放課後児童クラブの立地について、あれこれ。どの場所でも利点があれば今一つの点もあります。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)が設置されている場所などについて、私が思うところを紹介します。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<国は学校施設の活用を呼び掛けていますが>
 放課後児童クラブが開設される場所は様々です。場所によって、それぞれ好ましい点と、もうちょっとなんとかできないか、という点があります。さらにいえば、どのような建物なのか、あるいは、児童クラブ専用施設として建てられた建築物以外ではもともとどのような目的で使われていた建物だったのか、という点で、子どもの過ごす環境が影響されるものです。国は、財産の積極活用=低コスト化から、小学校の「余裕教室」利用、すなわち「放課後子供教室と放課後児童クラブとの校内交流型による子どもの居場所の設置」を積極的に呼び掛けています。なお「空き教室」という言葉は使わない方が良いでしょう。小学校側にしてみれば「空いている教室は、無い。いつ使うかどうかわからない限り、余裕教室に過ぎない」という考え方が染みついていますので。
 ここでは、私の完全な主観(まあこの運営支援ブログはそもそも私の主観ですが)での、児童クラブの立地などの違いについて比較してみます。

小学校建物内施設小学校敷地内専用施設小学校敷地外専用施設(学校と隣接)小学校敷地外専用施設(学校と離れた場所)
児童のリスク・登所時の交通事故危険はないほぼ危険はない(いったん校門から出て別の門から入る場合を除く)道路を横断しないで済む場合、危険はかなり少ない車道沿いに徒歩で登所する際は、危険性が高まる
児童のリスク・登所時の防犯面(不審者との遭遇、通り魔など)ほぼ危険はない危険は少ない校外を徒歩で移動する距離が短いほど危険は少ない郊外を徒歩で移動する距離が長くなれば危険は高まる
その他、登所時の行動や影響悪天候でも安心悪天候でも影響は少ない校外を徒歩で移動する距離が短いほど悪天候の影響は減る郊外を徒歩で移動する距離が長くなれば影響が高まる。ずぶ濡れになる、熱中症になりかける等/移動時に子ども同士でトラブルが起こることも
児童の心理面「放課後=解放された時間」の印象は持ちにくい(心理面の切り替えが困難)/長期休業時には「登校している」感覚「放課後=解放された時間」の印象はそれなりに持てる(心理面の切り替えはそれほど困難ではない)「放課後=解放された時間」の印象はかなり持てる(心理面の切り替えはかなりできる)「放課後=解放された時間」の印象を強く持てる。(心理面の切り替えに問題はない)
児童の過ごし方の利便性学校施設に影響が出ないよう校内の移動等に細心の注意が必要学校施設とは切り離された場所なので制約は少ない学校施設とは切り離された場所なので制約は少ない学校施設とは切り離された場所なので制約は少ない
児童の遊び場の利便性校庭を利用するが、制約が多い(上級生や部活で使用、学校が指定した時間内に限られる)校庭を利用するが、制約が多い(上級生や部活で使用、学校が指定した時間内に限られる)。クラブ専用の場所があれば上記問題は相殺される校庭を利用するが、制約が多い(上級生や部活で使用、学校が指定した時間内に限られる)。クラブ専用の場所や、近隣に使用に適した公園があれば上記問題は相殺される近隣の公園を利用するか、クラブ専用の場所があれば時間的な制約はない
送迎小学校の駐車場を使えるかによって利便性は異なる。スクールゾーンによる規制の影響を受ける小学校の駐車場を使えるかによって利便性は異なる。スクールゾーンによる規制の影響を受ける小学校の駐車場を使えるか、又はクラブ専用の駐車場の有無によって利便性は異なる。スクールゾーンによる規制の影響を受けるクラブ専用の駐車場の有無によって利便性は異なる。住宅地内にあると近隣住宅の影響を考慮して車利用が禁止のところも
保護者の安心感極めて大きいかなり大きいかなり大きい不安と思う保護者は増える
設置コスト相対的に少ないが、改装の程度による程度によるが、校内施設より増す。程度によるが、校内施設より増す。程度によるが、既存建築物を利用できるならコストは減らせる
設置上の問題調理施設をクラブ内に設ける場合は、水回りの関係で設置場所が限定される敷地内を通る水回り(上下水道)によって設置場所が限定される。法令上による制限が出る場合がある(学校建物と合わせた建物の大きさ)小学校とダイレクトの行き来ができない場合は校門から出て徒歩移動となる/近隣住人との騒音や送迎時の道路状況に関する問題が生じる可能性あり交通量の激しい道路に隣接の場合、事故の危険性をはらむ/近隣住人との騒音や送迎時の道路状況に関する問題が生じる可能性あり
耐震・耐火基本的に安心施設の構造による施設の構造による施設の構造によるが、民家利用の場合は耐震性に問題があることも/マンション利用の場合は双方向避難に難点がある場合も

<児童クラブの建物等による影響>
・鉄筋コンクリート等→耐震性、耐火性で安心。小学校建物内の校内クラブやマンション内のクラブが当てはまる。防音もそれなりに大丈夫。クラブ内の掲示物はボードがある場所に限られることも。

・木造建築→耐震基準によるが、この十数年以内に建てられたものなら耐震性に不安は無い。ただし、手抜き工事だった場合はそうではない。筆者の経験でいえば、木造建築を児童クラブに転用する際に行った改装工事で、「筋交い」が中途半端に施行されていたことが判明し、追加の補強工事で100万円前後の追加出費を余儀なくされた。筋交いの有無は重要です。火災対策は、火災報知器が法令通り設置されていることは大前提。

・プレハブ工法→以前のプレハブよりだいぶ進化している。夏は暑く、冬は寒いというイメージだが、かなり改善はされている。それでも他の工法と比べると若干、室温に影響が出ることもあるが、空調が完備されていれば不安は無い。

・小学校教室の転用→普通教室の場合、改装に制約が出る場合が多い。水回りがない場合は調理場など設置はできない。トイレは学校のトイレを利用するとしても、クラブの場所と離れていれば低学年のトイレに不安が出てくる場合がある。特別教室の場合は水回りがある場合があるので調理場を設置しやすいが、設置場を設けるコストを市区町村が出すかどうかは別問題。なお、学校の教室を児童クラブに利用する際は、財産転用の手続きが必要となる(普通教室を賃貸借で借りる場合は転用手続きは不要だが、その場合は教室の改装はできなくなる)

・民家の転用→まとまった広さのプレイルームを確保できない場合がある。部屋割りによって死角が発生する場合がある。調理場は台所が転用可能。男女別トイレの設置が必要となる場合がある。

・テナントの転用→まとまった広さのプレイルームを確保しやすい場合が多い。他の近隣住人との影響に配慮が必要な場合がある。改装ではそれなりに費用がかかることと、退去時にいわゆる「スケルトン返し」が契約で求められる場合、退去でもまとまった費用が必要となる。賃料もそれなりにかかることも。

・専用施設→児童クラブの運営者側の意見を聞かずに建てられた専用施設では、いわゆる「使い勝手」が良くない場合がある。多くの自治体では、公設クラブにおいて、児童クラブの建設や改装での知見を積み重ねているが、それが活用されない場合、見た目の立派さ、見栄えを重視して使い勝手を踏まえた設計や什器備品が備えられることになる。手洗い場の水道の高さが低すぎる、高すぎる、非接触型でない場合、頑丈なものを使用していないとか、玄関や室内の部屋の扉のカギが華奢なものですぐ壊れる(子どもは、バーン!と扉やドアを開閉するので、壊れやすい)、台所のIH器具のパワーが低く、多人数の子どもの分のお湯を沸かすのですら時間がかかる、など。調理場から玄関出入り口の様子が見えない場合、人の出入りを察知することに遅れがでる場合がある。児童クラブの専用施設を建てる際は、児童クラブの運営事業者の意見を行政はしっかりと聞くべきです。

<放課後の豊かさを重視するなら、クラブの場所は考えたい>
 放課後児童クラブの事を、どう考えているかによって、例えば施設にどの程度の費用をつぎ込むか、市区町村ごとに差が出てくるものだと私は考えています。「単なる子どもの居場所。預かり所。おやつは不要。出すとしても、店で購入したスナック菓子程度で十分」という市区町村があったとしたら、それこそ、安上がりで済む施設を準備するでしょう。
 子どもが過ごす生活の場であること、子どもの生命身体を確実に守らねばならない場所であることを考えている市区町村ならば、空調設備をしっかり整え、使い勝手に配慮した、収納スペースがたくさんあって、広いプレイルームを備えた施設を整備してくれるでしょう。

 「使い勝手」は、子ども、保護者、職員(事業者)それぞれに求められる要素です。もちろん、すべての要望を満たす施設はなかなか実現できず、コスト(費用や設置に要する時間)や立地条件との折り合いを考えて、どれだけの使い勝手を優先できるか、慎重に判断することになります。ただしその中でも、「耐震性、耐火性」については確実に不備がないような施設が必要です。「防音性」についても、近隣トラブルを防ぐために必要ですし、子どもの送迎で利用する「駐車場、駐輪場」もまた必要です。道路の関係で車による送迎を禁止している地域もそれなりにありますが、その場合、駐輪スペースをしっかり確保しておかないと、道路に自転車がずらっと置かれてしまい、近隣住人が迷惑をこうむることになります。そうなると、「児童クラブには出て行ってほしい」という反対運動すら起きかねません。

 専用施設の整備は好ましいのですが、不安があります。それは現在、多くの地区で進んでいる小学校等の統廃合です。特に人口が少ない地域で、複数の小中学校を統合して義務教育学校にするという動きが増えています。当然、児童クラブも統合された施設と一緒に整備されますが、「人口が減って学校を統合したのに、待機児童が出る」という皮肉な結果が生じています。それは、統合によって1つの学校単位でみれば児童数が増えたのに、児童クラブの受け入れ人数をそれに見合って増やさない場合に生じます。そのような場合、小学1~3年生を優先して入所させるという対応にもなります。
 学校の統廃合では、その影響を踏まえて専用施設の新設にも消極的になります。国はその点、どれほど理解しているのかいささか疑問です。学校敷地内の別棟の施設に対して補助金を充実させることを始めていますが、そもそも市区町村側で、統廃合の進展が定かではない状態で、学校敷地内に別棟の専用施設を造ろうとはしないでしょう。むしろ、民間事業者への補助を手厚くし、民間事業者の機動力の高さを見込んで新規開所、あるいは撤退も容易な児童クラブの整備にもっと期待するべきしょう。

 保護者や行政関係者にはなかなか理解されないですが、児童クラブを利用する子どもには「学校があまり好きではない」子どももいます。そのような子どもにとって、放課後はほっと安心できる時間です。つまり「学校からの解放」です。それが、小学校建物内のクラブで、学校のチャイムも普通に聞こえる状態であれば、子どもの「学校からの解放」については、その実感が持てにくいのだと、私は感じてきました。小学校から離れれば離れるほど、そのような、学校があまり好きではない子どもの解放感は高まります。夏休みなど、小学校建物内の児童クラブに通うと、夏休みなのに学校に行っている気分、となってしまいがちです。それでは、夏休みなど長期休業期間中の、あの解放感は、なかなか得にくいのです。
 交通事故のリスク回避や防犯面からは、確かに小学校建物内の児童クラブは安心感が高まるのは事実ですし、それは極めて重要なメリットです。よって私も小学校建物内の児童クラブを否定はしていませんし、歓迎はしていますが、仮に、「学校に隣接した敷地外での専用施設」と、「小学校の余裕教室を改装して設けた専用区画」のどちらを選ぶ?と問われれば、間違いなく前者の「学校に隣接した敷地外での専用施設」を選択します。その際は、クラブに学校敷地内から直接移動できるように、専用の出入り口を設置し、校外に出ることは避ける工夫を凝らします。(中には、児童クラブは放課後の施設だからといって、学校敷地内にあるにもかかわらず、いったん校門から外に出て、別の門から再度、敷地内に入ることを求める校長や学校がいます。なんと不合理なことか!)

 子どもが児童クラブで過ごす時間は、大人が思うよりはるかに長いのです。よって、子どもが快適に過ごす時間と空間を備えるため、「学校からの解放度」という観点も、児童クラブの整備の際には重要視してほしいと、私は考えています。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、6月下旬にも寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 親と事業者の悩みに向き合う」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。およそ2,000円になる予定です。正式な情報は随時、お伝えしますが、注文は書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。特に埼玉近辺の方で、まとまった部数をお買い求めいただける方は、萩原まで直接、ご相談ください。その方が個人的にもありがたい(なにせ、ある程度のまとまった部数が手元に届くので)です。発売まで、あと1か月です。どうぞよろしくお願いいたします。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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