放課後児童クラブで働くことは難しい。失敗もたくさんある。失敗は、未来の成功の基礎。失敗から学ぼう!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は、マルチタスク能力が必要な超コミュニケーション労働ゆえ、失敗も数多くしてしまうもの。その失敗を組織が活かすことで、安定した児童クラブ運営をもたらすからです。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<失敗しない人なんか、いない>
 放課後児童クラブの仕事は、世間一般が思うより、はるかに難しい仕事です。児童クラブ職員自身が、難しい専門職に就いているという認識を持っているかどうか私はいささか疑問ですが、とにかく、難しい仕事です。人を相手にする仕事はどの仕事だって、自分が思うように事が進まないのは当然ですが、そうであっても、サービスを提供する側と提供される側との間に、依頼や指示、命令が介在する(例えば、学校や学習塾)のであれば「こちらの指示に従えないのであれば、、、」ということがありえます。ところが放課後児童クラブは、生活面の指導的な要素は皆無ではないとしても、本質的には、児童が主体的に物事を考え、判断し、行動することを職員が支援、援助するという構図ですから、(現実的には、あれもこれも厳命して子どもに何から何まで服従を求める超管理的運営の児童クラブが存在していますが)、子どもと保護者(そして同僚職員も)が、自身の期待するような、思うような行動や展開を取ることは、むしろ珍しいと言えるでしょう。

 ですから、児童クラブとは、仕事上の失敗は、無い方が珍しい職場です。その失敗ひとつひとつに心を痛めて「自分はどうしようもない無能だ、この仕事に向いていない」と自責の念にかられていては、児童クラブの仕事は1年、もたないでしょう。もちろん、失敗をしても何の反省もしない、再発防止策を講じようとしない、職務に関する責任感や真摯な態度を持っていない職員は極めて問題です。実のところ、私が見てきた限り、前者の「自分は子どもの気持ちが理解できない、失敗してばかり」という自己肯定感の低さゆえに仕事につまづくタイプの職員はかなり多く、後者の「失敗しちゃったけれど、それが何か?」」タイプの反省も進歩もしない職員もそれなりの数が働いているのが、人材不足で、どんな人材でも雇用しなければならないこの児童クラブの業界の、大変厳しい現実です。

 失敗は無い方がいいに決まっていますが、「元来、極めて難易度の高い仕事」であることに加え、「働く側の資質、能力の面」からしても、児童クラブは、失敗が多い職種です。子どもの命やけがにつながるような失敗も、なかなか極度に減らすことも難しいのではないでしょうか。報道されてしまう重大な事故は滅多にないとしても、半年に1回程度は耳にします。報道はされないまでも、治療が必要な程度のけがを招いてしまった職員(事業者)側の失敗は、実は相当あるのではないかと想像しますし、おそらくその想像は間違っていないでしょう。なお失敗は必ずしも現場において子ども、保護者の支援に従事する職員だけのことではありません。管理部門、バックオフィスで事務作業に従事する職員においても同様です。この分野では、一般的な事務作業ですので対人支援に必要なスキルはほぼ求められないとしても、保護者や地域の人々から受ける苦情やクレームの対応で失敗したり、クラブの利用時間に応じて複雑に変化する利用料(保護者負担金額)の請求を間違ってしまった、というミスはそれなりに生じているでしょう。

<失敗をどう扱いがち?>
 児童クラブの職員は、私が見てきた限り、素朴で真面目な人がかなりいます。こういう人たちは、失敗に触れられるたびに「私が責められている。責められて当然なんだけれど」とまた落ち込んでしまいます。極度の人手不足の職場では、何より、「退職でさらに人が減ること」を恐れます。人が減れば仕事量がまたさらに増えてしまい、休みも思うように取れなくなってしまいます。何より子どもの支援に重大な影響が出ますからね。よって、職員を追い詰めるようなことは、無意識的ならず意識的にも避けるようになっていきます。

 ここに、児童クラブの世界における「失敗の振り返り」はなかなか重きを置かれない状態が生じます。医療や介護の現場では、相当程度に重大なミス、失敗、インシデントについて、関係する職員を集めて事例を検討する会議、事例検討会議が当たり前のように開かれていますが、児童クラブの世界では、子どもの問題行動に関する事例検討会議は当たり前のように行われていても、業務上に関する問題を取扱い事例検討会議は、一般的ではありません。

 むしろその逆に、成功例を報告し合うことで、業務の質を向上させるためのヒントや考え方を共有しようという内容の会議は大変多く見られます。学童保育業界が各地で定期的に行っている各種の「~学校」「~集会」という研修会で設けられる分科会も、ほとんどすべてが自らの成功体験を持ち寄るものか、自ら全体が一方的に被害や影響を被っている事象を取り扱うものです。これはなかなか、稀有なものです。

 私が想像するに、長らく児童クラブの世界は「スポットライトが当てられない、日陰の存在」でした。自分たちの知恵だけでなく時にはお金も出し合って時代を乗り越えてくるしかなかった。そのような場合は、内向きのベクトルを強くしていかないと、集団の力を形成できません。おのずと、互いに励ましあい、慰め合い、鼓舞し合って前に進むことになります。
 そのような世界では、「人間性に基づくすれ違い、さや当て、つまり好き嫌い、気に入る、気に入らない」という判断基準による人間関係構築の有無はある(実はこれがかなり強烈なのですが)としても、「仕事の失敗に関して何が原因か突き詰めて考える」ことではなく、成功に共感を寄せる、お手本とする、ということを選択して、人間関係に悪影響を及ぼすようなことを避ける傾向にあると、私は感じてきました。嫌味な言い方をすれば、「虐げられてきた者同士が仲良くなって世間の無理解に立ち向かっていく」という状況ですね。

 つまり、児童クラブの世界に置いて、失敗は、「あまり直視しない(したくない)」出来事となっていくのです。

<失敗は成功のヒントという当たり前のことを認識しよう>
 失敗をどう考えていくか。産業界では相当以前から、安全工学という研究分野、学問分野が成立しています。巨大プロジェクトの成否は巨額な損失を生むか生まないかの重大な問題ですから、失敗を防ぐために必要な事象を考え、研究することは、特に冷戦期の時代に高性能な兵器を開発するにあたって重要視されてきたのです。
 産業界を超えて、普段の生活においても失敗をどう活かすかという考えも一般化してきました。一時期、「失敗学」という言葉がブームのように取りざたされました。失敗学についてはネットで検索すればたくさんの説明を見ることができます。ちなみにウィキペディアでは「事故や失敗が発生した原因を解明し、(将来)経済的な打撃をもたらしたり人命に関わるような重大な事故や失敗が起きることを未然に防ぐための方策を追求する学問。失敗の原因を究明し、同じ愚を繰り返さないようにするためにはどうすればよいか、という方策を追求・探求する学問であり、さらに、こうして得られた知識を社会に広めることで似たような失敗を起こさないための方策も探求する学問である。」と説明されています。

 どの分野であっても、むろん児童クラブであっても、失敗の原因を探り、その原因への対策を講じることで、同じような失敗を防ぐことができます。児童クラブの場合は、どうしても人間が相手であり、しかも、「世間の常識に従う」という行動基準を確立できていない児童が相手になることが多いので、同じような原因があっても同じような結果になるとは限らず、むしろ予想外の展開に進むことさえ珍しくはありませんが、それは「人間の感情に左右されることで結論が導かれるタイプの失敗」です。とはいえ、子どもの気持ち、感情で結果が左右される事柄であっても、まったく過去の事例が参考にならないわけではありません。過去の事例を積み重ねていけば、おおよその傾向はつかめるでしょう。
 また児童クラブには、職員の判断ミスによって児童や保護者に深刻な影響をもたらしかねない事象の失敗もあります。職員が遊具の点検を怠った結果、子どもに重大な影響を及ぼしたという事例は、毎年のように起こっています。これこそ失敗学は、このタイプの失敗を充分、カバーできます。

 遊具の点検を怠ったから子どもがけがをした。では、なぜ遊具の点検を怠ったのか。
「もともと点検するということが業務として確立していなかった」
「点検することは職員の業務項目に含まれていたが、使用のつど、毎回点検するという頻度で定められいなかった」
「遊具使用前に必ず点検すると業務項目になっていたが、点検する前に子どもが遊び始めてしまった」
「職員がちょうど同時に起こったトラブルにかかりきりで点検する機会を逸してしまった」
 など、いろいろなパターンがあるでしょう。それぞれにパターンにはそれぞれの失敗、つまり重大な結果をもたらした要因があり、その要因をどうやって防止できるかの方策もまた、立てられるはずです。その「失敗をもたらした要因を防ぐ方策を確立する」ことが失敗学の重要な要素なのです。
 さらには、失敗があってもその失敗が最終的に危機的な段階の失敗まで悪化することを防ぐこと、安全工学の考え方ですが、このアプローチも重要です。

 いずれにしても、重要なのは「失敗を起こした人」を責めるのではないこと。「失敗をもたらした要因」に迫って要因を消し去ることができる要素を見つけることです。どうも、人間関係が大変濃い職場である児童クラブの現場は、なぜか「失敗を起こした人(の能力、資質)」をやり玉に挙げる雰囲気が強いように、私には感じられます。「そういう失敗は、あなたぐらいしか、しないと思いますよ」と、失敗の原因を当事者の能力に起因すると決めつけてしまう考え方は、その業務に置いてなんら進歩、発展をもたらしません。それこそ、児童クラブの現場が一番恐れる「退職につながるモチベーションの喪失」を引き起こしますね。むしろ、容易にそのような事態を招くことを経験則的に知っているからこそ、失敗を取り上げて迫るという時間を持つことを、児童クラブ職員は本能的に避けているのかもしれません。

 このことは、運営主体、すなわち事業者が、明確に、事例検討の会議の狙いを定め、会議の進行と展開を、「失敗の要因解明と対策構築こそ生産性向上につながる」ことを理解している有能な人物に任せることで、変えることができます。児童クラブ運営事業者は全職員に、失敗から我々は学んでいくことを徹底的に周知し、失敗を取り上げて失敗の本質に迫ることが、業務の質を開園し、子どもの安全安心な生活空間を保障することをもたらすのだ、という理解を全職員に植え付けることです。

 例えば、ある失敗の要因を考える事例検討会議を開くときは、次のことを心がけねばなりません。
・会議の目的は、再発防止策の構築であることを常に確認する。失敗に関わった人たちを責める場ではないことを全員で理解し共有する。
・取り上げるのは、発生した事実、つまり「ファクト」。失敗に関わった人たちの心理状況は当然取り扱うとしても、その人たちの個々の性格や言動を取り上げて批判することはしてはならない。会議の主催者は、厳にその方向に進むことを防ぐ。
・失敗に関わった当事者が出席することもあるが、その場における発言を基に新たな叱責、処分はしてはならない。
・会議で得られた知見は組織全体で検討するが、失敗に関わった人の評価を共有する必要はない。それは人事に関わる立場の者だけに限られる。

 失敗から進歩ができる事を学べることの理解が広まることは、その組織において、個々の職員や職員のグループが失敗を隠すような風潮を無くすことにもつながります。失敗、ミスの伝達や報告の遅れは、往々にして事態の後始末に影響を及ぼすので、どの組織も「ほう・れん・そう」をそれこそ徹底的に呼び掛けていますが、それは報告、連絡、相談が、なかなかうまくいかないことの裏返しです。ただ、失敗を前向きに活かしていくんだ、という意識が全職員で共有されていれば、「失敗をしちゃった。報告したらきっと怒られる。叱られる。評価が下がる」と職員が委縮することを減らせるでしょう。
 なお、この反作用、副作用として「失敗しちゃった。とりあえず報告ね。怒られないし、むしろ、失敗を早く教えてくれてありがとう、と言われるから安心」という、「ミスを起こすことへの緊張感が減る」ことが考えられます。このバランスは難しいのですが、失敗、ミスによって「もたらされた結果」は、社会人である以上、事業に従事する職員である以上、「結果責任」は、その失敗がもたらした影響の程度の結果に応じて、責任を取ることは当然です。失敗を隠さず直ちに事業者に報告するのはよいといて、その失敗の結果、事業運営にそれなりに影響を及ぼした場合は、その影響に応じて事業者から対応を受ける、つまり「処分」を受けることもまた、当然です。このことも忘れずに周知することが必要です。「失敗をした、あなた自身の人間性を責める、見下すことは絶対にない。あなた自身が行った失敗の結果に応じてあなたが責任を問われることは、社会人であり、雇用労働契約のもとに業務に従事している以上、当然ながら発生する」という区別をしっかりと伝え、理解させましょう。また職員は、混同しないように冷静に考えてください。

<おわりに>
 誰だって失敗は、したくありません。失敗によって子どもや保護者が予想外の迷惑をこうむることに、心を痛めることはつらいです。何より、上司や組織に怒られることは嫌、怖い。その結果、その後はずっと見下されたり、冷たく扱われたりしないだろうか不安になります。そんなことを平然とする職員や役員たちで構成される組織は、健全な組織ではありません。事業を司る者は、事業運営および事業組織の経営の責任を負っている訳ですから、健全な組織であることを常に心がけねばなりません。おのずと、失敗にどう向き合うか、冷静に、客観的に、合理的な態度で対応ができるはずですし、対応できないようであれば、事業を司る立場にいてはなりません。
 自らのした失敗、それが個人か、理事会というような会議であろうが、失敗に関わった者は、失敗は失敗として受け止めてルールに従って処理をすることです。その失敗を繰り返さないように振り返り、検討し、再発防止策を構築することが何より重要です。それができない組織であるなら、組織そのものが不健全な状態であると認識し、組織の再構築から取り掛かってください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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