学童保育業界の進化発展に必要なことは「学童保育の常識は世間の非常識」を徹底的に追放すること。その3

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 学童保育の世界は、その重大な使命と任務に対する社会の評価と理解がまったく追い付いていません。そのため、学童保育で働く人たちの給料が安く、いつまでたっても人員不足であり人材不足であり、それがさらに質の向上を妨げる悪循環に陥っています。
 そんな学童保育業界でよく言われる戯言(ざれごと)が、「学童保育の常識は、世間の非常識」。なんとも自虐的ですが、実は全くその通り。だからこそ、「学童保育の常識」を徹底的に打破しなければなりません。今週の弊会ブログは、そんな「学童保育の常識」を徹底的に批判し、学童保育の進化発展を願うものとします。

 3日目の今回は、学童保育で大事にされている「遊び」と、盛んに議論されるようになってきた「昼食(お弁当)」について取り上げます。

 学童保育における「遊び」は、最も重要な要素であるといえます。児童福祉法にも「適切な遊び及び生活の場を与えて」と記載があるほど、根本的な要素です。放課後児童支援員はじめ学童保育所で子どもの支援、援助に関わる者は、遊びの重要性を徹底的に理解することが必要です。
 遊びが大事だと何度も教えられ、言われてきていながら、こんなこと、学童保育の世界にありませんか?

「子どもたちが自ら、きょう遊びたい遊びを決めることにしている。でも、意見がまとまらないで時間がどんどん過ぎていく。結果、遊びの時間が無くなってしまった」

 遊びを大事に、子どもたちが主体的に決めていくことを大事にするあまり、子どもに何もかも任せた結果、遊びの時間を十分に確保することができなくなった。
 それ、子どもに「任せた」のではありません。職員が育成支援という業務を「放り投げた」のです。子どもが遊ぶ機会を失わせたことは、職員の怠慢です。子どもたちが、いろいろ言い争いをして話がまとまらないときこそ、育成支援の果たす役割があるわけです。職員が子どもたちの様々な議論が上手に発展するようにアドバイスを適時、発すること。最終的に子どもたちが意見をまとめること。それをゴールとするならゴールにたどり着くように「後ろから」子どもたちを支えていくことが、育成支援の役割です。

 かと思えば、「今日の遊びはこれをします。それを30分やったら、次はみんなでこれをします」と、職員だけが遊びのメニューを決めてしまい、子どもたちを「遊びという作業に従事させている」ことも、極めてよくある光景です。子どもにとって、職員から指示されて行う遊びは、本当の遊びではありません。遊びという作業です。だから、「先生、ドッジボールが終わったから、次は僕たちで遊んでいい?」なんて言われるのです。

 「そんなこと言われても、子どものやりたいことと育成支援を両立させることは、難しいんだよ」と反論があるでしょう。そんなこと、分かっています。難しいからこそ、学童保育で働く職員は、専門性が必要であって、専門性があるからこそ「こんな給料じゃ、やっていけない」と愚痴を言うのでしょう?難しいからといって、専門性をないがしろにして育成支援の本質に向き合わあないような職員は、手取り10万円でも文句は言えません。

 なぜこういう相反することが日常茶飯事なのか。それは育成支援の本質への理解が足りていないこと、そして残念ですが高度に専門性が必要な育成支援の業務を実施できる能力が足りない人員が職に就いていることもあります。この抜本的な解消は構造的な改革を待たねばなりませんが、今の時点であっても、クラブの施設長や主任クラスが育成支援の本質を理解し、常にしっかりと職員を指導すればいいことです。

 遊びを重要視するあまり、反動で軽視されているのが学童での学習時間です。宿題を行う時間を確保しているクラブは多いでしょうが、「やる、やらない」は子どもの意向であり、最終的には家庭で話し合ってください、としているクラブ(事業者)は多いでしょう。「最後の丸付け、音読を聞く、それは親子の触れ合いの時間でもありますから、それは家庭でやってください」としているクラブも多いようです。まして、宿題以外の学習の時間は「学童は、勉強する場ではない」ということで、重要視されていないところが多いようです。

 確かに、学童保育所は学習塾ではありません。ですから、塾のように勉強をしっかり教える必要もありません。ただ、学童保育所は「生活の場」です。生活の場で、子どもが学習するのは当たり前です。遊びを重要視するあまり、家庭学習の機能をまったく担わせない今の主流の学童保育のあり方は、私は違うと考えます。
 保護者のニーズは確実に学習面にあります。ニーズにある程度応じるのは、対価をもらっている事業としては、当たり前です。ニーズを無視して事業ができるのは、「子どもを過ごさせる場が、学童保育しかないから、入るしかない」という、ある意味、独占的な仕組みがあるからですが、ニーズに応じない姿勢でいるのは、税金が元になっている補助金を交付されている事業にとっては問題です。

 1~4年生であれば、週に3日や2日、45分程度の学習時間を確保することぐらい、工夫でできるはずです。さすがに高学年ともなると、登所する時刻が遅くなるので時間の確保が難しいですが、20分ぐらいは確保できるはず。今は、「パプリカ」のような便利なオンラインのホームラーニングシステムが使えます。遊びと学習と、そのメリハリで子どもの学童保育所における生活のリズムも作れます。

 学童保育所で許容される範囲での、できる限りでの学習時間の確保。これこそ、これからの時代の学童保育所には必要です。遊びが重要、それは当然ですが、だからといって、学習時間を全く考慮しないのはそれは違うと、はっきり指摘します。育成支援系の学童保育所はなぜか安心しきっていますが、学習支援系のいわゆる民間学童保育所が、逆に育成支援に力を入れてきたら、多くの保護者はそちらに流れますよ。そうなったとき、育成支援系の学童保育所は、事業として成り立たなくなる可能性が高まるのですよ。時代の先の見通しが分からないのが、大変残念です。

 さて、お弁当問題。これにも、「お弁当を親が作ることが、親子の愛情のしるし」などというもっともらしい理屈が学童業界にまかり通っています。私に言わせれば、「それはもう違う」のです。かつての時代であれば、それでもよかったでしょう。しかし学童保育も時代とともにアップデートが必要。今の時代、親が作るお弁当(それがコンビニ弁当の詰め替えであったとしても)に固執する理由はありません。

 むしろ、保護者の就労状況が厳しくなっていてお弁当を作る時間が取れないこと、また世帯による貧困の差が激しくなっていること、お弁当のメニューに偏りがあって栄養面的にも心配であることから、これからの時代は、学童保育所側で昼食の提供を推し進めるべきです。

 そのための前提として「食材(弁当代を含む)の調達費用は受益者負担とともに行政の補助が必要なこと、昼食調理のための人件費補助を行政が行うこと」が必要です。低所得者世帯には食材の費用負担はすべて行政が行う必要があります。そうです、お分かりですね。学童保育所の昼食提供は、食に対する不安を抱える世帯への福祉的アプローチが本質的に重要であるのです。

 行政からの補助を整えた上で、学童保育所は積極的に昼食を提供するべきでしょう。なお、提供する食事は弁当の配達がすぐに思いつきます。ただし保護者は想像できないかもしれませんが、子どもは宅配弁当の味に「すぐ飽きます」。残飯が大量に出ます。ただ弁当を出せばそれで良い、というものではないのです。短期間であれば宅配弁当でもいいでしょうが、数週間では確実に子どもの不満になります。
 理想としては「学校施設内、学校敷地内の学童保育所が多い地域は、行政主導で、給食センターを長期休業期間中に稼働させて給食に準ずる食事を提供する」こと、もしくは地域にある数か所の運営事業者が協同して昼食調理と配達の組織を立ち上げそこで一括して調理配達すること、が重要でしょう。もちろん、調理施設がそれなりに整備され、かつ、調理に携わる人員がいるなら、自分たちの施設で調理提供することも可能でしょうが、保健所との関係は調整が必要かもしれません。

 すでに八王子や越谷で、学童保育所に対する給食提供がスタートしています。また沖縄では、一括調理と配達を行う事業所が設置されています。いずれも好評のようです。成功事例はすでにあります。そこから学べばいいのです。

 遊びとそれにまつわる学習、そして昼食。いずれも、学童保育の世界ではすでに完成されているプログラムです。ですが、常に進化発展が必要。それを行わず「それがいいんだから、昔からそうなっているから」と進化発展を研究しないことがまさに「学童保育の常識は社会の非常識」なのです。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育所をめぐる構造的な問題について、その発信と問題解決に対する種々の提言を行っています。また、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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