今回も特別版。異端の意見と無視されようが私は言う。放課後児童クラブは子育てに奉仕する存在にすぎない

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 さて私事で恐縮ですが、新型コロナウイルスに感染してしまい、今もなおいろいろなことができにくくなっている状況です。(業務自体は自宅でやっているので他者との接触はありませんので、ご安心ください)本当に、単なる風邪ではないですね。鎮痛剤を飲んであちこちの痛みを軽減させている状況が続いています。

 さて新型コロナ流行を受けて国が突然実施した臨時休業の措置に、次のような声をたくさん聴きました。それは放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で働く支援員、補助員(以下「職員」)の偽らざる本音でしょう。最も同じような意見は実は常に存在していますし、今もなお存在しています。

「感染症が流行して危険な時期に、どうして親は朝から夜まで子どもを学童に連れてくるのか。子どもが大事だったら、親は仕事を休むなりなんとかして、家で過ごさせるようにすればいいのに。子どもがかわいそうだ」

 このような声は以前も今も、公には語られないですが、保護者や運営事業者がいない場所では職員が平然と交わされています。今だって、朝から子どもを受け入れる際に「長時間、子どもが学童で過ごすのは子どもにとって大変。どうして親が面倒をみようとしないのか。学童に預けっぱなしでいいのか」という声は「絶対に」出ているでしょう。

 また先日、平日朝7時から子どもを小学校で受け入れることとするという大阪府豊中市の事例が報道され、それに対してSNSでは圧倒的多くの投稿が「朝7時から学校で過ごすこどもがかわいそう」「朝7時から預けられるより、時短勤務や育児休業を使って朝から行かざるを得ない状況を回避するべきだ」という厳しい批判で満ち溢れました。なお、参考までにその記事を一部引用します。NHKの関西NEWS WEBで3月4日の12時7分更新の記事です。
「小学校入学に伴って子どもを預けられる時間が短くなり、保護者が仕事を続けにくくなるいわゆる「小1の壁」に対応しようと、大阪・豊中市は、来年度(令和6年度)から市内すべての小学校で朝7時に校門を開放し、登校時間まで児童を預かることになりました。」
「市内すべての小学校で、午前7時から校門を開放し登校時間の午前8時まで体育館などで自習をして過ごしてもらうことになりました。教員の長時間労働につながらないよう、各校には民間の見守り員を2人ずつ配置するということです。」(引用ここまで)

 本ブログの趣旨から外れますが、この記事では、いわゆる「小1の壁」が、放課後児童クラブとは関係がなく、小学1年生の子どもをもつ子育て世帯のワークライフバランスに重大な影響を及ぼす事象すべてに対象範囲が広がっていることです。小1の壁の文言としては、初めて見た用法でした。これもいずれ改めて考察しましょう。

 私は保護者の立場を経て運営事業者になった者です。だからといって保護者の立場に一方的に肩入れはしていません。ただ、朝から子どもを児童クラブに通わせようとする保護者に向けられる職員の密かな感情、「どうして家でもっと親子の触れ合いを持とうとしないのか。どうして子どものために仕事を短くするなど折り合いをつけて育児に向き合おうとしないのか」というような感情については、徹底的にバツを付けます。むしろこう言いたい。「思いあがるな」と。「放課後児童クラブ、学童は、必要としている人がいるからこそ存在する仕組みだ。必要とする人が存外増えてきたので補助金も出ているのだ。それを、子どものためだからクラブを利用するなと、よく言えるな」と言いたい。

 まず、極端な事例を通常の多くの事例とごちゃまぜにして考える思考回路をやめてほしい。私も現実に見てきましたが、確かに育児をほったらかしで自分の楽しみを優先し、子どもをクラブに託してその時間を遊びまわっている保護者はいます。そういうケースには確かに「もっと子どものことを優先して考えよう」と考える気持ち、私は否定しません。ただしこのようなケースは別のアプローチ、つまり保護者が抱えている心理的な問題を解決することが求められるケースがほとんどです。育児放棄、あるいはそれに近い状況は、別の手段で解決することが必要です。単に、子どもと一緒にいることが親の務めでしょ、と説教しても効果がありません。

 圧倒的多数の一般的なケースは、「朝から子どもをクラブに連れて行かないと、生活が成り立たない」ということです。勤務先の会社で育児短時間制度が整っていないとか、人手不足で朝早くから勤務に就くことが求められているとか、長い時間働かないと生活を支えるだけの給料、報酬が得られないからやむを得ないという事情があると想像できます。あるいは「自分が果たさないと全うできない重要な業務だから私は責任をもってその仕事に取り組みたい。だから朝から子どもをクラブに、学校で受け入れてくらないと困る」と思っている保護者もいるでしょう。
 それぞれに、「本当は子どもともっと長い時間、一緒にいたい。でも、仕事をまっとうするためには、仕方がないんだ。給料を維持するには仕方がないんた」という事情がおそらくあるのです。実は私もそうでしたし。

 そのような世帯は、育児短時間勤務など、できることはあらかた考えたり調べたり、試そうとしたりしています。そういう事情を知ってか知らずか、「朝から子どもをクラブに連れてくるような保護者はダメ。私はそんな親にはなりたくない」とか、「朝7時に学校に子どもを活かせる親が間違っている」という意見は、子育てしながら働く立場の厳しさを理解しきれていない。あるいは教職員関係者なのか、朝7時から学校で子どもを受け入れることに激烈な拒否反応を示す投稿も多く見られましたが、その怒りを子育て世帯に向けることが間違っている。

 中小企業、零細企業を含めて、柔軟に使える育児短時間勤務制度の充実を国策で図るというような、社会の制度を子育てがしやすくなるように変える必要があることを理解するべきです。それらが充実したところでも、「その人しか任せられない」重要な業務に就く子育て中の保護者や、中には「子育ても大事だけど、私は職業生活のさらなる充実を追い求めたい」という人だっているのですから、そのような人たちが安心して就労等に打ち込めるような制度を、国や市区町村は早急に整えるべきです。

 朝早くから子どもをクラブや学校に連れて行かねばならない保護者がダメなわけではない。社会に現実に、朝早くから子どもの居場所が必要な状況が存在しているからです。事実として存在することを「それがダメだ」とただ批判をしているだけでは何も解決しません。まずはその事実で困っている人を助け、支えながら、その事実を生み出す要因に問題があるのならその要因の解消に取り組むよう世論を動かしていくことです。
 朝7時から子どもの居場所が必要な子育て世帯があれば、児童クラブが必要ない子育て世帯だっています。当たり前です。そして放課後児童クラブは、もっといえば放課後児童健全育成事業という概念が成立していない時代に保護者たちから自然発生的に生まれてきた学童保育は、保護者の就労を保障するために子どもの安全な居場所がほしいという切実な願いから生まれた仕組みです。朝7時から子どもの居場所が必要だ、というのは、実は学童保育が自然に発生したことと同じ仕組みですよ。それを踏まえて、児童福祉法にも、保護者の就労等、という文言が含まれていると理解できませんか。しかも昨年末に公表された「放課後児童対策パッケージ」には、朝の児童受け入れについて取り組む旨の記載があります。それだけ社会的なニーズが高まっているということです。その対策をするのは行政としては当然のことです。

 子育てをする保護者が、子育て中の保護者の労働者としての存在を、労働力を、この社会が必要としているからこそ存在しているのが放課後児童クラブです。それを「私たちは子どもたちの育成支援の観点から言うのです」と「長時間、子どもをクラブに預けるような親子関係は決して良くない。親の質が下がっている」と言ってしまう学童保育業界に多い意見は、私は本当に腹立たしい。なんだかんだ「子どものため」という「子どもを錦の御旗」にして自分たちの密かな要求を貫徹しようという目論見は、私は徹底的に打破したい。もし「子どものために、親子は長い時間、一緒に過ごすことがいいんですよ」と言いたい人は、公費(保護者)が一切支給されない、保護者が自分の選択で入所を選べる民間学童保育所にでも就職してください。(もっとも、そちらのほうが就業時間がとてつもなく長い世帯の受け皿として機能している実態がありますから、皮肉なものです)

 子育てをしやすい社会に変えていくことは当然必要です。多くの子育て中の保護者が、もっと余裕をもって育児と仕事の両立ができるような社会になること、多くの企業や組織が余裕をもたらせる勤務体系を導入すること、そんな時代が早く来てほしいと私も希望しています。ただしそれは限界がある。今はまず、働く人を支える存在としての児童クラブの使命感をもっと認識して今の問題の解決に全力で取り組むことです。

 子どもの安全安心な居場所を作り、健全育成に資することで社会に貢献し奉仕する重要な児童福祉の存在であること、育児と仕事の両立が安心して実現できるよう保護者を支えること。これら重大な使命を遂行してこそ、児童クラブに対する社会的な評価がさらに高まります。そのことを前向きに受け止めてほしいのです。むろん、その使命をしっかりと遂行できるに十分な賃金保障や職業への評価が職員にはなされていませんが、それはそれで別途、大至急、国やこの社会が解決しなければならない問題であるのは言うまでもありません。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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