最低賃金額を基本給の額にしている放課後児童クラブでは補助金が出ません。事業者は心得るように。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で働く多くの人は最低賃金レベルの賃金が基本給となっていますが、2024年度からは注意が必要となりました。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<2024年度から?さりげなく掲載されている重大なこと>
 まずは、こども家庭庁のHPに掲載されている資料を確認します。「放課後児童健全育成事業に係るQ&A」です。令和6年4月1日版です。
URL:https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0abf2f27-1ebe-4fa2-bab8-362dd67ffc4b/17d2e39b/20240403_policies_kosodateshien_houkago-jidou_hourei-tsuuti_45.pdf

 児童クラブの事業者で経営、運営に携わる立場の者は当然、確認しているべき資料ですし、正規職員であれば一通り目を通しておきたい資料です。こういう資料は、放課後行財政学を提唱している、旧ツイッター(X)のアカウント「雑木林琢磨」氏がすぐに紹介してくれるのもありがたいです。私も氏のフェイスブックへのアップロードを見て、すぐに気が付いたのです。

 それは、63番目で、ジャンルとしては放課後児童支援員等処遇改善等事業に関して、「賃金改善額の算定方法等」に関する部分のQAです。ここは、私の記憶では過去にはなかった項目です。もちろん、私の見落としの可能性も結構あるので、過去に絶対になかったとは胸を張って言い切れないのですが、手元にある過去のものには見当たらなかったのです。(例えば「学童保育情報2023-2024」の126ページ目)
 記載内容は次の通りです。
「対象事業の制限等(2)に「なお、最低賃金の上昇等に伴う賃金改善分(ベースアップ分)は、当該事業における
賃金改善には含めないものとする。」とあるが、どのように解釈すればよいか。」が問い。
「本事業であれば平成25年度の賃金を基準として、それを上回っている部分が賃金改善額となる。(最低賃金を超えていることが前提)」が回答です。
 記載内容には例示が添えられています。
「平成25年度賃金  770円( 700円)   令和6年度賃金 1,050円(1,000円)
 この場合、令和6年度の最低賃金を超えた上で、平成25年度と比較して賃金は280円上昇しているため、賃金改善額は280円となる。」(例示ここまで)
 つまり、令和6年の最低賃金が1,000円で、事業者が支払う賃金額(例示では時給。最低賃金は時給で決められるからです)が1,050円であり、最低賃金を50円上回っています。よって賃金改善額は、1,050円マイナス770円=280円の上昇となり、処遇改善等事業の実施要件を達成しています。
 一方、ダメな例も挙げられています。
「平成25年度賃金  770円( 700円)  令和6年度賃金 1,000円(1,000円)
 この場合、平成25年度と比較すると賃金は上昇しているが、令和6年度の最低賃金を超えたものとなっていないため、本事業の賃金改善には含めないこととなる。」(例示ここまで)
 つまり、令和6年度の賃金が最低賃金と同額になっています。国はこの場合、単に最低賃金の額に合わせただけ、つまり法令上必ずその額を下回ることができないのでその額にしただけで、職員の賃金改善を行うため、という動機とは考えられないので、処遇改善等事業の実施要件を満たさないと判断するのでしょう。

 なおこれは、「放課後児童支援員キャリアアップ処遇改善事業及び放課後児童支援員等処遇改善事業(月額9,000円相当賃金改善)においても同様の考え方」と、国は示しています。

 つまり、放課後児童支援員等処遇改善事業、キャリアアップ処遇改善等事業、月額9,000円相当賃金改善の処遇改善等事業の、事業者が是が非でも活用したい3つの重要な補助金について、職員・社員・従業員の賃金額が最低賃金と同額なら、この3つの補助金の対象外とする、という極めて重要な国のお達し、ということです。

<最低賃金と同額で働くことが多い放課後児童クラブ業界>
 この国の新たな?考え方について私も賛成です。というか、むしろ示すのが遅すぎたという感想です。実のところ、およそ5年ほど前から最低賃金の引き上げ額が以前の数円単位から桁違いに高額になってきたことで、個別運営やごく少数の児童クラブ運営を手掛ける立場の方は、胃が痛くなるのは事実です。もともと、かなり少ない収入に合わせる形で支出を考えることになり、人件費として確保できる予算もギリギリの水準。半期分(最低賃金は基本的に10月から実施)の賃金上昇分による経費増も頭を抱える要素になるからです。
 もちろん、働く側にとっては必要なことであり、最低賃金額が高くなることは賛成です。ただ、国からの補助金が事業経営の命運を握る児童クラブ事業者にとっては、「補助金もそれに合わせて増やしてくれよ」と恨めしく思うだけです。なお言わずもがな、最低賃金額の引き上げもにらんで年度の予算を策定するのが、事業経営者の当たり前の才覚です。

 最低賃金で職員に働いていただくことが多いのは、上記のようにギリギリの収支水準で運営する事業者が多いというだけでなく、賃金をできる限り低い水準として経費を節約し、一方で利益を確保するという広域展開事業者運営のクラブでは、ごく普通に見られます。広域展開事業者に多いのは、基本給を最低賃金レベルにして、その他の各種手当によって、なんとか常勤職員として踏みとどまれるレベルにまで押し上げるという賃金設定です。基本給11万5000円、職務手当3万円、みなし残業代3万円で合計17万5000円、という具合ですね。

 理由はどうあれ、最低賃金レベルの賃金が設定されていることが多いのが放課後児童クラブの世界です。もちろんこれは早急に改善されねばなりません。

<まさかの事態を避けるために手を打っておくこと>
 今回の国の新たな見解ですが、事業者は当然ながら最低賃金を超える額を賃金水準にしなければなりません。建前としては、1円でも上回っていれば、上記3つの補助金対象として認められます。上記の例で言えば、最低賃金額が1,000円であれば、時給が1,001円であればクリアするということです。ただ、この国の示したものが意味するのは、「児童クラブ事業者は、最低賃金額を超えて、職員にしっかり賃金改善をすること」というものでしょうから、1円でも上回ればいいというものではありません。数十円は当然、できれば100円ほど上乗せが最低レベルという認識が欲しいところです。

 また、国や行政は「補助金の支給に関しては厳しくチェックする」という傾向があります。仮に、2024年4月の職員の賃金は時給換算で最低賃金レベルだったが、こども家庭庁のQAを見て、2024年7月から時給を引き上げて対応を完了した、という場合であっても、「おたく、4~6月は最低賃金と同額の賃金額ですね、だからこれは補助金の支給要件を満たしません。よって年間を通じて補助金は出ません」と取り扱われる可能性は、完全にゼロではありません。少なくとも4~6月分の補助金は当然ながら対象外です。
 このような事態を避けるためには、4月にさかのぼって基本給を引き上げることが必要です。当然、差額分はのちほど支払うということになりますが、万が一のことを考え、最低賃金額を超えるような賃金水準にしておくことが絶対に必要です。

 また、基本給で判断されますから、各種手当を付けることで最低賃金額を上回る場合は、この国の考え方からすると認められない可能性があるでしょう。つまり、「最低賃金額」掛ける「所定労働時間」>「基本給(月額)」はダメだ、ということです。「最低賃金額」掛ける「所定労働時間」<「基本給(月額)」プラス「その他の手当」、ではダメだ、ということです。こうならないような賃金体系にすることは当然、必要です。
 そもそも、基本給に置いて最低賃金額を下回るような事業者は最低賃金法の趣旨を逸脱しています。そういうブラック企業からは、はっきりいって、辞めてしまったほうがよいでしょう。

<おわりに>
 最低賃金がどんどん上昇するのは望ましいことです。結局のところ、最低賃金額が事実上の公定価格として放課後児童クラブの職員の賃金額が決まっている現状では、最低賃金額が上がれば上がるほど、職員の収入が増えるためです。ただ、国には、最低賃金の引き上げ額を補って余裕が充分になるほどの放課後児童クラブへの補助金の増額が必要です。片方で「さあ、どんどん給料を上げて」と言いながら、もう片方では「補助金はあまり増やせないよ」というのは、矛盾しています。
 「給与は処遇改善等事業を利用して引き上げて」というのが国の意向だと感じてきましたが、本来は、運営費の金額を増やすことが必要です。運営費を増やしたら事業者の懐に入ってしまうことを恐れているのかもしれませんが、そもそも、運営費の額が低すぎるので運営が困難であり、まずはここを解決するべきです。仮に、広域展開事業者の利益として運営費分が吸い上げられることを懸念しているなら、そもそも、市場化を推し進めているのは国なのですから、矛盾しています。必要以上の利益確保につながる懸念があるなら、放課後児童クラブの年間収入の何パーセントまでなら事業者本体の利益に繰り入れることを認めます、という、自由経済にはそぐわないですが公共の福祉を優先するための規制をかければいいだけです。他にも手段はあるでしょう。

 そしてもう1つ、QAに今までなかったことが載るのはよくあることですが、国におかれては、重要な方針の変更や新規の設定については別途、通知なり広報で周知を徹底していただきたい。放課後児童健全育成事業は、あまりにも各地域の自治体によって解釈がバラバラです。それを統一するのがQAの役割ですがそのQAにしたって解釈が分かれます。国にはもっと丁寧な情報提供と判断基準の明確な提示を期待します。つまりそれは放課後児童健全育成事業の構造的な強化にもつながることです。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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