさらですね。また、児童クラブで過ごしている子どもに関する具体的な情報を職員からいくらでも提供されるのですから、意見交換や協議、議論の下支えがしっかりしています。具体的に判然としない分野についてあれやこれやと想定、想像しながら議論を組み立てることは迷走の原因にもなりますが、それがありません。初心者にとって分かりやすいことが一番です。
(3)経験者のフォロー、サポートがあること。児童クラブには先輩保護者がいます。前年度、その前の年度に活動を経験した人が在籍している可能性があります。それら先輩保護者からの助言、アドバイス、フォローが期待できます。また職員はおおむねそのクラブである程度の期間、従事していますから職員からのアドバイス、フォローも同様に期待できます。
(4)実感しやすいこと。職員の協力や参加を得ながら保護者が主体的に活動をした結果、それが子どもの育成支援を充実させようとするために行った作業が終了したとき、目の前の子どもたちの反応、感想を目の当たりにすることができ、その結果、「やってよかった」という実感を得ることができます。子どもたちから「楽しかった」「また、やってほしい」と言われると、活動に参加した保護者の多くは「やってよかった」という実感を得ることができるでしょう。それは次の活動への原動力となります。
こういう経験をじっくりと積み重ねていくと、理解や実感を感じにくい活動に関してのイメージが広がって行くことが期待できると私は考えています。例えば、良くある地域での協働活動で保護者の理解がほとんど得られない活動の一つに「朝の旗振り当番」があります。交差点や横断歩道で地域の人が旗をもって子どもの登校を見守るものです。地域の団体から、PTAや児童クラブ、子ども会などに対して「人を出してほしい」と言われて渋々、人を派遣することになることが多いでしょう。この活動、子どもを交通事故から守るという非常に分かりやすい活動ですが、「出勤時間の朝に10分、20分をさかれるのが厳しい」のですから、理解が難しい、進んで協力しようという人が現れないのはむしろ当然です。子どもが交通事故に巻き込まれるリスクを減らすことは目の当たりにできるので分かりやすいのですが、事故が無いことが当たり前ですがほとんどですから、自分が出勤時間をずらしてまで、場合によっては時間単位年休や有給休暇を使ってまで参加したことに対する対価、リターンを感じにくい。よって、「なんでそんな活動に親が駆り出されねばならないの?」「行政がお金を出してガードマンを雇えばいいじゃない」という意見になりがちです。
ですが、児童クラブにおいて種々の活動を体験していくことによって、「子どもたちの日常生活を安心できる状態で維持することが、どれほど大切なことなのか」への理解が積み重なって行くと、旗振り当番のような地道な活動についても、「子どもが安全安心に過ごすことがどれだけ大事なことなのか」の価値を次第に重要視することになるものだと、私は考えています。
<注意しなければならないことも、当然ある>
児童クラブにおける小さな小さな協働活動は、誰しもが当たり前に「やるべきだ」というものではありません。確かに、児童クラブにおける子どもの育ちをより充実させていくことは、児童クラブを利用する保護者であれば、必ず考えてほしいことです。
重要な点は、保護者それぞれの事情や状況、考え方があることです。大事なことだからといって、誰しもに同じように強制、無理強いすることは絶対に避けるべきだと私は考えています。参加する、しないを含めて、保護者それぞれに判断を任せるべきです。ある保護者には、とても他者に打ち明けられない事情があって協働作業に費やせる時間を生み出せないかもしれません。そういう可能性を考慮するべきです。「子どもが喜ぶのだから、所外活動にはすべての保護者が参加して汗を流してください」というのは、逆効果です。むしろ、一緒に考えて活動することの喜びを味わう機会を無駄に減らしてしまいます。
もっといえば、良い悪いの問題ではなく自身の価値観として「保護者同士で活動することに何ら価値を見出せない。やりたくない」という人がいても当然であるという現実をありのままに受け入れるべきだ、ということです。そういう人に対しては「タダ乗り」「フリーライド」と言う批判を向ける傾向がありますが、その批判そのものがムダです。協働で活動することが大好きで価値がある、社会をより良い方向に向かっていくように頑張ることに価値を見出すことと、そこに価値を見出せないこととは、方向性が全く逆ではありますが「人が、そう思っていること」については全く等質です。まして、入所する施設を事実上選べない児童クラブに入所する場合は、「任意性」を重要視するべきです。
それでもタダ乗りする人が許せませんか? では、協働すること、保護者会として行っている活動、保護者同士が連携して行う活動によってもたらされる利益、果実がどれほど保護者自身の、あるいは子どもの、あるいは児童クラブと言う施設そのものに有益であるかどうかを、「協働について無関心だったり反対したりする人」が、ごくごく微小な程度であってもその利益や価値について実感し、理解を感じられる体験、経験を増やしていってください。今まで「そんなことは不必要ですよ」とかたくなに信じて疑わない人であっても、もしかすると、「それって、ちょっとありがたかった」という気持ちを抱くことになるかもしれません。その気持ちが増えていけば、「一緒に活動するって、場合によってはいいことかもしれない」という考えになる可能性はゼロではないでしょう。時間を経ていけば、「私、それだったら、参加してもいいかも」という状況になるかもしれませんから。
(このことは逆方向にも働くことに留意が必要です。今まで一生懸命に好き好んで協働活動に打ち込んでいた人が、何らかの事情で冷めてしまう、嫌ってしまうということもあるのです)
・任意性を絶対的に大事にすること。無理強いしないこと(=保護者会活動、保護者による活動を強制しないこと)
・参加しない人、加わらない人を不利益な立場に追い込まないこと
・参加しない人や加わらない人にも、協働活動の利益はしっかりともたらすこと
・協働活動の利益を受けることを続けていくうちに、参加しない人や加わらない人の考え方が変わる可能性があること
これをしっかり理解しましょう。
次回は、児童クラブの運営において留意したいことなどを紹介して、このシリーズを締めましょう。
<おわりに:PR>
弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。
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弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。
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放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。
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放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。いまのところ、「がくどう、序」と仮のタイトルを付けています。これは、埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分たえられる素材だと確信しています。ご期待ください。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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